アルテイシア・望月衣塑子対談【第1回】

「私は“ひょうきんフェミニスト”でありたい」アルテイシア・望月衣塑子対談

「私は“ひょうきんフェミニスト”でありたい」アルテイシア・望月衣塑子対談

ウートピでも連載中の作家・アルテイシアさんと、東京新聞社会部記者の望月衣塑子さんが、フェミニズムについて、メディアについて、政治について語る4回連載。

アルテイシアさん著『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』(幻冬舎)と、望月衣塑子さん著『報道現場』(角川新書)を、お互い読み合ってからのスタートです。

aru-2

一個人の生の言葉だからこそ響く

——まずは、アルテイシアさんが望月さんとお話ししてみたかったという理由を教えていただけますでしょうか。

アルテイシアさん(以下、アル):菅さんが官房長官だった時の会見で、望月さんがグイグイ質問していく姿に痺れて憧れて(笑)。台本を読むだけの予定調和な会見の中で、望月さんが「わきまえない女」として立ち向かう姿を見て、私の周りにも“望月推し”が爆誕してました。

その後、推しである望月さんを追って『i ―新聞記者ドキュメント—』を観て、権力には真正面からぶつかるけれども、声を上げようとしている方たちには寄り添う姿を見てさらにグッときました。Choose Life Projectの「わきまえない女たち」の同じ回で出演させていただいた時は、密かにときめいていたんです(笑)。

望月衣塑子さん(以下、望月):「わきまえない女たち」で一緒に登壇した時は、アルテイシアさんは覆面でしたから、こうやって素顔で対面するのは初めてですね。あの場でも「本を読んでいます」「映画を観ています」と言っていただいて本当にうれしかったです。

今回の対談が決まって、改めてアルテイシアさんのエッセイを読みました。ご自身の人生とか家族関係を含めて、本当に生々しいところを吐き出しているにもかかわらず、面白おかしいネタがちょこちょこ入りつつ——そこがアルテイシアさんの力量ですね——同じような苦しさを共有している多くの人に向けて、その先の真実とか真理を見つけていこうっていう、すごくインパクトのあるエッセイだと感じました。

アル:ありがとうございます、トゥンク!

望月:アルテイシアさんは、一個人の中から見えてきた政治や社会の状況を、自分の生の言葉として落とし込んでいますよね。それらを世の中の人に伝えて、「ここから変えられるんだよ」「もっと前を向こうよ」っていうメッセージを出している。

正直言って、私には真似できないと感じてしまって。私が忖度なく質問をする姿に「勇気をもらった」と言ってくださる方もいて、それはすごく励まされるしありがたいんですけど、所詮きれいごとで戦っているようにしか見えないところもある。でもアルテイシアさんは違います。

——どう違うのでしょうか?

望月:普段は政治や社会問題に関心がないけれど、何かモヤモヤを抱えているような子たちに響くエッセイなんです。今の日本の社会全体に漂うムーヴメントみたいなものは、この数年間ですごく変わってきました。その火付け役のひとりとしてアルテイシアさんがいるのだと思います。まだまだ政権を見ていると暗くなる話が多いのですが、アルテイシアさんのような方がいてくれることが希望だなって感じました。

アル:うれしい……冥途の土産にします……!

——10月に出版された望月さんの新刊『報道現場』を読んで、アルテイシアさんはどんなことを感じたか、教えていただけますか?

アル:望月さんの本を読むたびに、日本のヤバさとメディアのヤバさを痛感します。とりあえず2点挙げておきたいんですけど、まず1点目。

(望月さんの同名著作を映画化した)『新聞記者』が大ヒットしたにもかかわらず、民放テレビ局は無反応で、大ヒット御礼の舞台挨拶に取材陣が殺到していたのに、結局テレビはどこも放送しなかったと書かれていましたね。「これが圧力と忖度か!」としみじみ思いました。

そのような作品が日本アカデミー賞の最優秀賞三冠を獲ったっていうのが胸熱で。本の中で「映画の反響はすごいなと改めて思い、テレビのCMなどは一切打てない中で、口コミで支えてくれた鑑賞者への感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。あらためて、映画の持つ力を思い知らされた」(同書・254ページ)とありますが、そこが本当に胸に響きましたし、これが今の社会だなとも思ったんですよね。

——「口コミで支えてくれた」というところが「今の社会」っぽいですね。

アル:私のツイッターのタイムラインでも、「この映画はやばい、観なきゃ」というような『新聞記者』の感想をいっぱい見ましたが、SNSが今、社会を動かせるようになってきましたよね。

たとえば、SNSを使った新しいフェミニズム——第四波フェミニズムとも言われていますが——の広がりは目を見張るものがあります。フェミニズムだけでなく、警察庁法改正や入管法改正への抗議の輪も、SNSから広がっていきました。一人一人が声を上げることで社会は変えられることを証明していると思います。

メディア業界はジェンダー意識が遅れている

——本を読んで感じたことの2点目はどんなことでしょうか?

アル:読みながら怒髪天を衝きっぱなしだったんですけど、特に怒髪天を衝いたのが、ほかの記者たちの姿勢です。官邸の意向に忠実な記者、ある他社の官邸キャップが、望月さんに「記者たるものは」「オフ懇*がいかに大切か」をこんこんと説いた紙を渡してきたというエピソードとか。しかもその人、望月さんを待ち伏せしたり、会見室の中にまで入ってきて「あんたのやってることは所詮、負け犬の遠吠えだ」と執拗に説教してきたそうじゃないですか。「お前よう言うたな!!」と思いました。

*オフ懇・・・オフレコ懇談。政治家が話したことを記事化しないという暗黙の了解の下で、記者と政治家の間で行われるやり取り

——なんでそこまで執拗にからもうとするんでしょうね……。

アル:望月さんが年上の男性記者だったり、白鵬みたいにいかつい男性だったら、言わないと思うんです。やっぱり自分より若くて、かつ女だから舐めてるよなって。私にも新聞記者の女友達は何人かいるんですけど、口をそろえて「男社会だよ」「古い、昭和だよ」って言います。

私と同世代の女友達は、「若い女子が警察や官僚の取材担当をさせられたのよ。それって女の武器を使ってネタをとってこい、と暗に指示されてるんだよね」と言っていました。新人時代に取材先の官僚から無理やりディープキスをされたこともあるそうです。そして、驚くことにアラサーの新聞記者の女の子と喋っていたら、今も同じようなことが起きていて、「女の武器を使え」と圧をかけられるそうなんです。

望月:新聞社はこれまで「抱きつき取材」*と言われるような取材がある種、ネタ元に食い込むための手法として評価されてきましたが、黒川弘務元東京高検検事長と記者らとの賭け麻雀問題をめぐって、こういった取材手法は特に若手の記者から疑問の声があがるようになりました。「抱きつき取材」そのものが見直されるべき時代になったと感じます。

*抱きつき取材…取材先の懐に入り込み、親密な関係を結んで情報を得る、日本のマスコミの伝統的な取材方法。男性記者は麻雀やゴルフを一緒にする仲間となり、一方、女性記者は会食中などに取材先からのセクハラにあうことも珍しくない

アル:福田事務次官のセクハラ*とかもありましたけど、一般社会との意識のギャップがすごい。友人たちが言うには「記者だから仕方ないよね」みたいな空気が社内にあるそうなんです。私の、一般の感覚から言うと、どんな職業だろうがセクハラされていい人なんているわけがない。

セクハラは性暴力で人権侵害です。それを社会が軽視しているのが問題ですよね。「大げさに騒ぐな」とか「笑ってかわせ」とか、そういう空気があるからセクハラがなくならない。「それって性暴力しやすい社会に加担していますよね!?」と、私は怒りの法螺貝を吹いています。

*福田事務次官のセクハラ…2018年、財務省の福田淳一事務次官(当時)が、テレビ朝日の女性記者と会食中、「胸触っていい?」「抱きしめていい?」などの言葉を執拗に投げかけた。記者は1年ほど前から、取材を目的とした会食の席でたびたびセクハラ発言をされてきたという

望月:多くの新聞社が福田さんの事件をあれだけ大きく取り上げたのに、あの事件があってもなおそれを言っているような人がいるんです。ただ、少し変わったのは、福田さんの事件のあと、各社が「取材先でも社内でも、セクハラ・パワハラがあったらなんでも報告してくれ」という対応を始めたということ。

わが社(東京新聞社)でもそういうセクションが作られ、匿名で報告ができるようになりました。日本テレビは2002年10月から「日テレ・ホイッスル」という社内報告制度を始め、この制度を契機にセクハラやパワハラが判明し、左遷される人が続々と出たとも聞きました。テレビ局では、取材先からの被害というより、正規社員と外注スタッフの力関係によるパワハラでけっこう処分者が出ているようです。

見て見ぬフリをしてきた後悔で…

——「福田セクハラ事件」は、メディアにとって大きな転機だったんですね。

望月:私が取材したベテラン女性記者たちの間にも、何人か福田さんに「抱きつかれた」という被害者がいました。かつての記憶がフラッシュバックして(福田セクハラ事件の報道を)見ていられない、という人たちも何人かいました。

——何人か……。

望月:(福田さんのセクハラは)有名だったんですよね。でも、福田さんは出世するだろうと言われていたから、みんな見て見ぬフリをしてきたんです。私たち世代もそうだし、もっと上の世代もそうだけど、「この人はネタを持ってるからには多少のことは我慢しろ」みたいなことを容認してきてしまったがゆえの事件だったと思います。(福田セクハラ事件被害者の)テレ朝女性記者や、伊藤詩織さんといった、私たちより一回り下の世代がようやく声を上げてくれて、それでようやく各社がちょっとずつセクハラ・パワハラへの対応をとる流れができた。

アル:被害者を出さないと変わらなかったのか、というのがつらいですよね。もっと前に変わっていれば、あんなことはなかったかもしれないのに。私も「自分の世代がもっと戦っていればよかった」という後悔がすごく強いです。だから今、全力で法螺貝を吹いてます。

望月:そうですね。私たちがもっと早い段階から声を上げていれば、この波はもっともっと前に来ていたのかなと思います。

私の駆け出しのころ、20年前の支局のころを振り返ると、市議会議員とのお食事会に呼ばれて、名刺交換をしただけなのに、翌日私のマンションを調べて「マンションの下にいるから上がってもいいか?」と言われたこともありました。「ネタがあるんだからいいだろ」っていう認識だったんでしょうか。私は市政担当ではなく、警察担当だったのですが…。

特に地方になると……東京なんかは昔と比べてまだマシですが、地方では今でもまだまだ男尊女卑が激しいところが多くて、「女性記者ってこんなもんだろ」みたいに扱われているケースがあります。

東京近辺では「もうこんなことありえないよね」ということが地方ではまだ起こっていて、地方紙の女性記者に「もうこれは黙っていられない」と、相談を受けることもありますが、相談してくれる女性記者たちは、大学でジェンダー問題などの勉強を積んでいて社会のジェンダーギャップを変えたいと思っている人が多いですね。やっぱり、伊藤さんが出てきてくれたことは、ものすごく大きかったと思います。

——ということは2017年ころまで皆さん耐えていたという感じだったんでしょうか。

望月:その前に上野千鶴子さんや田嶋陽子さんといった先生たちが切り開いてくれたところがあって、それに共感して勉強する人たちは増えていましたが、ここ最近の表立った事件としてはジャーナリスト伊藤詩織さんのインパクトが大きかったと思います。

そして、伊藤さんの告発の約半年後に、ニューヨーク・タイムズの女性記者チームが、ハーヴェイ・ワインスタインという有名な映画プロデューサーのセクハラを告発し、日本だけでなく世界で#MeToo、#WeTooの流れがワーッと広がりました。さらに、愛知で実の娘に性暴行を加えていた父親が一審で無罪判決を受けたこと*に抗議のフラワーデモが全国に広がった。この流れが大きかったと思います。

でも、アルテイシアさんの本を読むと、アルテイシアさんたちはこういった問題が明るみになるより前からこのテーマに敏感で。かつては見向きもされなかったテーマなのに、今や「どんどんお願いします」「コメントください」となっていますよね。ご自身はその変化をどう感じているのか聞きたいところです。

*父親から10年以上にわたり性的暴行を受けていたにもかかわらず、2017年の一審では、「(娘は)抵抗できない状態ではなかった」と判断され無罪に。2020年3月12日の控訴審では、「長年にわたる性的暴行で抵抗する意思を奪い、抵抗できない状態だった」と名古屋高裁は懲役10年の有罪判決に改めた

アル:やっぱり#MeTooは本当、黒船でしたよね。今回のフェミブームもアメリカから流れがきた。フェミニストの先輩方が「フェミニズムが難しく学術的になりすぎて、うまくバトンがつながらなかった」とおっしゃっていて、それはたしかにって思います。マルクス主義的フェミニズムとか言われても「なんやようわからんし、自分には関係ないわ」と思っちゃいますよね。

私はジェンダーの研究者でもないし、路地裏の野良作家ですが、だからこそ中高生でもわかるように書こうと心がけています。かつ、なるべくシンプルに面白く。

ハッピーフェミニスト、バッドフェミニストとかありますけど、私は“ひょうきんフェミニスト”でありたくて。ジェンダーやフェミニズムに興味がなかった人でも「面白いから読もう」と思ってくれたらうれしい。無関心な人にも届くものを書きたいと思ってます。

望月:それが影響力のあるアルテイシアさんの技というか。政治部とか社会部のネタって、批判的な視点しかないからというのもあり、ついつい暗くなっちゃうんですよ。でも、「メディアもお先真っ暗だ」で終わっちゃうと、若い人は食いついてこないですよね。

アルテイシアさんの「法螺貝」とか「膝パーカッション」とか読んじゃうと、重い話でも笑っちゃう。でも読めばズシンと落ちてくるものがある。そこは意識してやってるんですか?

アル:生まれつき、ふざけてるんですけど(笑)。自分では真面目にしてても「ふざけるな」と言われ続ける人生でした。ただ、ただでさえしんどい世の中だから、若い人たちはしんどいものはあまり見たくない。だから、しんどくないもの、笑って元気が出るようなものを書きたいと思ってます。

第2回は11月28日公開予定です。
(構成:須田奈津妃、編集:安次富陽子)

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「私は“ひょうきんフェミニスト”でありたい」アルテイシア・望月衣塑子対談

関連する記事

編集部オススメ
記事ランキング

まだデータがありません。