今日も、恋人のシャツの匂いをかいで眠る恥ずかしい夜を。【カツセ マサヒコ】

今日も、恋人のシャツの匂いをかいで眠る恥ずかしい夜を。【カツセ マサヒコ】

外出自粛が続く中、恋人と「会わない」ことを選んだふたり。けれど、そろそろ自分たちばかりが我慢するのも限界……という気持ちになっている人も少なくないかもしれません。

今回はそんなふたりへ、Twitterでの”妄想ツイート”が人気で『タイムラインの王子様』の異名を持つ、ライターのカツセ マサヒコさんに寄稿していただきました。

ウイルスが蔓延する世界で、引き裂かれた二人、なんて

2月末に会ったときに置いていったシャツを、もう何カ月も返せずにいる。どうせまた会えるから。そんな軽い気持ちでいたら世の中が激変して、恋人と私は会えなくなった。ウイルスが蔓延する世界で、引き裂かれた二人。それだけ聞くと、なんだか陳腐なSF映画みたいだ。

電車に乗れば2時間もかからない。だから大袈裟なことじゃない。会いたいなら会いに行けばいい。でももしも、自分が感染者だったら? 大好きな人を、死に追いやる可能性があるとしたら? 私たちは何度も話し合って、また思い切り抱き合えるその日まで、会うのをやめることにした。たとえ周りの友人たちが、どれだけ自由気ままに濃厚接触を楽しんでいたとしても——。

SNSのフォロワーが10万人を越えたくらいから、公式LINEを始めました。するとそこに、登録した人たちから日々の出来事が送られてくるようになった。最近は、上記のようなエピソードが増えています。外出自粛期間が長引いて、精神的にキツくなっている中で、ひたすら辛抱を貫いている人たちの叫びです。

自分は我慢している一方で、ちょっとコンビニまで出かけてみれば、お揃いのスウェット姿で楽しそうに買い物をしているカップルを見かける。SNSを開けば「同棲していてよかった」という声が目に飛び込んでくる。そんな中で電話や画面越しに映る好きな人や家族に話しかける日々は、精神的にかなりしんどいんじゃないかと思います。終わりがハッキリ見えない中、それでも戦い続けている話を聞くと、「ここに、こんなに頑張ってる人がいるぞ!」と、声高に叫びたくなります。端的に言って、勇者だ。恋人を救うことが、世界を救うことになっているこの世の中ですから。

「会いたくても会えない人たち」は、正しく言うならば「会えない」んじゃなくて、「会わない」を選んだ人たちです。いつか元気で会えるように、できるだけ後悔しないように、今は「会わない」を選べる、理性的で長期的視野を持った大人だと僕は思っています。

勇者たちに、穏やかな夜と再会の日を

みなさんにも、過去には燃え上がってすぐ灰になる刹那的な恋があったかもしれませんし、会えない時だからこそ、会うことに妙な背徳感を覚えて盛り上がるセックスもあったかもしれません。でも、そういった選択肢を取らずにいられる今の二人は、「会わない」という価値観で一致できる、素晴らしい関係を築けているのだと思います。きっとお互いを本当に大切な存在と思えている。だから「会わない」を選べる。「会わない」は今、相手を大切に想う気持ちそのもののような気がしてなりません。

早く会いたい。あの首筋が、あの指先が、あの柔らかい髪が、あの抱き合ったときのぴったりと重なる感覚が、今すぐ欲しい。そう思いながら、部屋にあった恋人のシャツの匂いを思いきりかいで眠る夜。誰にも言えないそんな恥ずかしい夜が、きっと今日も世界を救うための一日をつくっています。

「会えない時間が愛を育てる」とか、綺麗事はもう聞き飽きたはずです。会いたいものは会いたいのだから、そこは素直に伝えていい。でも、それでも会わない二人は、きっとどんな言葉も敵わないほど、お互いを求める気持ちが強くなっていくのでしょう。会えない期間に気付いた優しさもあれば、会えない時にこそ浮き彫りになるデリカシーのなさもあるのかもしれません。それすら飲み込めるほど、どうか大きな愛で、いつか会える日を待っていてほしい。

——数カ月会わない間に、とびきり理想的な体型になれたらと思ってた。でも長いこと家にいると、食欲も睡眠欲も性欲も妙に強くなる日があったりして、備蓄するための食材が一夜にして消えてしまうこともある。全然、理想通りじゃないや。それでも、横で笑ってくれてる人がいる。抱き合ってみれば、相手だって体つきがだらしなくなっている気もする。しょうがないよね。理想的になんかなれない。それでも私たちは、笑い合えてる。

そんな風に思える日が来るように、何よりも、お互いを信じて、今は待つ。受け入れる。認めてあげる。広い心を持って、いつか気兼ねなく傍で笑いあえる日が来ることを、一緒に願っています。今日も、恋人のシャツの匂いをかいで眠る恥ずかしい夜を過ごす勇者たちが、穏やかに過ごせますように。

(カツセ マサヒコ)

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