結婚がわからない・渡辺ペコさん対談 後編

公認不倫、妻もしているかもと思えない夫のリアルさ【渡辺ペコさんと語る】

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公認不倫、妻もしているかもと思えない夫のリアルさ【渡辺ペコさんと語る】

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結婚とは一種の契約であり、二人の間には義務やルールが設けられる。しかし、人間は個人として生きている存在でもあり、結婚という枠組みに収めることのできない感情や欲望が湧いてしまうこともある。それらについて、どう考えればよいのか──。

前編では、そんな話題について漫画家の渡辺ペコさんとともに語り合った。“公認不倫”の夫婦を描く漫画『1122(いいふうふ)』(講談社)を通じてペコさんが考えてきたことは、「結婚とは何か」を考える上で大きなヒントを与えてくれるような気がする。

後編もペコさんと一緒に結婚という制度や個人の欲望について考えていきます。

清田代表(左)と渡辺ペコさん(右)

清田代表(左)と渡辺ペコさん(右)

【前編】2人が結婚に踏み切れた理由

妻が浮気している可能性に思いを馳せない夫

清田隆之(以下、清田):『1122』には、「セックスレス」という問題に直面し、結婚とは何かの問い直しを迫られた夫婦*が登場します。仲良く夫婦を続けたい。だからセックスのことで関係を壊したくはない。とはいえ、性的欲求がなくなるわけではない。じゃあ、どうするか──。こういう葛藤の末にこの夫婦は“公認不倫”という制度を作るわけですが、それで一件落着とはならず、そこに収まらない感情や欲望がどんどん生じていくのがリアルでした。

*妻の一子(いちこ)と夫の二也(おとや)

渡辺ペコさん(以下、渡辺):完全に割り切れちゃうと物語にならないというのもあるので。そもそも、恋愛の好きっていう感情は3年くらいしかもたないと言われていますよね。でも夫婦は、尊敬の念を抱いたり、再び惚れ直したりしながら、いい関係を築いていくことが可能だと思っています。とはいえ……それでもやっぱりどうにもならない欲求なんかも生じるわけで、本当に難しいなと感じます。

清田:おとやは外に恋人を作りつつ、家でもよき夫で、最初はこの公認不倫の制度でうまくやっています。このルールは元々、夫のセックスを拒否した妻のいちこが言い出したものということもあって、おとやはさほど罪悪感なく公認不倫をしている。ルールもちゃんと守っているし、人として妻のことを大事にしているから、自分は大丈夫という認識なんですよね。

渡辺:でも、いちこは外に恋人がいるわけでなく、性的欲求を持て余しています。アダルト動画を見たり、信頼できる男友達に相談してみたり、しまいには女性用風俗の利用を検討したりと、いろいろ試行錯誤していきます。

清田:そのことに、おとやはしばらく気づかないんですよね。自分だって婚外恋愛をしているのだから、妻も同じことをしてるかもって、理屈で考えればそんなふうに思いそうなものですが、おとやにはその発想がなかった。しかし、ある瞬間に妻が浮気している可能性に気づき、動揺する……。こういうところが極めて男性っぽいなと感じました。

渡辺:男の人って、女性にも性欲があるってことをあまり考えないと言われてますよね。

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認識の甘さに気づいてギクっとなる男たちの姿

清田:おとやのように、あることをきっかけに自分の中の思い込みや枠組みが崩れ、急に慌てふためき始める男性の姿が、ペコさんの漫画にはよく登場するような気がします。『にこたま』(講談社)の晃平や『ボーダー』(集英社)の清田(同じ名前の主人公!)もそうですよね。「自分が想定していたより現実ってもっと複雑なものだったんだ……」と気づいておろおろする男たちの姿がとても生々しかったです。自分も認識の甘さに気づいてギクっとなる瞬間が日常で多々あるので。

渡辺:私は男性を描くのって難しいんですよね。やっぱり女性とは感覚も違うだろうし、基本的にはわからないものとして描いています。だから、あくまで女である私が描いた男性という感じなのですが、少しでもリアリティを感じてもらえたならうれしいです。

清田:個人的に、『にこたま』ですごく印象的なシーンがありました。子宮の病気で恋人の温子が入院したとき、晃平が無力感に苛まれるところ。その後、晃平は、温子が入院生活で退屈しないように本やCDを仕入れてくる「レク係」に任命されます。あのとき「これならできる!」と喜んだ晃平の姿を見て、なんだか胸が苦しくなったんです。というのも、男の人って女性の身体のことに関して本当に無知で、ケアのスキルも経験も不足していたりするから、心配はしていても具体的に役立てないことが多いんじゃないか、と……。自分にも妻の入院中に似たような経験があったので、他人事に思えませんでした。

渡辺:なるほど。確かに生理や妊娠のことに関して知識の差を感じることが多いので、男性に身体のことを気軽に話せる感じはしないですね。ただ、知識があったとしても、男性にはない現象なので、女性の感覚を想像しながら声をかけるのも難しいと思います。もっとも、女性だって男の人に関してはわからないことが多いから、本当はお互い様だとは思います。

清田:そう考えると、身体のことに関する無知さと、女性の性欲に対する無理解は、根底のところでつながっているような気がしてきました。

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フェミっ気が強くなった結果、性の嗜好に変化が…

渡辺:それにしても、性欲って何なのでしょうね。清田さんは以前、ご自身の性欲についてコラムを書かれていましたよね。かなり赤裸々に語られていて興味深かったです(笑)。

清田:お恥ずかしい限りですが……女性たちの恋バナをひたすら聞き続けた結果、自分の性的な嗜好が変わってしまったという実感がありまして。というのも、例えば「セックスしたら音信不通になった」とか、「妊娠したら堕ろせと言われた」とか、「生理でできないと伝えたら口でしてと言われた」とか、「痴漢やセクハラに遭った」とか……そういうセックスにまつわるツラい話をたくさん聞くうちに、男性の性欲に対してとても横暴で加害性の強いものだと思うようになってしまったんです。

渡辺:女性側に感情移入し、フェミっ気が強くなったのでしょうか? その感覚はちょっとわかるような気がします。

清田:そうだと思います。それで、いつしか性的嗜好が「身体の大きな年上女性」にばかり偏っていきまして……。自己分析するに、自分よりも身体が大きく、年齢も上の女性だと、性欲にまつわる加害意識が免責されるような感覚になれるんだと思います。太った熟女が好きだなんて、いかにもマザコンっぽくて書くのをためらったんですが……事実だから仕方ないかって。

渡辺:私も年取るほどにフェミっ気が強くなり、欲望に対する考え方がちょっと変わりました。ドキドキするポイントが変化したというか。そのことに気づいたのは、最近になって突然K-POPグループ「BTS(防弾少年団)」にハマったことがきっかけなのですが……。

清田:BTSのこと、ツイッターによく書かれていますよね。

渡辺:元々はアイドルに興味はありませんでした。「ルックスで異性を好きになるなんて堕落では?」くらいに思っていて……。でも、BTSを見てたら「いいな」という感情が芽生えてきまして。アイドルだから見た目がいいのは当たり前かもしれませんが、顔は中性的でキレイだし、足は長いし、化粧をしている姿もなんだかうれしくて。以前はテリーマンとか髙田延彦さんみたいな身体の大きな男性が好きだったのですが、いきなり線の細いイケメン好きになり、我ながらすごい変化だなって。

清田:めちゃめちゃ興味深い話ですね!

渡辺:視覚の快楽に目覚めたという感じでしょうか。ティーンの女の子たちがアイドルにキャーッとなっているのともまた違う、なんというか強烈にバーンって、脳にガチーンって来た感覚があり、「すっごいな……」と、なったんです。オタク男性の笑い声を表す「デュフフ」というネット用語がありますが、リアルにあれが最近出て、「擬声語じゃないのかよ!」って。しかも、その瞬間を夫に見られていて恥ずかしかった(笑)。ただ、そういう視点が生まれ、見た目を消費したり、ダンスや歌を見てときめいたりしているのは、私も歳を取って、消費する側、搾取する側になっているのと関係してると思います。

清田:いわゆる「記号的な性の消費」と言われるものですよね。これまでは主に男性がするものとされていた節もありますが、実は男だけのものなんかじゃなくて、環境が整ったり、規範の圧力が弱まったりした結果、記号消費を楽しむ女性が増えてきたという側面もあるのかもしれませんね。

渡辺:この感情はなんなのか、自分でもすごい検証します。欲望なのか、ノスタルジーなのか、賛美なのか。知の感覚なので。おそらく、社会的な経験もあってインストールされたものですよね。すぐに去るのか、いつまでも続いていくのか。清田さんの経験も参考になります。

「熟女に抱かれたい」と「菊池亜希子になりたい」の狭間で

渡辺:BTSのほかに、メイクにも最近興味が出てきたんですよ。でもそれは、“きれいな女性”になるためのメイクとかではなくて、「K-POPアイドルのようなイケメンになりたい」という気持ちの芽生えからきています。ああいう化粧をしたいなって、そんな欲望が初めてわいてきて自分でもびっくりしました。

清田:あ〜、なんかその気持ちめっちゃわかります! 自分も「○○になりたい願望」みたいなのがあって、モデルの菊池亜希子さんとか、女優の清野菜名さんとか、バンドのCHAIとか、キュートでカッコイイ女の人のインスタを見て日々うっとりしています。性欲とはまったく別物なんですが、そういう感覚と、「身体の大きな年上女性に抱かれたい」という気持ちが同居していて、なんだか整合性が取れない(笑)。でも根底でつながっているような気もするんですよね。

渡辺:わかるような気がします。清田さん既にちょっと菊池亜希子さんっぽいですよ(笑)。私ももう一押しで「熟女に抱かれたい」って気持ちを理解できそう。漫画家の田房永子さんもどこかでそういうことを書かれていましたよね。

清田:話が逸れまくってしまいましたが、リベラルな恋愛観・結婚観で言えば、互いに個人としての人生を生きる中で、せっかく結婚という選択をしたのなら、互いを尊重しながらできるだけいい関係を続ける努力をしていく。それでもどうにもならない感情や欲望があるなら、『1122』のようにこっそり外で満たすというのも大人の関係かもしれない。ただ、愛情や信頼関係というのは繊細なもので、「それが在る限りにおいては在る」という、一種のフィクションのようなものかもしれない、とも思います。個人の中にある様々なものと、結婚や恋愛関係という枠組みを、どう捉えていけばいいのか。考えれば考えるほどわからなくなっていきますね……。

渡辺:真摯に向かい合い続けた結果が「太った熟女に抱かれたい」と「菊池亜希子ちゃんになりたい」ですもんね(笑)。でも心強かったです。私もいろいろ考えてきたのに、若いアイドルにデュフフってなったり、自分もイケメンになりたいとか思ったり、どうしていいかわからなかったので。それに、あれだけ大人が若い異性を消費することを嫌っていたのに、お金を払って記号消費するおじさんのようなマインドになっていることに困惑もしていました。でも、矛盾しているのですが、やはり生まれてしまった感情は本当だから抱えてつき合っていこうって、改めて思えました。

清田:存在したものはなかったことにできないですもんね。僕も引き続き考えていきたいと思います。ありがとうございました!

(清田隆之/桃山商事)

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結婚がわからない

普段は恋愛相談や失恋話ばかり聞いている桃山商事の清田さんに、自分自身の結婚や、どんな毎日を送っているかをつづっていただきます。

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