オンラインサロン「魔女のサバト」を主宰する、トイアンナさん、金澤悦子さん、川崎貴子さん「結婚しなくても幸せになれる時代」の恋愛や結婚について考える当連載。
第2回目のゲストは、Twitterを中心に支持を集める恋愛カウンセラーの「見知らぬミシルさん」です。「恋愛と執着」をテーマに語りつくしました。全3回。

見知らぬミシルさん(左)と川崎貴子さん
“道ならぬ恋”をしてしまったら…
川崎貴子さん(以下、川崎):前回ミシルさんの相談者の8割が、マッチングアプリでの出会いを経験しており、上司と不倫をしている人もいると聞きました。既婚者の男性は恋愛上手ですからね。私に相談に来る女性にも不倫に悩んでいる人が多いんですよ。「恋愛と結婚は別だ」と既婚者の男性と恋愛してしまう。でも、内心では、結婚と恋愛は連続しているとわかっている。
見知らぬミシルさん(以下、ミシル):そうですよね。恋愛の先に結婚がないのですから、どこかでうまくいかなくなってしまう。
川崎:ところで、ミシルさんは例えば既婚者と恋愛している女性にどのようにアドバイスをするのですか?
ミシル:まず、僕はその人の「覚悟」を確認します。何らかのアドバイスよりも、「あなたはその道に進むのか」と質問します。既婚者との恋愛には、相手の家庭事情、家族のこと、夫と妻の実家……いろんなことがあるじゃないですか。それをすべて考慮したうえで、その道に進むと言うのなら、それはその人の人生です。
川崎:なるほど……。
ミシル:個人の幸せをこちら(相談者側)が勝手に決めるわけにはいきません。だから、不倫の道を歩めば、その道にはこういう結果が予想されますが、大丈夫ですか? と覚悟を確認します。
川崎:自分の選んだ道にこれから待ち受けている要素を考慮し、それを踏まえて判断して決めるのは自分なんですよね。ところで、電話相談者は何歳くらいの人が多いのですか?
ミシル:う~ん。若ければ未成年、お年を召した方だと50代以上の人もいますが、多いのは20代後半から30代というところでしょうか。
川崎:私の実体験と重ねてもよくわかります。その年代は迷いやすいというか、「正解」を求めてさまよい歩くようなところがある気がします。
ミシル:そうですよね。そもそも正解がないのに、「自分の幸せ」と「他人基準の幸せ」というダブルスタンダードな状態で正解を探すのですから。
マッチングアプリでの「出会い」を求める理由は?
川崎:その点、マッチングアプリは条件で相手を選別できます。このマッチングアプリについても伺いたいんです。アプリの出会いに抵抗がない方は増えていますよね。でも、相手のバックグラウンドを含めて、ウソをついてる可能性もあるし、その見極めも難しい。何が飛び出てくるかわからない世界で泳いでるというリスクは付きまとうじゃないですか。
ミシル:恋愛はリスクがあります。それは男女同じだと思います。
川崎:そうなんですよ。特に男性は恋愛のリスクヘッジに熱心です。そのために行うのがキャリアとプライベートを分けること。1回目でも「職場結婚は避けたい」とう話が出ましたが、それどころか同じサークルや同級生など、人間関係を共有する人と、恋愛関係にはならないようにしている。
ミシル:「別れ」がリスクになっているという感覚は強いと思います。結婚まで行ければいいですけれど、別れてしまうと、その他の人が出てきて、人間関係が根底から壊れてしまう可能性もありますから。
川崎:スクリーンショットしたLINEのやり取りを、仲間内に晒(さら)されてしまうとか、2人だけの問題を、どちらか一方の都合がいいように拡大して言いふらされるとか。一方的な悪者にされてしまうリスクを回避しようとしていますよね。
ミシル:事実を自分の都合のいいように解釈しちゃう人もいますしね。でもそれはやはりコミュニケーション不足が原因なんです。
川崎:ああ……わかります。事実を歪(ゆが)めて解釈してしまう。ご著書でも「もっと質問しなさい」ということが書かれていました。これは私も同じで、サバト生(魔女のサバトの参加者)たちに、同じことを言っています。
ミシル:そうなんですよ。圧倒的に質問力が足りない。何か疑問に感じても、「相手に重いと思われたくないから」と口をつぐんでしまう。
「付き合っている人、いるの?」質問ができない理由
川崎:自分の中で生まれた疑問を相手にぶつけない人の共通点は2つあると考えています。一つ目は、「質問は相手のプライバシーに踏み込む悪いことだ」と思っていること。そして、もう一つは「詮索(せんさく)好き」とか「重い」と相手に判断されると思い込んでいることです。これは女性に多い傾向です。
ミシル:質問しなければ、相手のことなんてわからないのに。
川崎:結婚したいという人……私は女性の相談者が多いので、彼女たちを見ていると、相手に「結婚しているの?」「彼女いるの?」という質問さえもしないんです。結婚したいのなら「初めまして」くらいの、挨拶(あいさつ)と同等レベルで聞かなくちゃいけない質問なのに。この、大前提ともいえる質問をしないから、ある程度付き合ってから、相手が既婚者だったとか、別にパートナーがいることが判明する悲劇もあります。当たり前の質問さえ、相手に言えない……そのために、私は魔女のサバトで質問力を高めるグループワークを取り入れました。
ミシル:それ、大事ですよね。質問できないのは、慣れていないから。その場合は練習をしなくてはならないですから。
川崎:そうなんですよ。グループで質問を出し合うという内容なのですが、ここで参加者が気付くことは俯瞰(ふかん)して事実を見ることです。相手のことを自分の都合のいいように思い込んでいたことに気付く人が多いのです。
ミシル:なるほど。質問しないという思考パターンが出来上がっているんですね。
川崎:自分で思い込んで自己完結するという思考パターンは恋愛を育まないんですよ。自分の想像どおりにならないから、相手に過度な献身をしてしまう。相手に合わせて、自分の意見を言わずに我慢する……それが重なった結果、「こんなに頑張ったのに、報われない」という結果になってしまう。
ミシル:そうなんですよね。そして、その結果、執着が生まれてしまう。逆に言えば、質問をたくさんすれば、抱えていた不安が次々になくなっていき、執着しなくなっていくんですよ。
川崎:そういう恋愛の仕方をぜひ教えていただきたいです。
ミシル:まあさっきの話と関連するんですけど、やっぱり相手のことをちゃんと知れるかっていうところだと思うんですよ。質問できるということは、相手に対する興味があり、相手を知りたいと思っているから。
川崎:だからこそ、自分の思い込みだけで完結しないようになる。
ミシル:あとは「しない」ことができることは、とても大事だと思っています。あえて手を出さないのは、相手を尊重していることの証しであり、優しさでもあります。恋愛がうまくいかない人の相談に乗っていると、相手が望んでいないのに、先回りして勝手にやっちゃうところがあると感じています。
川崎:あああ!!! すごくよくわかる。
ミシル:先回りして手を出してしまうのは、おそらく自分がされてうれしいからするのだろうけれど……。。でも、それは相手がされてうれしいとは限らない。自分と相手は別だから。相手からすると、望んでいないことだけれどやってくれたから、受け入れてお礼を言わなければならない。となると、相手から重たいとか、面倒だなと思われてしまう。
川崎:そして、こんなに尽くしてあげたのに! という執着がうまれる。
ミシル:そうなんですよね。「これ、手伝おうか?」と質問しないから、自分がされたいことを相手もやってほしいと勝手に解釈してしまう。それが重なって、関係が悪くなってしまう。
夫、子供、ママ友…執着を手放せない
川崎:うううう……今、私はとても苦い顔をしているのですが、これは私が娘たちに過去やってしまったことでもあるんですよ。まあ、今は2人とも大きくなり、自分と切り離して考えるようになってはいますが、、小さい時は特に先回りしていたこともあります。夫に対しては客観的になれるのに、親子だと難しいと思うことは多々ありました。
ミシル:子供のことはどうしても心配してしまいますからね。
川崎:子供の成長に合わせて、執着を手放していけばいいのですが、え? もう反抗期? ってこっちがついていけないんですよね。それができなくて苦しんでいる親も多いです。それどころか、夫、子供、ママ友と拡大し、執着の連鎖がずっと続いていく。人が最初に執着をするのが恋愛だと思うのですが、そこから長きにわたり、執着の連鎖が広がっていき、思考パターンとして確立してしまっているんですよ。だから、多くの女性たちに伝えたいのです。「執着」は恋愛で終わらないよって。その後も断ち切らないと続くんだよ、と。
ミシル:本当に母親と子供の関係とか、教育的なこととか、いろんな要素が関わっています。僕がこういう発信をしてるのも、もともと小学校の教師をしていたという経験もあるんです。教育的な観点の分析や解決方法は、恋愛にも通じる部分が大きい。
川崎:そうか、学校の勉強には正解があり、自分一人でがんばると褒められる。それを重ねるうちに、質問ができなくなってしまう。
ミシル:そうなんですよ。そもそも、教室は質問しにくい環境です。30人くらいの生徒がいて、先生が授業を進めていきます。「わかりましたか?」と聞かれて、自分で質問できる生徒は少ないです。必要なのは、何がわからないかを考える時間を設け、どこに疑問を持ったかを考えて、話し合う機会などを持つことなんです。そういう授業設計を変えないと、日本の恋愛も変わっていかないとも思っているんです。
川崎:そうですよね。私のところに相談に来る女性たちは、高学歴で優秀な成績とキャリアを修めている人が多い。彼女たちは質問せずに、ひとりで正解を理解するということを小学校から大学までの16年間をきっと真面目に頑張ってきたんだろうなぁ。
ミシル:それを意識して、質問するように練習したほうがいいと思います。これはきっと仕事の役にも立つはずです。そもそも、日本のコミュニケーションは独特です。ストレートな物言いを避けたり、率直に質問すると、責めているように聞こえたり。
例えば、ものをそこに置いて、誰かから「なんでここに置いたの?」と質問されると、責められてるように感じてしまうというような……。
川崎:たしかに……質問とストレートな物言いに慣れていないので、悪い方向に想像をしてしまう。今、お話ししていて、被害者意識のようなものが心にあることにも気付きました。
ミシル:そうなんですよ。だから、質問に攻撃性を見いだしてしまうのかもしれません。加えて、伝え方が下手っていうのもあるのかもしれない。
川崎:質問され、質問し、双方のいい着地点を探していく。すると、正解にこだわることもなくなり、寛容さも生まれていく。
ミシル:そうなんですよね。ちょっと話せば相手に悪意がないこと、攻撃性がないことも伝わってきます。
川崎:すると、自分で行動できるようにもなりますよね。その結果、お互いに尊重し合ういい関係になっていくと思うんです。
ミシル:それを阻害するのは不安や心配なんです。心配は自分が思っている以上に、相手との関係に悪い影響を及ぼしていると思います。
3回目「心配を押し付けられると、どんな変化が起こるか……」恋愛のすれ違いを解消する方法に続きます。
(構成・執筆:前川亜紀)