8月25日(金)に全国公開の映画『春に散る』に出演する、坂東龍汰さん。不公平な判定に絶望し、一度はボクシングを諦めた黒木翔吾(横浜流星)の対戦相手で、真田令子(山口智子)が運営するジムのホープ・大塚 俊を演じます。
未来に向かってもがく若い世代と、若い人に何かを託そうとする年配の世代。どの世代が見ても共感できる部分も多い本作から坂東さんが受け取ったものとは。作品について、そしてご自身の生き方について話を聞きました。
あるボクサーの人生が決まった瞬間に立ち会って
——この作品に「自分はどう生きていきたいか」と問いかけられたような気がしました。坂東さんは、脚本を読んだときどのように感じましたか?
坂東龍汰さん(以下、坂東):すごく心が震えました。テレビドラマ「未来への10カウント」(テレビ朝日系)でボクサー役を演じたこともあり、このお話をいただく前からボクシングへの関心は高いほうでした。本作でもボクシング指導・監修をしてくださっている松浦さん*と、何度かタイトルマッチを見に行ったこともあります。
(編集部註:松浦慎一郎氏。ボクシング界に貢献・活躍したトレーナーに贈られるエディタウンゼント賞受賞。『百円の恋』『あゝ、荒野』『ある男』『ケイコ 目を澄ませて』等では自ら出演をしながら、出演者へのボクシング・トレーニングを指導した)
——ボクシングのファンなんですね。
坂東:はい。松浦さんが試合前に出場する選手の今の状況とか、これまでのバックボーンを教えてくださるので、より深く応援できるというか。ボクシングに人生を賭けている人たちの姿って、本当に感動するんですよ。ある試合で、自分よりはるかに強い相手と対戦するボクサーがいたんですけど、その選手は、ここで負けるとプロライセンスを剥奪されてしまうような状況だったんです。
——うわ……後がないって緊張しますね。
坂東:ですよね。ドキドキしながら試合を見守っていたら、なんとKO勝ちしたんです!
——おお!
坂東:彼のボクシング人生が続いていくことが決まった瞬間、大きな歓声が鳴り響いて会場は総立ち。僕も号泣してしまいました。強い選手同士のものすごい戦いも素晴らしいのですが、切実な事情を背負った選手の戦いにも胸が熱くなります。それってまさに、本作の翔吾みたいですよね。彼も「俺は戦いたい」「この一瞬を生きたい」と思っている。あの時の試合とリンクして、ホンを読み終えた時、気づいたら泣いていました。
改めてボクシングの力を感じた作品
——ただ勝ち進むだけのストーリーではなく、登場人物ひとりひとりの物語が重厚ですよね。役作りはどのようにしましたか? 身体作りも大変だったのでは?
坂東:そうですね。前のボクサー役からそこまで時間が経っていなかったのでゼロからではないものの、今作で演じるのは東洋太平洋チャンピオンなので、しっかり身体を変えてかっこいいシーンを撮りたいと思って準備に臨みました。
——準備期間はどのくらいありましたか?
坂東:コンスタンスにジムに通っていたのは1年間くらいで、パーソナルトレーニングも自主的に受けました。ガッと追い込んだのは撮影の2ヶ月前くらいから。最後の2週間は食事制限もしています。
——ストイックですね。
坂東:一緒に練習している流星くんの姿にも刺激を受けて「もっと頑張らなきゃ」って思ったんです。流星くんを見ていると、どんどん身体が大きくなっていくし、(筋肉の)カットも出てきてすごかったです。彼は本当にストイックな人ですけど、親身に話を聞いてくれる優しさもあって。一緒にシーンを作ってくださる方なんだなって思いました。
——ライバルだから役作りのために距離を置こうという感じではなく?
坂東:はい。僕とは対戦するシーンが多かったのですが、本番ではこうしてみようなど、たくさん話し合う時間を作ってくれてありがたかったです。実際、試合シーンはすごく楽しくて。もちろん、危険な撮影ではあるので安全に気をつけながらなんですけど、リアルにリングに立って試合をしている感覚を味わえたというか。流星くんには、そういう新たな感覚に導いてもらえたなと思っています。
——試合シーン、臨場感たっぷりでした。
坂東:そうなんですよ! 僕も試写で、手汗と力みが止まらなくて。いざ大きなスクリーンと映画館の音響環境で観ると迫力がすごかったです。結末を知っているのに、なんか力んじゃいました。
——ご自身が出演する作品で、そういった感覚になるのは珍しいですか?
坂東:はい。今作のように、その世界に入り込むような経験はなかなかないです。翔吾と中西(窪田正孝)の試合シーンも本当に12ラウンド観戦しているかのようでした。

劇中より
競い合うより協力したい
——今作では主人公のライバル的存在の役でしたが、坂東さんにライバルはいますか?
坂東:うーん……僕、正直ライバルとかってあんまり考えたことがなくて。自分と人を比べて優劣をつけるような価値観がないのだと思います。それよりも、作品の中のシーンを完成させるために自分に求められていることを理解して、いい意味でチームの想像を超えるパフォーマンスを出していく。そこにフォーカスしたいし、それが自分の仕事だと思うんです。だから、共演者はライバルでもあり戦友でもありながらも、やっぱりチーム。僕は競い合うより助け合いながら作品を作っていきたいです。
——「競争」より「共創」することで、大きなものを生み出すことができるって言いますよね。
坂東:今作では、翔吾を本気で倒したいという闘志を大塚の中に込めつつ、怪我なく良いシーンを撮り終えることも自分のミッションだと思いながら現場に臨みました。気持ちが先走って、コントロールできなくなってしまった瞬間もあったんですけど……。僕のそんな未熟な部分を流星くんが広い心で受け止めてくれて、助けてもらいました。
「自分」を通すだけでは世の中は回っていかない
——佐藤浩市さん演じる広岡の「誰もが自由になりたいんだけどなかなかそれができない」というセリフも共感する人が多いだろうと思いました。坂東さんは、自由についてどんな考えを持っていますか?
坂東:なんだろう……基本的には“常識”とか“他人の目”とか気にしすぎなくてもいいと思います。自分がやりたいことや表現したいことを、自分を偽ることなく出せるのが大事。そう思うのですが、現実ではそれだけじゃ社会は回っていかないし、仕事にも悪い影響が出たりしますよね。
——自分勝手と自分らしくは違う、というような?
坂東:そうですね。これは良くないなってことや、ここはもっと踏み込んでもいいんだなってひとつひとつ新しく気づきながらアップデートしているような感じがします。そこに「自由に生きる」というのが重なることで人としての魅力が増すのではないでしょうか。
経験するいろんなことが結果的にお芝居に返ってくると思うので、いろんな土地に行ったり、会いたい人と会ったり、何かを育ててみたり……常に何かにセンサーを張っていたいです。「芸能人」としての面白さではなく人の魅力を体現できる「人間」でありたいというのが、僕の一番の願いなので。
(取材・文:安次富陽子、撮影:西田優太)
■映画情報
『春に散る』
8月25日(金)全国公開
©2023映画『春に散る』製作委員会
配給:ギャガ
出演:
佐藤浩市 横浜流星
橋本環奈 / 坂東龍汰 松浦慎一郎 尚玄 奥野瑛太 坂井真紀 小澤征悦 / 片岡鶴太郎 哀川翔
窪田正孝 山口智子