松居大悟×ジェーン・スー第1回

冴えてるか冴えてないかも自分で決めたい…映画『くれなずめ』で描いたもの【ジェーン・スー×松居大悟】

冴えてるか冴えてないかも自分で決めたい…映画『くれなずめ』で描いたもの【ジェーン・スー×松居大悟】

ホモソーシャルを朗らかに描くのが難しい時代?

スー:『さあハイヒール折れろ』刊行時の2015年当時は、ホモソという言葉がまだそんなに使われていなかったように思いますが、最近は男性のホモソーシャルを朗らかに描くことが難しい時代になってますよね。そのあたり、時代性と作品性の相性についてはどんなふうに考えてます?

松居:自分はむしろ合わせないように、という考え方ですね。

スー:合わせないのが今は命取りになりません? 私はそれで悩んでいて。

松居:合わせにいって、「あー時代を描く感じね」となってそもそものテーマがぼやけてしまうなら、初心のテーマをきちんと描く。もちろんそれを見て嫌な気持ちになる人はいてほしくないので、そこはきちんとケアしつつ、個人の感情をちゃんと描くほうが社会のことが伝わるように思います。

10代20代の喜びの感覚とか、悲しい実感とかの今の若者のものさしを、上の世代の人たちは関心を持たずに、自分たちの子供時代のものさしで描いてて、それは違うなって思うので。そこら辺はめっちゃ意識してますけど。

スー:「くれなずめ」は、男たちの友情が「モテねー」で強化されてないところが好きです。「モテねー」という共通言語で自分たちの結束を固めるというフェーズは今の時代にはあんまりない気がする。自分の感覚と時代がずれてきたと思ったりすることありますか?

松居:ずれてきたとは思ってないんですよ。「モテねー」で盛り上がるのは、目的ではなく結果の気がして。結果的に「モテない」と言ってるやつらがおもしろいから描いていたし、今はもう少し目的というか根底に寄り添ったほうが人物が立体的になると思って。もしかしたら、それが今の雰囲気に合ったのかな。

スー:彼らの関係性は比較的イーブンに見えるので、見ていて気が楽でした。けど、この先どうなるのかなとは思った。40歳、50歳になったら経済状況も家族構成も変わるし。そこにうっすら順位がつけられるのか、そういうところから一切解放された状態で付き合っていけるのか。

松居:難しいですね。順位とかついたら友達じゃない気がしますね。

スー:そうなんですよ、友達の中で順位がついたら友達じゃない。でも、あいつのほうが稼いでるとか、あいつのほうが自分の夢を実現してるとか、そういう若干の比較意識は友達関係にもありますよね。流動的なうちはいいけれど、それが年齢で固定されると関係維持が難しくなるんじゃないかとも思って。非マッチョであることが非ホモソの保証にはならないので、どんな集団にも起こり得ることだとは思うのですが。

今は男性のホモソに対して風当たりが強いけど、どういう点が問題なのかはあまり話し合われてないように思います。そうなると、結局届けたいところには届かない。創作物は、それを説教くさくなく伝える手段になり得るわけじゃないですか。

松居:確かに。時代を描くもの、物語を描くもの、人間を描くものなど作品によってテーマは違えど、そこの問題意識を自然と持てるような創作がいいですね。

スー:ヒエラルキーの外にはアウトローという盤石なポジションがあった時代もあるし、あとヒエラルキーの外に別のヒエラルキーが存在することもあって。ヒエラルキー嫌いな人たちの中でのミニ・ヒエラルキーというか、「ホモソ外ホモソ」というか。どうして、いわゆる通常のマッチョ・ヒエラルキーから抜け出た先で同じ構造を作るのか、謎なんですよ。

松居:なくならないんじゃないですか?

スー:なんでだろう? だってそれを嫌だと思ってるはずなのに。

松居さんが描くヒエラルキーの外にいる人たちは、アウトローの一匹狼ではない。横並びのうだつの上がらない仲間の尊さみたいなものを描いてますよね。その人たちがどうやって大人になっていくのか、これから松居さんが描いていくことなのかな。冴えなくてもいい、みたいな。

松居:冴えてるか冴えてないかも、自分で決めたいですね。

スー:なるほど。他者にジャッジさせないということね。私の「オバさん」と同じかも。これから先、松居さんが紡いでいく物語が楽しみです。

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※次回は5月17日(月)公開です。

■映画情報
『くれなずめ』公開中
【監督・脚本】監督・脚本:松居大悟
【出演】成田 凌 若葉竜也 浜野謙太 藤原季節 目次立樹/飯豊まりえ 内田理央 小林喜日 都築拓紀(四千頭身)/城田 優 前田敦子/滝藤賢一 近藤芳正 岩松 了/高良健吾
【クレジット】 (C)2020「くれなずめ」製作委員会
【配給・宣伝】東京テアトル

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