松居大悟×ジェーン・スー第1回

冴えてるか冴えてないかも自分で決めたい…映画『くれなずめ』で描いたもの【ジェーン・スー×松居大悟】

冴えてるか冴えてないかも自分で決めたい…映画『くれなずめ』で描いたもの【ジェーン・スー×松居大悟】

コラムニストのジェーン・スーさんが会いたい人と会って対談する企画。今回のゲストは、5月12日に最新作『くれなずめ』が公開された松居大悟(まつい・だいご)監督です。全3回。

同世代や上の世代が無理している姿を見てきた

ジェーン・スーさん(以下、スー):新作映画『くれなずめ』を拝見しました。めちゃめちゃおもしろかったです。松居監督作品をすべて見ているわけではないものの、僭越(せんえつ)ながらこれは突き抜けるものがありました。

松居大悟さん(以下、松居):うれしいです。ありがとうございます。

スー:こう来て、ああ来て、までは想像つきましたけど、後半からの畳み掛けがすごかった。これで終わらせてたまるものか、という監督の意地を感じました。

松居:死んで終わりじゃないぞ、と。

スー:そうそう。ありきたりな終わりにはしないぞという気概。

過去に私たち、松居さんが2015年に出した『さあハイヒール折れろ』という本で対談してまして。『松居大悟恋愛対談集』でしたね。あそこから我々はどう変わったのか、変わってないかを話せればと思って今回お声掛けしました。監督デビュー作の『アフロ田中』(2012年公開)を撮ったのが28歳くらいでしたか?

松居:25です。

スー:若い!! 今から思えば大役ですね。原作はのりつけ雅春さん、主演が松田翔太さん。

松居:あの時はそんなに大きい話とわかってなかったですね。デビュー作だったし。

スー:もともとゴジゲンという劇団を大学時代からやってらっしゃった。

松居:あとはドラマの脚本をちょっと書いたり、とかです。

スー:そこからいきなり人気漫画『アフロ田中』の映画化。10年前は日本もまだお金があったのかなぁ。新しい若手に撮らせようという空気がありましたけど。

松居:主人公と同世代の目線で撮ってほしいと、劇団公演を見に来たプロデューサーにオファーされて。

スー:あの時25歳か。最初にお会いしたのは三宿にあったクラブのWEBでしたね。コロナもあって、先日惜しまれながら閉店してしまいましたが。「申し訳ナイト」というイベントで。10年前だと、私は37歳とか? まだ本も出してない頃だったような。

松居:スーさんは「シケ金」(コミュニティFM「ORDINARY FRIDAY〜つまりシケた金曜日〜」)とちょっとTBSラジオやってるとか、その頃でしたね。

スー:あのまま二人とも芽が出ず朽ち果てていた可能性もあるわけで、よくお互い生き残ったなあというのが正直な感想です。この間に名前を聞かなくなった人は少なくないので。

松居:いっぱいいますね。

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スー:松居さんはこの10年で、めきめきめきめき頭角を現しました。映画や舞台だけでなく、テレビドラマ『バイプレイヤーズ』の監督をやったり、ラジオのレギュラー番組(J-WAVE「JUMP OVER」)を持ったり。それを自分のフィールドに還元もして、『バイプレイヤーズ』は映画にもなったし、ラジオをテーマにした舞台も作った。最初に出会った頃には想像もつかないくらいのご活躍です。生き残れた理由について、以前ちらっと「無理しなかったからだと思う」と言ってましたけど、そこを詳しく聞きたくて。

松居:僕の同世代とか、上もそうですけど、無理していってる姿を結構見てきたんですよ。

スー:無理するとは、具体的にどういうこと?

松居:「こういうふうにしてください」という周りの要求もそうですし、自分たちがやってるものを大きく見せたい、もっと広く届けたいとなったときに、自分の足場をちょっと忘れて三段跳びしようとする感じですかね。

スー:作りたくもないものを作るってこと? それとも代理店の言うことを全部聞くってこと?(笑)どっちもか。

松居:両方ですね。しかもそれが無意識に自分のそばにいる。

スー:無意識は怖いな……。意識のあるところで「これは俺の企画じゃないけど、やったほうがいいんじゃないか」って心が揺れたことありました?

松居:ありましたよ。これやったらたくさんの人が見てくれると思って、背伸びして。けど結局は企画が頓挫して、後で思うと、やるべきことをやりたいことにすり替えられなかったという、自分の底力が足りなかったのもあると思います。

スー:ああ、やり遂げるにはモチベーションを変換する力が必要になるのか。と同時に、松居さんがずっとやってきた「冴えない男群像劇」は途中で頓挫してないですよね。 

松居:いえいえ、してるのもたくさんあります。映画って、出資者が直前で撤退とかよくあって、そういう時、小さい規模でもやろうとか、お金を出してくれる人を別に探そうとか、意地でやるかどうかに違いが出ますね。自分がどうしてもやりたいものは、なんとか食らいついていく。

20代後半は特にきつかったです。デビュー作はヒットしたからよかったけど、そのあと27,28,29あたり。途中で出資者がいなくなって、自分で別のところ探して「お願いします」って頭下げて、それでも興業として当たらないとか。名前がないし、若手でもなくなってきて。30代になってようやくやりたいことをやれる位置に来れたような気がします。ちょっと遠回りしました。

スー:デビューが早かったからね。すごいですよ。『バイプレイヤーズ』だって、面白い作品としていろんな人から名前が挙がってきて、見てみたら「松居さんだ!」って。誇らしかったです。

松居:うれしいです。運と縁ですね。

スー:もちろん運と縁もあるけど、そこに至るだけの努力をしてるし、結果を残せるかはその人の実力次第という部分も否めないですよね。

松居:12本目が『くれなずめ』、11本目が『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら』(全国公開中)で。そこまではどれも「アフロ」より小さい規模です。大きい話は途中で全部なくなって。もうちょっと無理したらやれたかもしれないけど、そうしたら違う未来だった気もしますし。

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