マキヒロチさんの人気コミックをドラマ化した「吉祥寺だけが住みたい街ですか?」(テレビ東京・金曜深夜0時42分)が好評放送中です。
「住みたい街ナンバーワン」に何度も輝く吉祥寺を舞台に、双子の姉妹が営む重田不動産にやってくる客たちの事情に応じて、吉祥寺以外の街と物件を紹介し、「自分に合った街」を見つけていく様子が描かれています。
食事も、ファッションも、メイクも、人間関係も、「いいね!」をもらえることを基準に選んでいると、自分らしさとのギャップに疲弊してしまいがち。住む街も同様で、みんなが羨ましがる人気の街に住んでみても、住み心地がいいとは限りません。
ドラマのように「自分に合う」街を見つけられるのは羨ましい限りですが……。そこで実際に「自分が本当に住みたい街」を見つけた女性に話を聞きました。
世田谷はオシャレだけれど、背伸びが必要だった
吉祥寺駅の隣に位置するJR中央線・西荻窪駅。休日は快速電車も止まらず、若者に人気のコーヒーチェーン「スターバックスコーヒー(スタバ)」もない街です。休日は多くの人で賑わう吉祥寺に比べるとやや地味な印象。
そんな西荻窪(西荻)に暮らすのは、アパレルメーカーでパタンナーとして働く東郷奈生子さん(28)。西荻に暮らして4年半と言います。
それまでは、神奈川県で学生時代を過ごし、就職をきっかけに東京・世田谷に引っ越して、一人暮らしをしていたそうです。世田谷もオシャレで若者に人気の街ですが……。
「部屋自体は気に入っていたのですが、大人っぽくてオシャレな人ばかりが住んでいる街に暮らすには、ちょっと背伸びが必要でした。2年後の更新を機に、一度、他人と暮らしてみたかったので、西荻窪の大型のシェアハウスに入居しました。西荻窪は、仲のいい友人に連れられて1、2回来たことがある程度でしたが、なんとなくいい印象がありました」
西荻→西荻へお引越し
大型シェアハウスで楽しく暮らしていた東郷さんは、3年暮らしたタイミングで引越しを決意しました。その理由は「朝ごはんをちゃんと食べたかったから」。
「(大型シェアハウスに)立派なキッチンがあったのですが、自分の部屋から1階にあるキッチンまで降りてこなければならなくて。平日の朝はどうしても時間がなくて、身なりを整えることしかできず、朝食をとれなかったんです。朝食をきちんと食べて、生活を整えるために一人暮らしに戻りたいという気持ちが芽生えてきました。
通勤時間で「スイッチを切り替える」
東郷さんの次の住居はまたしても西荻でした。会社まで片道1時間20分かかるにもかかわらず、同じ街を選んだ理由は何だったのでしょうか?
「通勤はまったく苦じゃないんです。むしろ私は、ある程度の通勤時間が必要なタイプ。読書が好きなので、電車の中で本を読んで、オンとオフのスイッチを切り替えているんだと思います」
大型シェアハウスで暮らした期間を含めると西荻で暮らし始めて4年が経とうとしています。西荻の魅力は何なのでしょうか?
「快速も止まらねえ!スタバもねえ!」街だけど…
「自分のペースで暮らせるところです。街にいる人の雰囲気がのんびりしていて、話しかけたら応えてくれるし、馴染みやすい街。いつの間にか顔見知りも増えて、仕事から帰ってくるとホッとします。自分にとっては完全にオフの時間を過ごす街です」
再び一人暮らしに戻り、今では朝食をきちんと食べて「ひとりの時間」を満喫しているよう。
「朝食でよく食べるのはパンと目玉焼きと旬のくだものです。西荻窪はパン屋さんが多く、『次はあそこのパンにしよう』とローテーションを組むための、週末のパン屋さん巡りも楽しいです」
「寂しさ」も味方に
一人暮らしをしたことがある人は経験があると思いますが、寂しさを感じた時はどうしているのでしょうか?
「そういう時は、ガヤガヤした環境に身を置くようにしています。喫茶店やカフェで読書をしたり、コーヒースタンドでコーヒーを飲んだり。西荻は、夜遅くまでひとりで過ごせるカフェにも困りません。あと、古本屋さんも多いですし、23時まで営業している書店もあってとても便利です。作家の穂村弘さんの文章が好きなので、穂村さんが西荻在住と知った時はうれしくなりました」
「寂しさ」も味方にして、西荻での一人暮らしを自分らしく楽しんでいるのは羨ましい限り。この先もこの街に住むのでしょうか?
「今の部屋が物件的にもパーフェクトなので、このまま独り身だったら、西荻にいると思います。実は、家賃をちょっとだけ無理してしまったので、家計簿をつけて、以前よりも節約するようになったんです。きちんと生活することが目的だったので、そういう意味でもよかったと思っています」
上京して10年目の28歳にして、ファッションもライフスタイルも、自分が何を好きなのか、自分には何が必要なのかをきちんと把握して、まわりに流されずに自分のスタイルを確立している東郷さん。身の丈にあった生活を営む彼女と西荻は相思相愛に見えました。
(須永貴子)