ウートピでも連載中の作家・アルテイシアさんと、東京新聞社会部記者の望月衣塑子さんが、フェミニズムについて、メディアについて、政治について語る4回連載。
アルテイシアさん著『フェミニズムに出会って長生きしたくなった。』(幻冬舎)と、望月衣塑子さん著『報道現場』(角川新書)を、お互い読み合ってからのスタートです。
世論では半数以上が選択的夫婦別姓に「賛成」だけど…
望月衣塑子さん(以下、望月):若い世代のジェンダーや政治に対するムーヴメントのうねりをインターネットなどで感じているアルテイシアさんから見て、自民党が選挙公約で「選択的夫婦別姓を“検討する”」ではなく「不利益をさらに解消」という表現にとどめたのはどう思いますか? 政策全般を仕切ると言われている政調会長に、夫婦別姓や同性婚に大反対する高市(早苗)さんが就いたから、公約の中枢に乗ってくることはないとは思っていましたが、案の定……という感じでしたね。
アルテイシアさん(以下、アル):本当に政局の事しか考えてないんだな、国民じゃなく、自分たちの内輪のことしか見えてないんだなって思います。これまでもそれでやってきたし、変わる気がないんだと思います。
望月:岸田(文雄)さんが所属する宏池会はリベラルな価値観の人が多い派閥なので期待するものがあったけど、結局ふたをあけてみると「検討する」という一文さえ入れられない。世の中がジェンダー問題で怒っていて社会を変えようとしているのに、その熱量と今の政治の流れがすさまじく乖離している感じがします。朝日新聞などの世論調査でも7割近くが選択的夫婦別姓に「賛成」でした。
アル:同性婚の法制化についても、8割以上が賛成しているという調査結果*がありますが、まったくそれを政治に反映していないわけですよ。
やっぱり都合のいい国民にされてきたと思うんです。たとえば、政権批判をすると“反日”とか“パヨク”とか呼ばれたり、芸能人が政治について触れれば「芸能人が政治を語るな」「わかってないくせに」と叩かれたりする。国民が意見を言ってそれを反映するのが民主主義なのに、わかってないのはそっちだろ!と思います。
※同性婚の法制化についての調査結果…
電通「LGBTQ+調査2020」の結果によると、「賛成」が31.0%、「どちらかといえば賛成」が51.2%で、計82.2%が賛成と回答
https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2021/4/14.html
このままでは”ヘルみ”が増していく一方
——女性政治家には期待していますか?
アル:田嶋(陽子)先生との対談でもお話ししたんですけど、フェモナショナリズム*的な政治家には、女性議員といってもまったく期待できません。「女トランプみたいな政治家ってなんで生まれるんですかね?」という話をしたときに田嶋さんがおっしゃっていたのが、「男社会の価値観を内面化した女たちは、女らしさを演じながら男の期待する役割を果たす」と。
女性議員の数が少ないから、男社会に迎合せざるを得ないんですよね。都合のいい、わきまえた女にならないと生き残れない。だから、まずは女性議員の数を増やすしかない。政治も一般社会の管理職も、とにかく女性の数を増やすことが必要です。
*フェモナショナリズム…フェミニズムを利用して排外主義的な政策への支持を広げようとすることや言説
——議員や管理職の女性を増やす以外に何かありますか?
アル:あとは教育ですよね。政治が変わらないと教育も変わらないところがあり難しいんですが、教育は本当に重要だと思います。田嶋さんが対談でおっしゃってたんですが、50年前にイギリスに留学したときにびっくりしたことが2つあると。1つ目はお父さんが家事や育児をめっちゃすること、2つ目は親子で喧々諤々、政治について語ること。
スウェーデンの友人に聞くと、中学生の娘さんが友達同士で政治の話をよくしているそうです。「政治を批判するのは国民の義務だし、よいことだとされている」と彼女は言っていました。保育園から民主主義の根本を教える、つまり自分で考えて自分で意見を言うってことを教えるんだそうです。
——すばらしい……!
アル:一方、日本では政治の話はタブーという風潮が強い。そうやって政治の批判もしない“都合のいい国民”にされていることに、気づかない人が多い。20年前の小泉政権以来、“自己責任”という言葉をよく聞くようになりました。同時に格差が拡大し、国民の貧困などのあらゆる問題はすべて「自分のせいだ」「努力不足だ」と洗脳されてきました。政治家は批判されず、ますますやりたい放題ナウです。この流れを止めないと、ヘルジャパンのヘルみは増すばかりですよ。
——政治に対して諦めもあるのかもしれません。特に若い人たちは、生まれてからずっとこんな調子だから、変わるものだと思っていないのかも……。怒りの声は上げやすくなっているはずなんですが。
アル:北欧の若い人たちの投票率がすごく高いのは、自分たちの意見がきっちり政治に反映される実感があるからですよね。たしかに日本では政治は他人ごとに見えてしまうかもしれない。でも、それはイコール自分たちの生活に跳ね返ってくるんだよと若い人たちに実感してもらうためには、メディアがもっと頑張るべきだと思うんですよ。
特にテレビ、子どもも老人も観るテレビはやっぱり影響力が大きいです。「どんな社会にしたいのか?」をメディアにかかわる人間一人一人が考えるべきだし、影響力を自覚するべき。人権やジェンダーについてしっかり学ぶべきだと思います。
若い人から教えてもらう姿勢
望月:メディアを見ていると、「またこういう(価値観のズレた)描き方をしてるなぁ」って呆れることも多いですよね。でも、私たち以上に20代30代の若手の記者、特に女性記者の思いは強いと感じます。
国分寺の市長選で、青年会議所が主催した公開討論会のチラシに、脚を露出したポーズの女性モデルが起用されていて、批判が集まったという記事を覚えてますか? 記事を書いたのは東京新聞の若手の女性記者なんですが、上司に上げても初めは「こんなのニュースになる?」みたいな感じだったそうです。最終的には上司も納得し、社会部デスクを通じて記事を世に出すことができました。結果、記事はものすごく読まれたんですが、これがニュースになるとすぐに反応してくれない上司がまだまだいるということなんですよね。テレビでも同じことが言えると思います。
——記事になるべきものが、ジェンダー観が古い上司によって却下されることも多々あるんですね……。
望月:私も含め、デスクたちが20~30代の若手記者から「ニュースになる価値があるんだ」ってことを教えられている状況ですね。私たち中堅以上の人間は、すでに感覚がズレつつあるんだから、そういう自覚のもとで20~30代の子たちから教えてもらうのだ、アップデートするのだという姿勢を持ち、若手の違和感を大事にしていくのが重要なのかなと思います。
アル:女性議員や女性管理職の数を増やせと言いましたが、上を変えるためにも“数の力”は重要だと思います。イギリスとか、欧米の公共テレビとかだと、性別、人種、年齢、セクシャリティ、宗教、学歴など、多様性ある人材を確保することを義務付けているそうです。日本のテレビ局はトップにいるのが高学歴のエリート男性ばかりなので、価値観が偏るのは当然ですよね。それ以外の多様性ある人材を増やさないと、変わらないと思います。
男性アイドルの桶ダンスにびっくり
——なるほど、”数の力”で権力に対抗する。そうすれば、上も変わらざるを得ませんね。
アル:そうなんです。あと、テレビの問題といえば、テレビってときどきギョッとするようなものを流すじゃないですか。たとえば男性アイドルに対する股間ドッキリとか全裸ドッキリとか。私は「男性の身体の尊厳も守られるべきだ」という記事を書いたんですが、その記事がすごいバズったのを見て、やっぱりみんな注目してるんなだと思いました。
ほかにも、男性アイドルの桶ダンスも未成年に対する性搾取だからやめよう、という署名活動がありましたし、男性の性搾取に関しても関心は高まっていると思います。
望月:桶ダンスってなんですか?
アル:ほぼ全裸で肌色のパンツだけをはかせて、桶を持って踊るという某事務所の伝統芸があるんです。それに対してファンが「未成年の子もいるし、性搾取をやめてください」という署名活動を始めたんですよ。私は自分の推しがそんなことさせられたら、桶をかついで打ち壊しに行くと思う。桶騒動を起こしますよ。
望月:そもそもそれ、需要があるんですかね?
アル:見たいという女性ファンもいるそうです。でも「エンタメなんだから、喜ぶファンのためにやればいい」という感覚はズレていると思う。欧米に住む友人たちは「こっちで桶ダンスとかありえないし、中高生アイドルの水着グラビアとかもギョッとされるよ」と話してました。日本は感覚が麻痺してますよね。ズレすぎててヤバいタレントも多い。「コロナで困窮した女性が風俗嬢になる」と嬉しげに話していたナイナイの岡村とか*
*ニッポン放送「オールナイトニッポン」の2020年4月23日放送回にて、「コロナが終息したら絶対面白いことあるんですよ。美人さんがお嬢(風俗嬢)やります。短時間でお金を稼がないと苦しいですから」などと発言
望月:2014年には、流れるプールで痴漢したことがあるとも言っていましたね*。犯罪やんって思うんですが、番組降板もなく、発言を批判する団体を批判するメディアすらありました。個人的に岡村さんは大好きな芸人さんですが、意識の低さには驚きましたし、発言への番組や社会の反応は本当にヌルいと思いました。
※ニッポン放送「オールナイトニッポン」の2014年6月20日放送回にて、「初期の頃、流れるプールが流行った時にものすごく痴漢しましたからね。まぁ、時効ですけども。ケツ触ったりしましたけども。そんなのと同じような現象が渋谷のスクランブル交差点で、人の波が痴漢を誘発してしまうんでしょうね」などと発言
アル:あれはラジオの生放送ですよね。編集可能な収録番組で、松本人志が「水商売のホステスさんが仕事を休むからといって、ホステスさんがもらっている給料を我々の税金では、俺はごめん、払いたくはないわ」と発言したときは、「よく放送したな……」と白目になりました。これはあからさまな職業差別であり、夜職の女性を社会から排除する発言ですよね。夜職のシングルマザーもすごく多くて、つまり子供がそれだけ貧困に陥っている、社会問題でもあるはずなのに。
*フジテレビ系列「ワイドナショー」2020年4月5日放送回
望月:そうやって明るみに出ることで、メディアも自覚が持てるところもあるかもしれませんね。反省しているかは分かりませんが。今年、五輪の開会式をめぐって、関わっている音楽家や絵本作家などの人権侵害といえる問題が一気に出てきました。いじめや差別に関わっていた、という問題です。問題が明るみに出たことで、国際感覚からかけ離れた人権意識の希薄さが浮き彫りになりました。「日本ってそんなことやっているんですか?」と。私は東京五輪の開催に反対だし、開催を強行したことは、救うことのできた命を救えなかったという意味でも誤った選択だったと思いますが、開催したことによって日本の人権後進国である状況が世界に露呈したという点で、結果としてよかった面もあったとは思います。
アル:そうですね……私は東京五輪が開催されたことがイヤすぎて、その間ずっと体調がすぐれなかったけど(笑)。森喜朗氏の女性蔑視発言に抗議の声が集まって辞任に至ったことなどは、大きな変化だったと思います。
最終回は11月30日公開予定です。
(構成:須田奈津妃、編集:安次富陽子)