「二村ヒトシ×ジェーン・スー」第2回

「弱さ」を見せるのは男らしくない、「欲望」を語るのは女らしくない?【二村ヒトシ×ジェーン・スー】

「弱さ」を見せるのは男らしくない、「欲望」を語るのは女らしくない?【二村ヒトシ×ジェーン・スー】

「ジェーン・スー対談」
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正しくない欲望、上等!

スー:ところで、性愛って邪で不均衡なパワーが生む欲望みたいなものがないと始まらないところがあると、私は思うんですよ。どうしたって、思い込みや偏見や力の勾配(こうばい)が欲情装置になってしまう部分があると思うんですけど。

二村:はい。正しくない欲望、上等だと思います。人間の欲望って本来、正しくないものですからね。性教育が「正しいセックスをしましょう」「正しい恋愛しか許されません」って言いだしちゃうと、誰も恋愛が始められなくなる。

スー:正しい世界で男は勃起するんですか。

二村:しなくなるでしょうね。僕ね、レズのAV撮ってたじゃないですか。もちろん男性が見る娯楽として、ガチのレズビアンの人は滅多に登場しない。AV女優さんは、ほとんど異性愛者です。今日はレズの撮影だっていうと、かわいい女優さんが「かわいい女の子に私ごときのまんこなんか舐(な)めさせるなんて絶対無理!!」って、まるで親の仇(かたき)みたいにシャワーでゴシゴシ自分を洗ってくるの。双方がですよ。そして撮影が始まると、なんていうか、友情に近い「愛」が生じるんですよね。ああいうの何ていうんですか? シスターフッド?

スー:仕事として女性同士の助け合いってことですかね。

二村:それで優しさだけじゃなくて、ちゃんとおたがいを尊重した上での「セックスの暴力性」のエロさも撮れる。もちろん「女同士だから大丈夫」って話じゃないですよ。ガチのレズビアンの恋愛で男女と同じドロドロが生じることもあるんだろうし。だから、人間としての関係は対等さを重視しつつ、セックスだけでプレイとしてのエロさを追求するのがベターなんじゃないですかね。

スー:だとすると、力の不均衡が存在しない理想的な日常生活とは完全に別に、ベッドの中だけでそれをやる方法ってあるんだろうか。

二村:夫婦でSMプレイやってるとこは、セックスレスになりにくいんじゃないですか。ようするに夜の世界であるセックスの関係に、昼間の関係を持ち込まない。でも同性同士でも異性同士でも、一緒に住んで生活を共にしちゃったら普通はセックスレスになる。

スー:信頼関係と性行為はすごく相性が悪いときありますもんね。

二村:相手が何者なのか、わからない部分があるから興奮する。相手の謎を解いていくのがエロいんです。

スー:あと支配。ああ、この人はいま私じゃなくて自分の支配欲が満たされて興奮しているんだなって、下から見てて思うことがあります。

二村:会社で威張ってる男がSMクラブにいじめられに行くのも、非日常と力の不均衡に興奮するから。

ほのぼの夫婦に見える善良な仲良しカップルが、合意のもとに、けっこう暴力的なセックスをしてるケースも知ってます。奥さんの趣味に合わせてるらしいんだけど夫もまんざらではない。そういう夫婦はセックスレスにならない。

スー:それってつまり心の穴がぴったりしてるってことですか。

二村:そうなんでしょうね。「生活」以外のところでも、求め合えている。

スー:すごいなそれ。だって、心の穴と性欲が近しいところにあるからあれだけAVのバリエーションが存在するんだと仮定すると、心の穴がパートナーと一致することってかなりなレアケースってことになる。昼間の日常生活はお互いに大人だし社会人だからある程度の調整はつくと思うけど、夜のほうはどうやって見つければいいのか。

二村:「生活」は配偶者とやって、お互いが「恋愛」は内緒で別の相手とやるのがダブル不倫。浮気じゃなくて複数恋愛を相手全員の認可のもとに、相手の相手にも認可してもらって民主的にやるポリアモリーという生き方もあります。

スー:あれを万人が受け入れるのは難しいでしょうね。

二村:どこか悪いことをしているという感覚、罪悪感ではなくて「背徳感」を残しておかないと、恋愛というのは成り立たないような気がする。われわれの欲望は社会のためにあるわけでも「正しさ」のためにあるわけでもない。

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男性は弱さを、女性は欲情を禁忌とされてきた?

スー:「悪いことをしている」と感じられるほうが盛り上がるのはあるでしょうね。10代の頃は、40歳超えたら性欲なんてなくなると思ってましたけど、違いましたね。とはいえ、もう無駄撃ちしてる場合じゃない、満足度の高いセックスをしていこうと考えると、はて私は何に欲情するのかと。欲望の形を確かめる訓練を怠ってきたことに気付きました。今まで、世間の「エロい」が私の「エロい」と同じだと信じて疑わなかったんだと思います。そうじゃないかもしれないのに。

二村:女性の場合、自分の欲望について安全に話せる「場所」が必要だろうなと思います。「自分の性について話すなんてはしたない」みたいな気持ちがあるなら、それをまずどうにかしたほうがいい。

スー:ありますね。あ、わかった。男の人は自分の弱さや恐怖などを「みっともない」とネガティブに捉えるように教育されてきて、それを認知しないほうが強いとされてきた。弱さは「男らしくない」ってことですね。

一方、女性は欲望全般の形を自分で把握すること自体が禁忌(きんき)になっているように思います。セックスだけじゃなくて、欲しいもの全般、欲望全般です。「はしたない」とか「強欲だ」と言われちゃうんですよね、女が欲望を語ると「女らしくない」。昔に比べたら語られ始めてきたとは思うけど、それでも、まだストッパーがかかる。

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二村:女らしくない変な女だと思われたくないとか、軽い女だと思われたくないとかね。

スー:「女性は性行為に対して受け身であるべきで、欲望を持つこと自体がよろしくない」という考え方は、どの世界にもいまだあるでしょうね。欲望の形を確かめる前の段階でストッパーがかかる。これまでは、男性は弱さを、女性は欲情を、互いに塞ぐことでうまく回ってたけど、もはやそれでは社会が機能しない。お互い目を背けてきたことに自覚的になったほうがいいような気がします。

二村:セックスの相手の男性によってしか自分の欲望が開発されないってことも、受け身である女の人の大変さだよね。まず自力で開発して、自分の欲望について知ってから相手を探したほうがいいですよ、とも提案したい。

それって、つまりマスターベーションをもっと楽しもうよってことなんですけど。男性が生活上で女性を支配しておくために、女性のマスターベーションはさまざまな文化において禁忌(きんき)だったわけですから。

スー:自分が何に興奮するかを見極めるために男性向けのAV見るっていうのも難しい。

二村:そうするとBLを楽しむのがソフトランディングなのかなって気もします。

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【前回は…】自分の傷に無自覚だとどうなる?中年クライシスと「心の穴」の関係

※最終回は9月23日(水)公開です。

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