コミックをドラマ化した「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)が10月より始まりました。第1話は、大学院を出たものの就職できない“みくり”(新垣結衣)が、プロの独身男“津崎”(星野源)と契約結婚。掃除・料理などの家事労働を請け負うというストーリーです。
主婦への給料「月収19万円」は一見リアルだけど…
時給2000円で家事代行サービスをするため津崎の自宅に通っていた“みくり”。しかし、住んでいる実家が引っ越すことになり、津崎に「いっそ住み込みで働きたい」と申し出ます。そして、両親には「結婚する」と偽って津崎とマンションで同居することになるのですが、契約を結ぶ際、津崎は“みくり”にこう提案するのです。
津崎「試算してみたんです。家賃、水道、光熱費等の生活費を折半した場合の収支。食事を作ってもらった場合と、外食との比較。毎週、家事代行スタッフを頼んだ時との比較。そしてOC法に基づいた専業主婦の家事労働時間は(年間)2199時間になります。
それを年収に換算すると、304.1万円。そこから時給を算出し、1日7時間労働と考えたときの月給がこちら。そして、(“みくり”の)生活費を差し引いた手取りがこちらで、健康保険や扶養手当を利用した場合の試算をしてみました」
さすが京大卒のできるビジネスマンであるメガネ男子、津崎。つまり、自分は自宅を常にきれいにしていたいし、おいしい家庭料理を食べたいけれど、仕事が忙しいので家事をする時間がない。それなら、家事をやってくれる“みくり”を妻として雇って、その労働に見合う対価を支払おうというのです。かなり画期的な設定です。ちなみに“みくり”の月給は19万4000円。
セリフに出てきたOC法とは、経済学の用語で「オポチュニティー・コスト(opportunity cost)」、つまり「機会費用」を計算すること。
「もし主婦が自宅で無償労働をせず、市場で働けば」という仮定の下、得るはずだった収入を計算します。ドラマでのポイントは、OC法で賃金を算出するだけでなく、同居する“みくり”が支払うべき家賃、彼女の食費などを「給料」から差し引いているところです。
つまり月給19万4000円というのは、妻の純粋な手取り賃金。専業主婦にとっても、かなりリアルに感じられる数字ではないでしょうか。
ちなみにOC法とは別に、RC法(代替費用法)という換算方法もあり、こちらでは例えば「主婦が掃除をした時の労働を同じようなサービスに頼んだら」と仮定して、対価を計算します。
掃除の場合、ビル掃除員の平均と同じ時給992円、育児の場合、保育士平均の時給1238円。全体の年収換算としてはOC法より低くなってしまいます。*
*「家事活動等の評価について―2011年データによる再推計―」(内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部)http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/sonota/satellite/roudou/contents/kajikatsudoutou.html
家事の9割を担う日本の主婦
ドラマの津崎はOC法で算出した月20万円近くを“みくり”に支払えるわけですから、おそらく自分はその倍以上の給料をもらっているのでしょう。しかし、実際問題としては、たとえ高給取りでも人を一人雇用できるだけのお金を、専業主婦の妻に支払う夫がいるかは疑問です。
サラリーマン(男性)の平均年収が約500万円というデータから考えても払えない場合がほとんどでしょう。それゆえ、主婦の年収換算は、「あくまで仮定の話」という認識で終わってしまいがちなのです。
しかし、以前、ウートピが取り上げたように*、専業主婦はもちろん、仕事をもつ妻でも家事の90%を担っているのが日本の現実。それは「なんだかんだ言って、家事は女性やるもの。やって当然」と思っている性役割意識の強い男性が、数多く存在することを意味します。
*【参考記事】やっぱり夫にとって家事は他人事? 家事分担の理想と現実が明らかに
そんな彼らの意識を変えるには、このドラマを見せたり、これをきっかけに話をしたりすることも有効かも? また、これから結婚する予定のある人も、相手が家事を分担するつもりがあるかどうか、分担しないなら家事労働に敬意を払ってくれる人か、探ってみるといいかもしれません。
その時に、アンペイドワーク(無償労働)である家事を評価した客観的なデータは、役に立ってくれるはずです。
(小田慶子)