「学校には妊娠しに行くんだろう」と父や兄は言う【安田菜津紀】

「学校には妊娠しに行くんだろう」と父や兄は言う【安田菜津紀】

性別や年齢など、何かと理由をつけて差別を受けてしまう途上国の女の子たち。そんな彼女たちを支援する国際NGO『プラン・インターナショナル』は、10月11日の「国際ガールズ・デー」の活動の一環として、フォトジャーナリストの安田菜津紀さんとグアテマラを訪問。

国民の60%が貧困層、ギャング集団の横行による治安の悪化に加え、「マチスモ」という男性優位主義の中で生きる女の子たち。その様子を安田さんに前後編に分けてリポートしていただきました。

プラン・インターナショナルの活動に参加してきた女性たち

プラン・インターナショナルの活動に参加してきた女性たち

思いを語る女の子たち

「女の子であることは、意味のないことだと思っていました」。一人の少女がそう語ると、周りの少女たちも口々に、「自分には価値なんてないと思っていた」、「何かを自由に表現していいという発想自体がなかった」、「誰も自分の意見など耳を傾けないと思っていた」と、これまでの思いを分かち合ってくれました。

中米グアテマラ、その首都グアテマラシティから車で3時間ほど離れたバハ・ベラパス県プルハ市。青々とした木々に囲まれた山道の先に、人々の暮らす集落がありました。

農業が生業のこの地では、急な斜面にトウモロコシやコーヒーの畑が広がり、山間にぽつりぽつりと、小さな家の姿が見えてきます。風が吹き抜けると、森のざわめきと共に鳥たちの心地よい声が響き、思わず目を閉じて聴き入りたくなります。

人口5400人ほどの小さな市は、多くが先住民であるマヤの人々であり、彼らの中で受け継がれてきた言葉を話します。この地域で活動を続ける国際NGO「プラン・インターナショナル」は、ワークショップや職業訓練、学校建設などを通し、子どもたちに教育の機会を築いてきました。私は、こうした活動に参加してきた地元の10代の女の子たちから、話を聴くことができました。

プルハ市中心地から、さらに山奥へと続く道

プルハ市中心地から、さらに山奥へと続く道

グアテマラに残る男性優位の考え方

グアテマラに限らず、中米には「マチスモ」と呼ばれる男性優位の価値観が根強く残っていると言います。

「学校に何しに行くんだ?どうせ彼氏を作って妊娠するんだろう」。

父や兄からそう言われ、学校に行くことを反対された経験のある子は、一人や二人ではありません。実際、早期婚や早期妊娠は、この地域内で度々起きていることではあるのですが、それは、女性がNOと言えない立場にあったり、きちんと知識を得るだけの性教育が行われていなかったりということが背景にあります。

「女性には教育など必要ない」という価値観が、まだまだ根強く残っているのが現状なのです。

女性の教育の機会を広げていくためには、奨学金制度を作るなど、単に資金的な援助を行うだけではなく、凝り固まった社会の偏見にもアプローチをしていかなければならなりません。プラン・インターナショナルのワークショップで女の子たちは、自己決定権や教育の重要性、性の知識などについても学んでいきます。

自宅で出産した姉を支えるために留年

小学生の時からプラン・インターナショナルの活動に参加してきたジェイミーさん(17)は、姉が中学校在学中に妊娠してしまった時のことを話してくれました。

「姉は自宅で出産しました。それでも学校に行き続けたいというので、私が赤ちゃんの面倒を見るしかありませんでした。毎日赤ちゃんの世話や家の手伝いに追われ、気づけば私自身が学校を留年してしまったんです。赤ちゃんは姉ではなく、私のことを“お母さん”と呼んだんです」

と、ジェイミーさんは唇を噛みながら当時の家庭の様子を語りました。

「子どもができるとはどういうことなのかを、身を持って知りました。だから私は、別の人生を歩みたいと思ったんです。今は奨学金を得て学校に通い、将来は弁護士を目指しています。山奥の孤立した地域では、そもそも避妊とは何か、ということをみんな知りません。大切なことなので、もっと家庭内で話すべきことなのに。だからこそ、私自身が活動の中で学んだことを、これからも地元に持ち帰っていきたいと思っています」。

言葉や精神的な“暴力”があると知らなかった

これまで学んだことについて語ってくれたジェイミーさん(右二番目)やロザマリさん(左)

これまで学んだことについて語ってくれたジェイミーさん(右二番目)やロザマリさん(左)

彼女たちは、学んだ後の自身の変化を生き生きと語ってくれました。それは「自分に権利があり、価値があることを知った」という喜びだけに留まりません。

ジェイミーさんと同い年だというロザマリさんは、家庭内での具体的な気づきについて語ってくれました。

「ワークショップに参加する以前は、父や兄たちに言われたことは、どんなに理不尽なものであっても拒否してはいけないものだと思っていました。それまで“暴力”というものは、身体的なものだけなのだと思っていたのですが、たとえ言葉によるものであっても、行き過ぎれば精神的な暴力になるのだと初めて知りました」。

ロザマリさんは、少しずつではあるものの、できないこと、嫌なことがあれば、きちんとそれを伝えるように心がけているといいます。そして父や兄たち家族も少しずつ、そんな彼女の権利を理解しようと努めているのだそうです。

集まった10人ほどの女性たちの中で一番活発に発言していた少女は、「私、このワークショップに参加するまではシャイで無口だったの」と言います。彼女自身のその変化は、単に知識を得たからだけではなく、ワークショップの輪を通して、共に歩める仲間と出会い、自分の声を受け止めてくれる場があるという安心を得たからでしょう。

ナンパをしない男は“男らしく”ない?

こうした女性の社会的な地位の問題は、「女性の問題」と捉えられがちです。けれどもプラン・インターナショナルの現地スタッフはこう語ります。

「例えば道行く女性に、『君、可愛いね!』なんてちょっかいを出したりすることはハラスメントですよね。ところがそういった行為をしない男性は、“男らしくない”と揶揄されてしまうことがあるんです」。

男性たるもの強くあれ、女性に対して積極的であれという価値観が、いつの間にか、“女性は男性に従え”といった侮蔑に変わってしまうのだというのです。

女性たちが自立し、社会の中でしっかりと発言できるようになることは、女性の生きづらさを変えるだけではなく、“男らしさ”に囚われ続けてきた男性たちをも楽にするのかもしれません。

学びという「種」を手にした女の子たちの未来は…

ワークショップ参加者の中には、プラン・インターナショナルが地元自治体などと連携して行っている職業訓練を通して、コンピュータースキルや企業のノウハウを学び、そこで出会った仲間たちと一緒に事業を起こす女性たちもいます。

薬局やインターネットカフェを開き、自分が身につけた技術、知識を活かして売上管理やビジネスアプローチを考える。そんな彼女たちは、地域の女性たちのモデルケースとなっています。

女の子たちが活動を通して得た気づきや学びが「種」だとすれば、それを彼女たち自身が、そして彼女たちを通して変わっていった大人たちが共に育て、少しずつ、花開こうとしています。

プラン・インターナショナルが校舎建設を支援した学校で学ぶ女の子たち

プラン・インターナショナルが校舎建設を支援した学校で学ぶ女の子たち

■写真展&トークイベントのお知らせ
今回の訪問についての写真展とトークイベントが開催されます。

「フォトジャーナリスト 安田菜津紀が出会ったグアテマラの女の子たち」トークイベント&写真展

<写真展>
日時:2019年10月1日(火)~ 10月16日(水)12:00~19:00
場所:YELLOWKORNER SHOWROOM
(東京都港区六本木5-17-1 AXISビル3F ICS)
※入場無料 ※土日祝日は定休日

<トークイベント>
開催日時:2019年10月1日(火)19:00~20:15 (受付開始 18:30)
開催場所:YELLOWKORNER SHOWROOM(同上)
参加申し込み:https://plan-international.jp/girl/idg2019

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後編:生理がきっかけで学校を辞めてしまう女の子たち
(文・写真:Natsuki Yasuda)

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