女社長の乳がん日記〜乳首形成物語②〜

いつも心に瀬戸内寂聴を…女社長、乳首形成手術を受ける

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いつも心に瀬戸内寂聴を…女社長、乳首形成手術を受ける

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女社長、瀬戸内寂聴になる

2017年11月5日(日)

乳首形成手術は11月8日に行うこととなった。

奇しくも、乳癌外科手術をしたのは1年前の11月8日。ちょうど一年前におっぱいと共にがん細胞を取り除いてもらって、形成手術の一時再建をやったのだ。外科手術は2週間の入院が必要だったため、全ての仕事を前倒したあの忙しい日々が脳裏に酸っぱく蘇る。

しかし、今回私が選んだ乳首形成手術方法は日帰りでも可能な簡単な手術らしい。

「川崎さんは安静にしていてと言っても、家に戻ったらいろいろ動きそうだから一泊したらどうですか?」という、先生の有難きお言葉&私の絶大なる信頼のなさにより一泊手術入院と相成った。

そして、本日は手術3日前。日経主催のセミナーで「お金と時間、どっちを優先するべき?~色んな選択肢があるからこそ、わたしはこう生きる~」という題名で、『日経ウーマン』編集長の安原ゆかりさんのナビゲートで講演させていただいた。

私の講演は今まで「キャリア形成」や「マネジメント方法」「仕事と家庭の両立」「働く女性の婚活」をテーマにしたものが多かったのだが、乳がんを罹患してからというものオーダーも芸風も変わりつつある。

「もしかしたら死ぬかもしれない」「もしかしたら働けなくなるかもしれない」と途方に暮れた経験をしてしまったが故、若い女性たちを前にすると伝えたいことが多すぎて、私の中の瀬戸内寂聴が暴走してしまうのだ。

今日も、有限である「時間」「お金」そして、有限であることを忘れがちが「人生」について、熱く、重低音でしゃべり倒した。

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女社長、夫との10年を思ふ

セミナーを後にして、夫と待ち合わせしている場所へ行く。

「このデジャブ感は何なんだ?」と一瞬思うも、去年と同じことをしているのだからそれは当然の感覚だった。

夫の誕生日は11月9日のため、去年も手術前にバタバタとレストランを予約して、忙しい合間に二人で祝ったのだ。

今回は夫の希望でお肉の美味しい、高層階にあるレストランにした。

夜景好きの夫はうっとり外を眺めていた。乙女か? 乙女なのか? と、心の中で突っ込むも、共に過ごした10年、がんに罹患したときも、彼の女性性に私は大いに助けられてきたのだ。

28歳で私と出会い、急に2歳児の父親になり、私の無軌道なジェットコースター人生にあれよあれよと巻き込まれた夫がもう38歳になる。振り返れば「芸の為なら亭主も泣かす」という春団治な妻と、よく10年も共に頑張ってくれたものだと思う。

ウエイターが私の前に夫が頼んだオレンジ色のカクテルを、夫の前に私が頼んだフルボディの赤ワインを迷いなく置いて行くので速やかにグラス交換。10年間繰り返された様式美を讃え、私たちは笑って乾杯したのだった。

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女社長、FBに乳首!乳首!乳首!

11月8日(水)

手術当日。快晴なり。

荷物をしまってパジャマに着替えると、毎回のことだが早速やることがなくなった。あまりにも暇なので、facebookに「それでは乳首作ってまいります!」と宣言。

FBにアップした写真

FBにアップした写真

すると、「良い乳首ができますように!」「乳首の完成をお祈りしています!!!」「美乳首になりますように!」と、コメント欄は「乳首」という文字が踊り狂った。私のページだけ磁場が狂っているのでは? と思う程、スーパーキャリアな女性も、品の良いマダムも、マナーの先生たちも、なんのてらいもなく「乳首」を連発している。

その「乳首」の数は常軌を逸していて、私はおかしみとありがたみ、少しの後悔が入り混じった複雑な気持ちになった。私の宣言が誘い水となり、激励という善意が淑女たちに「乳首」を連発させているのだから。

コメント欄にハラハラしていると看護師さんが呼びに来て、私は手術室へと向かった。手術室も3回目。見慣れているというレベルではないが、もうキョロキョロしたりはしない。

手術室にはいつもお世話になっている担当の先生と、他2名の先生がいた。3名共女医さんで、全員30代ぐらいであろうか?

「よろしくお願いしまーす!」

と、元気よくご挨拶をしたところで、私は前2回の手術との、ある決定的な違いを今更ながら思い出す。

それは、麻酔だ。

前回も前々回も全身麻酔だったのだが、乳首形成手術に関しては局所麻酔であると、そう言えば説明を受けたのだった。

私が選んだ乳首形成手術は、健常な左乳首を半分取って右乳首に移植し、足の付け根の皮膚を取って乳輪を作るというもの。要は、乳首と乳輪と足の付け根、なんていうセンシティブでナイーブな場所に麻酔の注射を打つということだ。

女社長、痛みに悶える

Don’t think!feel!でも、イマジンでもこの際どっちでもいい。
是非とも想像してほしい。乳首に注射を打つということを。

人生で一番痛かった体の記憶と言えば長女の出産(陣痛56時間)だが、会陰麻酔も切開もした筈なのに痛みの記憶が無い。れよりも、体中の骨が、お腹が、腰が、産道が全部痛くて、「痛みの場所が特定できない痛み」と言うものの恐怖を思い知ったのが出産だった。

それに比べて「乳首への注射」はかなりピンポイントな攻撃である。「場所が特定でき過ぎる痛み」というものもまた、人間に与えられた一つの試練なのであろうか?

と、くだらないことを考えていたら、

「痛いですよー、すいません!」

と、先生の声掛けと共に、左乳首に麻酔を打たれた。

体の痛みには強い方だと思っていたが、思わず「うっ!」と、声が出そうになるぐらい痛い。そして、長い。

全部で8刺しぐらいをお見舞いされ、あまりの痛みに何かを自白しそうになったが、無事麻酔タイムは終わった。

今まで、乳首にピアスを空けている人などを「変わった人だなぁ」と思っていた。しかし、乳首注射を経験した今は「キミたちは変態だ」と、一点の曇りなくそう思っている。

そして、麻酔が効いてきた頃、私の乳首や皮膚の切り貼り作業が開始された。

私から手術の様子を見ることはできないが、先生たちの会話から何をしているのか想像がつく。先生Aは乳首を切って、先生Bは足の付け根の皮を取っていて、担当の先生がそれを右乳首に移植している感じだ。

痛みも感じないし、「それください~♪」的な若い女性医師3名のやり取りを聞いていると、いつしか何とも牧歌的な気持ちに。

彼女たちが切ったり貼ったりしているのは私の体の一部じゃなく、パッチワークか何かのように思えてくるから不思議だ。ま、本当は乳首作っているんですけどね。

1時間程度で手術は終わり、私は病室に戻った。

手術が成功したかどうかは今は解らない。自分の乳首や皮膚であろうともちゃんとつかないことも、乳首の凹凸がなくなってしまうことも2割程あるらしく、これから2か月ほど経過観察が必要だそうだ。

今はただ、早くニュー乳首を見てみたい。

そして、乳首を作るなんていう珍事が40代で待ち受けていたとは! と、苦笑しながら何の気なしにfacebookを開くと、

「キレイな乳首ができますように!」

というまたもや素敵な女性たちによる「乳首コメント」が倍増していて、私はそっとスマホの電源を切った。

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女社長の乳がん日記

「がん宣告」を受けた女社長・川崎貴子(44)が、「乳がんプロジェクト」と自ら命名して己を奮い立たせ、がん宣告から手術・治療までの日々をリアルタイムにつづっていた日記を初公開します。

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