俳優であり、初長編映画『blank13』（2018）が国内外の映画祭で8冠を獲得した齊藤工監督の新作『スイート・マイホーム』が、9月1日（金）に公開予定です。

マイホームを手にした一家に忍びよる恐怖。
その「家」の秘密を知ってはいけない——。

極寒の地・長野県に住むスポーツインストラクターの清沢賢二（窪田正孝）は、愛する妻と幼い娘たちのために、巨大な暖房システムを備えた“まほうの家”を購入。理想のマイホームを手に入れ新居生活を始めたものの、その温かい幸せは、ある不可解な出来事をきっかけに身の毛立つ恐怖へと転じていく……。

第13回小説現代長編新人賞を受賞した神津凛子による同名小説をベースに、多様な人間ドラマやサプライズを盛り込み、映画ならではの展開を目指したという本作。夢だったはずのマイホームで恐怖にとらわれていく主婦・清沢ひとみを演じた蓮佛美沙子さんと、住宅会社の営業担当・本田を演じた奈緒さんのお二人に、本作の見どころや、齊藤組に初参加した感想についてお聞きしました。前後編の前編です。

俳優でもある齊藤工監督ならではの現場づくり

——本作は「家」が舞台のホラー・ミステリーということで、自分の身に実際に起こりそうなシチュエーションに、終始ゾワゾワが止まりませんでした。まずは、本作のオファーを受けたときの感想をお聞かせください。

蓮佛美沙子さん（以下、蓮佛）：監督が齊藤（工）さん、主演が窪田（正孝）さん、そして奈緒ちゃんも出演。この座組を聞いた瞬間、「絶対におもしろいはず！」ってテンションが上がりました。10代の頃にお世話になったプロデューサーさんから久しぶりにお声掛けいただけたことも、すごく嬉しかったですね。

奈緒さん（以下、奈緒）：私は、齊藤さんの監督作である『blank13』を観たときに、すごく好きな映画だと思ったんです。その時から「いつか齊藤組に入れたらいいな」と思っていました。脚本の倉持（裕）さんとは、舞台『DOORS』でご一緒したばかりだったので、齊藤さんと倉持さんのタッグにも期待が膨らみましたね。

——俳優もされている齊藤監督だからこその視点や、他の現場との違いを感じた場面はありましたか？

蓮佛：齊藤監督には役者の気持ちが筒抜けというか。何も言葉を交わさなくても「こう思っていますよね」と気持ちを汲み取っていただけて、阿吽（あうん）のコミュニケーションが成立する方だなと思いました。現場で驚いたのは、その気配り力。真冬の撮影でものすごく寒かったのですが「外にいるスタッフさんたち大丈夫かな？」と、監督自らカイロを準備されていたりして……。もともとのお人柄の良さもあると思うんですけど、俳優として現場で長く過ごしてきた方ならではの視野の広さだと感じましたね。

奈緒：現場に入った時に、スタッフの皆さんが名札をつけていたのも衝撃でした。私たち俳優は、いつも最後に現場に参加するので、スタッフの皆さんと自己紹介し合う時間がなかなか取れないんです。「なんていうお名前なんだろう。でもいまこのタイミングで聞けないな」「ああ、また名前を覚えられなかったな……」みたいなことって、現場あるあるというか。齊藤監督ご自身がそういう点をなんとかしたいと思っていたからこそ、名札を用意してくださったんだと思います。おかげで、今回は皆が最初から名前で呼び合えましたし、和気あいあいとした空気感が生まれました。

いままで出会ったことのない蓮佛さんの表情が見たい

——蓮佛さん演じる、理想のマイホームを手に入れた清沢ひとみ。そして、奈緒さん演じる“まほうの家”の営業担当である本田。作中には、二人が子育ての話で共感し合うシーンも出てきました。ご自身の役をどのようなキャラクターと捉えて演じましたか？

蓮佛：ひとみは、基本的には明るい女性です。表向きはカラッとしていて、何事にも前向きに取り組む人物。でも実は、ワンオペで疲弊していたり、夫に対する不信感があったり、胸の中で色々なものが渦巻いているんですよね。

奈緒：本田さんは、仕事ができてお客様からの信頼も厚いけれど、どこか寂しさを感じさせる人物。役者として、とてもおもしろいキャラクターを与えていただいたと思っています。

——監督から「こういうふうに演じてほしい」といった具体的な要望はありましたか？

蓮佛：監督からは「いままで出会ったことのない蓮佛さんの表情が見たい」と言われました。演出していただいた結果、ラストシーンは、私だけでは絶対に出せない表情を引き出していただけたと思います。どんな表情かは、観ていただいてからのお楽しみです。

奈緒：監督との打ち合わせで印象に残っているのが「本田さんって、皆の中にいるんですよね」という言葉。映画を観た人の中に「この人は私の中にもいる」と思ってくださる方が1人でもいたら嬉しいです。

ホラーが苦手な人も食わず嫌いせず観てほしい

——秘密に包まれた映画で、どんなストーリーか気になっている方も多いと思います。公開を楽しみにしている読者へ、メッセージをいただけますか。

蓮佛：本作に関しては「ここを見てほしいです」って、ピンポイントで見どころを示せないんです。それよりも、物語を「体感」してほしい。ジェットコースターのように、物語がスピーディーに展開するわけではありませんが、没入感の高い映画になったと思います。

奈緒：ホラー・ミステリーのジャンル映画として、ハラハラドキドキを楽しんでいただける作品です。一方で、人間ドラマもすごく丁寧に描かれています。私が演じた本田さんの印象や、ラストシーンの捉え方は人によって異なると思うので、観ていただいた方には「どうだった！？」って感想を聞いてみたいですね。

蓮佛：人間ドラマの部分が、本当に丁寧。登場人物の表情が印象的で、1ミリ、2ミリのわずかな動きが、心の機微を正確に表していると思います。私の周りでは「怖そうだから、今回はちょっと無理かも……」って言う人もいるんですが（笑）。ぜひ食わず嫌いせず観ていただきたいですね。

（ヘアメイク：SAKURA（まきうらオフィス）（蓮佛さん担当）、竹下あゆみ（奈緒さん担当））
（取材・文：東谷好依、撮影：西田優太、編集：安次富陽子）

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