『怖いけど面白い予防医学』森先生インタビュー 後編

予防医学に「遅い」という2文字はない

予防医学に「遅い」という2文字はない

人生100年時代というけれど、それほど長い人生を支えるための「健康」について、ちゃんと気を配れているでしょうか。最後まで自分らしく生きていくには、健康は欠かせないもの。ところが、日常生活に支障をきたさずに暮らせる健康寿命と平均寿命には、男女ともに10年ほども差があるといわれています。

そんななか注目が高まっているのが、病気にかからないよう予防する「予防医学」という考え方。3月に著書『怖いけど面白い予防医学』を上梓した医師・森 勇磨さんに、予防医学の活かし方を伺いました。


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運動は、一日15分でも死亡リスクを下げる

——今日から実践できる予防医学について知りたいです。まずは、何から始めたらいいでしょうか?

森勇磨さん(以下、森):病気にならないための「一次予防」で何が一番大切かというと、やはり運動や睡眠、食事です。とくに運動は、人間の活動を安定させていくために、とても重要なファクターだといえます。「週2回1時間以上のスポーツを」などと聞くととうてい無理な気がしてしまうけれど、運動習慣が0の人と一日15分でも動いている人とでは、身体の状態はまったく違うもの。死亡リスクが約14%も減ったというデータがあるほどです。ある意味、とてもコスパがいい対策だといえますね。

——どんな運動がおすすめですか?

森:どちらかといえば、有酸素運動がいいでしょう。一日8000歩歩くだけでも、たいていの病気の予防につながると言われています。足は一番大きな筋肉がある部位なので、ウォーキングは効率がいいですね。

本書より

閉経以降の骨粗しょう症を予防するにも、ウォーキングは効果的ですよ。日光を浴びると、カルシウムの吸収を促進するビタミンDが作られるため、カルシウム摂取×外でのウォーキングは、メリットが大きいです。

——次に、睡眠はいかがでしょうか。

森:人によって快適な睡眠時間は違いますが、もっとも死亡率が低い睡眠時間は7時間といわれています。しいて言うなら、睡眠時の無呼吸を指摘されている方は、早く治療するに越したことはありません。あとは、眠る直前にブルーライトを浴びないとか、お風呂で身体を温めるとか、一般的にいわれている「睡眠によいこと」を試してみるのもいいでしょう。はっきりと科学的根拠のあるノウハウは少ないので、いろいろトライしてみて、自分に合う方法を探すのがよさそうです。

「健康」は、あくまでやりたいことをやるための手段

——そして、食生活。野菜たっぷりの自炊がいつもできたらいいんですが、忙しさに紛れて、なかなか徹底は難しいです……。

森:コンビニ弁当だとしても、バランスよく食べていれば問題ないんですよ。「手間をかけること=身体にいい食事」ではないですから。栄養ドリンクやサプリメントなどを取り入れるのも悪くないと思います。ただ、これだけ摂取していれば安心、というアイテムはありません。いろんな栄養を摂れるようなメニューで、かつ食べ過ぎないことを心がけていきましょう。

——そういえば最近食べ過ぎなのか、体重や中性脂肪がじわじわ増えてきています。36歳という年齢的に仕方ないかなと思っていましたが、一次予防がやりきれてなかったのかな……。

森:体重は、日常でも察知しやすい身体の変化のひとつですね。まずは、そういう変化に気づいているだけでもいいと思いますよ。肥満という最初のドミノを倒すことで、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が連鎖し、心筋梗塞や脳卒中といった大病につながる「メタボリック・ドミノ」という概念もあります。大きく体重が増えたときには、生活を見直してみるといいですね。ただ、BMI25を超える程度までは、さほど神経質に気にしなくても大丈夫です。

——そう言われると気がラクになります。森先生ご自身は、どのような一次予防をされていますか?

森:食生活に関していえば、煙草は吸わないし、甘いものやお酒もあまりとらないですね。時間がないため短時間ですが、有酸素運動のランニングと筋トレを組み合わせて、効率的に身体を動かすようにしています。無理なく続けられることが一番大切です。

——生活改善、トライしてみます。……とはいえ、年齢を重ねたら病気も出てくるし、足腰も言うことをきかなくなってくる、というイメージが強いです。ちゃんと予防を心がけていれば、変わるものなのでしょうか?

森:確率論でいうなら、元気に長生きできる確率は、確実に高くなります。もちろん、どれだけ健康に気を付けていても病気にかかる人はいるけれど、それはもう仕方のないこと。だけど大病やケガに遭わず、日ごろからきちんと運動をしてきた方は、100歳を越えても元気に歩けると思いますよ。アンチエイジングという観点でも、充分に成果は期待できるでしょう。

——心強いです!

森:予防医学に「遅い」という2文字はありません。いつからだってはじめられるし、効果が出る。90代の方でも、トレーニングを頑張ったら筋肉量を増やせたというデータもあります。年を重ねてもアクティブにやりたいことがあるならば、その手段としての「健康」を意識した生活にシフトしてみてください。

家族とも、将来の健康について話そう

——もうひとつ悩ましいのは、家族の健康です。いくら健康は人生をよりよくするための手段であり、価値観は人それぞれだといっても、気になってしまいます。予防を呼びかけたいときは、どのようにアプローチするのがいいでしょうか。

森:シンプルに伝わりやすいのは、お金に換算することです。「あなたが病気で倒れたら、家計はこうなる」「病院や施設に入ることになったら、これだけのお金がかかる」といったシビアな状況を伝えると、意識が変わる人もいます。もしご自身が家事の中で料理をする機会が多いようであれば、食生活はある程度コントロールもできるはず。やる気のない人に運動させるのは難しいけれど、食事を変えるだけでも大きなステップになります。

——高齢の親や親せきに対しては、とくに未来の健康や病気リスクの話がしにくいと感じます。縁起でもない話ではあるので、遠慮してしまうというか……。

森:そういうときは、話の主語を自分以外にするのがおすすめです。「世の中が啓発してるから」「厚労省が運動を勧めるから」と、文脈を変えましょう。それだけでも少しは伝えやすくなるのではないでしょうか。ただ、縁起でもないけれど、大切な話です。予防だけでなく、病気になったあとでも「死が近づいたときに延命措置をとるのか」「とるとしたらどこまでか」といった話は、一度でも本人の希望を聞いておいくといいでしょう。

(取材・文:菅原さくら、編集:安次富陽子)

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