アルテイシア・望月衣塑子対談【最終回】

意見を言うには勇気や覚悟が必要? アルテイシア・望月衣塑子

意見を言うには勇気や覚悟が必要? アルテイシア・望月衣塑子

ウートピでも連載中の作家・アルテイシアさんと、東京新聞社会部記者の望月衣塑子さんが、フェミニズムについて、メディアについて、政治について語る4回連載。

アルテイシアさん著『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』(幻冬舎)と、望月衣塑子さん著『報道現場』(角川新書)を、お互い読み合ってからのスタートです。

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意見を言うのは勇気や覚悟のあること?

——反論や批判を攻撃ととらえたり、面倒くさいやつだと思われたたりする風潮があります。その一方で、意見を言えるとすごい、勇気や覚悟があると過剰に持ち上げられたり。そのような状況をどう感じていらっしゃいますか?

望月衣塑子さん(以下、望月): 私も、言うべきことを言って、聞くべきことを聞いているだけで浮いちゃっているんですけど、本来、記者はそういうものですよね。ニューヨーク・タイムズの女性記者なんかと話していると、「アメリカ行けばみんな望月さんなんだけど、日本の空気の中では浮いちゃうのね」って。

安倍、菅政権で起きていた改ざん問題や政治の私物化、国会で噓をつき通す不誠実な姿勢などに対して多くの人が怒っているのに、アメリカの映画アカデミー賞の授賞式で有名な俳優さんたちが公然とトランプを批判するような光景は日本では見られませんよね。それはアメリカが二大政党制の中で民主党政権、共和党政権を繰り返していて、どちらかの政党を批判しても半分側の市場があれば生きていけるという経済的な背景があるのだと思うのですけども。

——日本の場合は、基本的に自民党の長期政権が延々と続いているから……。

望月:芸能に関わる人たちからすると、自民党を批判しちゃうと飯を食っていけないみたいなところはあるんでしょうね。そういう切実な感覚があって、アメリカのように著名人や芸術家が声を上げにくいのかもしれません。

それは記者も一緒で、自民党の中での多様性が確保されていたときはもうちょっとメディアの風通しもよかったと思うんですけど、安倍、菅長期政権の中ですっかり変わってしまいました。以前は自民党政権といえども、宏池会もあれば細田派みたいな主張もあって、自民の中でも右も左もあって喧々諤々やっていましたし、政治部の記者でも今よりもうちょっとものが言えた空気だったと聞きます。

それが、官邸に人事権が移り、党の選挙での公認権が移り、閣僚以下大臣政務官は全部菅官房長官が決めるみたいな時代になってしまって、記者たちが見ている方向も官邸ばかりになってしまった。官邸に嫌われたら情報がとれないし、だったら事前に質問を投げて当たり障りのない回答をもらい、あとは裏でちょっと菅さんの裏話を聞ければいい、というようなやり方を選ぶ記者が増えるのも必然の流れ。記者が委縮し忖度し、「言われるまでもなく厳しい質問はやりません」という姿勢はこうして作られていったんです。

——望月さんみたいな方が浮いている今の状況がおかしいんですね。

望月:ひと昔前、10年前の記者に聞くと、初めの幹事社*質問を1問くらい事前に投げておき、あとは本当にランダムに質問するし、「さら問い」という、一つ目の質問に重ねて質問をするという普通の会見をしていたと言います。そういったいわゆる「普通」の会見ができなくなっているから、私みたいなのが逆に浮いちゃうのです。そのこと自体がおかしいと思います。

*幹事社…内閣記者会(官邸記者クラブ)に所属する大手報道機関の中で、取材や会見時に官邸側との窓口になる役のこと。各社が月ごとに持ち回りで担う。

——望月さんは、心が折れることはないんですか?

望月:折れることはありますよ。でも、現場の声を取材すればするほど、すぐ気持ちは切り替えられますね。取材で感じた怒りをきちんと持てれば、できることはあると思うんですよね。自分自身の怒りよりも、声を上げた方々の怒りを生で聞くことで、今の状況に対する覚悟が持てます。この怒りを伝えるのは、会見に行けるのは自分たちなんだから、私しかいないと思えるので。

だから、現場を見ることが記者として生きるひとつの大きな動機につながるんですよね。アルテイシアさんが日々怒れるのは、そういう生の酷い状況、被害を受けた人たちの声をしっかり聞いて現場を知っているからだと思うんです。本当に怒ることが必要だし、その怒りを伝えていくことが最終的にちょっとずついろんな人たちを動かしていくんだと思います。

声を上げたいけど「クソリプ」が怖い

アルテイシア(以下、アル):心が折れると言えば、望月さん、SNSのクソリプは見てますか? 私は見ても1秒でブロックするんですよ。以前、上野千鶴子さんと国連のイベントでご一緒したときに、他の登壇者が「クソリプがつらい」みたいな話をしていたのに対し、上野さんが「えっ、何が???」という感じだったんです。

望月:上野さん、クソリプ見てるんですかね?

アル:たぶん見てると思いますけど、「クソリプごとき、汗もかかぬわ」って感じだと思います、歴戦の猛者みたいな人だから。「別に物理的に殴られるわけでもないでしょ、何がつらいの??」みたいな。さすが戦士や……と思いました。

ああいう戦士にはめったになれないので、自分のメンタルを守るために、余計な声を聞かないことも必要かなと思います。クソリプってコバエみたいにウザいだけじゃなく、やっぱり削られるんですよ。どれだけたくさん応援コメントをもらっても、クソリプがひとつくるだけでダメージを受けるから。だから声を上げたいけどクソリプが怖い、という気持ちはよくわかる。女性はストーカーみたいに粘着されるケースも多いですしね。

望月:結構みんな追い込まれて、見えない休みに入ったりとかしていますね。そんな時代遅れの断末魔(第2回参照)を読まなくていいのにとは思うんだけど、どうしても見ちゃうものなんですね。だから、SNSやサイト上でおかしなコメントやリプはがんがん削除してほしいと思います。ヤフコメに関しては、ようやく眞子さまの報道に関するコメントを2万件削除しますみたいなことを言いだしましたけど、基本的にネットのプラットフォームは野放し状態です。もっと厳しく取り締まらないといけない。

アル:オンラインハラスメントがひどいですよね。ただ、弁護士の太田啓子さんに聞いたところ、今は法律が追いついてないけど、変わる動きはあると。その動きがもっと早くなってほしい。オンラインハラスメントしてる奴らは、首を洗って待っていろ! と思っています。

望月:学生さんから、「望月さんみたいに声を上げたいけど、やっぱり怖いから匿名アカウントを作ってやっています」と聞いたことがあります。学生のSNSを入社前にチェックするサービス会社が盛況だという記事も読んだことがあるので、学生さんは怖いだろうなと思います。もっと自分の言いたいことを言えるようになってほしいし、まだまだ言えてない人たちがいっぱいいるんだなと思いますね。

――最後にお二人から何かあれば。

アル:私、アメリカの大統領がトランプからバイデンに変わって体調がよくなったんですよ。世界一の大国の大統領があいつだったときは、肩こりや頭痛がつらかったんですが、治りました。政治は自分の体調にも密接にかかわってくるんだなと。

望月:じゃあ、高市(早苗)さんが出てきたとき、また頭痛が?

アル:頭痛と肩こりが再発しました。とにかく次の選挙*ですね。

*2022年7月参議院選挙。そのほか、各市区町村の選挙は頻繁にあるので投票に行こう!

望月:ですね。政党や政治家が何をしているのか、日頃から厳しい目を向けていれば自分の票をどうするべきか、自ずと見えてくるはずです。

アル:私も関心を持ってもらえるようにコラムやSNSで発信したり、自分にできることをやっていきたいと思います。「何もかもはできないけど何かはできる」精神で、法螺貝を吹き続けます!

(構成:須田奈津妃、編集:安次富陽子)

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