『天国飯と地獄耳』岡田育さんインタビュー第1回

岡田育さんに聞く、“盗み聞き”の醍醐味 『天国飯と地獄耳』発売

岡田育さんに聞く、“盗み聞き”の醍醐味 『天国飯と地獄耳』発売
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聞いちゃ悪いな、と思いつつもつい耳をそばだててしまう「盗み聞き」。偶然耳に入ってきた隣の席の会話から誰かの人生の一片を知ることも……。そんな盗み聞きについてつづった岡田育さんのエッセイ『天国飯と地獄耳』(キノブックス)が6月2日に発売されました。

東京で、鎌倉で、フランスで、そして移住先のニューヨークでごはんを食べながら「イケナイコト」とは知りつつも盗み聞きをした岡田さんに3回にわたって話を聞きました。

英語の“盗み聞き”は大変

——『天国飯と地獄耳』は元々は雑誌『新潮45』の月刊連載としてスタートしたんですね。紙媒体の連載が初めてとお聞きしたんですが、いかがでしたか?

岡田:もともとは出版社に勤める編集者としてスタートしていて、ずっと紙の雑誌、紙の書籍を作る仕事をしていたので、元に戻ってきたという感じで懐かしかったですね。自分で文章を書く媒体はウェブが多く、今までに出した本もそれをまとめたものでしたから。

——『ハジの多い人生』ですね。やっぱりウェブと紙は違いますか?

岡田:ウェブは本当に字数無制限で書けるんだと思って、毎回どんどん長くなっちゃっていたんですが、紙に戻ってきたので、切り詰めて切り詰めて書いていくのはこういう感じだったな、と新鮮でした。

——しかも『新潮45』ですもんね。

岡田:そうなんです。読者層は中高年の男性なので、そのあたりを意識しながら、字数をそろえて、小見出しの位置も気を付けて書いていました。本になった文章にもその片鱗があらわれている気がします。回りくどいくらいに「街コンとは何か?」を説明していたりとか(笑)。ネットとはまた別の手ごたえや達成感があってうれしかったです。

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——本は日本での盗み聞きとニューヨークでの盗み聞きに分かれていますが、ニューヨーク編はウェブサイト「キノノキ」でのウェブ連載なんですね。またウェブに戻ってきていかがでしたか?

岡田:やっぱり反響をすぐにいただけるのがウェブのいいところですよね。でも、何より大きな変化のは、英語圏に身を置いて日本語の文章の文体が変わったことです。我ながら、英語っぽい言い回しが増えたな、と思ったり。

隣の席の会話が、日本語か、外国語かという違いも、すごく大きい。私が聞き耳を立てられる会話がずいぶん変わっちゃうんですよね。東京だったら、何でもかんでもうるさいくらいに聞こえてくるし、類推するのも簡単だけれど、外国語となると「解像度」がどうしても低くなる。

——英語のヒアリングの授業を思い出します。

岡田:でも、前後の文脈がわからず苦労したり、聞き間違えて勘違いしたりする悪戦苦闘も面白かったので、自分の語学力と向き合いながら、できる範囲で書いていました。

ニューヨーク編はおじいちゃんとおばあちゃんの盗み聞きがすごく多いんです。それはなぜかというと、おじいちゃんおばあちゃんの会話は若者と違って流行に左右されず、固有名詞やスラングがあんまり出てこないので、聞き取りやすかった(笑)。

——そんな事情があったんですね(笑)。

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盗み聞きをする人としない人の違いは?

——この世には、盗み聞きする人としない人がいると思うんですけど、盗み聞きする人としない人の違いって究極的には何でしょうか?

岡田:何でしょうね? 多分、盗み聞きした内容を、誰かに言って共有する人と、胸にしまって忘れようとする人とがいるんじゃないかと。どちらかというと、その違いではないですか。

盗み聞き自体は、みんな結構、していると思うんですよ。レストランですごく目を引くお客さんがいると、まわりのテーブルみんながシーンと静まり返ることってありますよね。そういう空気になったときに「よかった。私だけが悪いことをしているんじゃなくて、みんな今この人に集中して、観察しているんだな」という無言の連帯感があるじゃないですか。

——ありますねー!

岡田:でも、「やっぱり人の話を盗み聞きするのははしたないことだ」って、その場で記憶から消す人もいる。そんな人たちの分まで、私は全部憶えていて、プライバシーには配慮しつつも、全部シェアしちゃうぞ……と、そういう気持ちでこの24編を書きました(笑)。

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——私もときには目の前の人の話そっちのけで隣の盗み聞きをするほうの人間なんですが、盗み聞きでハッとさせられることもあります。半分言い訳ですが……。

岡田:そうですね。必ずしも楽しい話ばかりじゃなかったりもするし、腹が立つ話もあるんですが。でも、腹が立つ人でもじーっと観察して主張を聞いていると、チャーミングなところもある人なんだって思えて、許せるようになったりするのは面白いですよね。根気よく聞いてると、だんだん滑稽(こっけい)に思えてきたり、面白さを拾えたりするときもあるので。

——腹が立ったら人間観察っていうのもこのストレス社会を生き延びる知恵なのかもしれないですね。

岡田:はい。なので、みなさんもいかがでしょうか? と思います(笑)

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※次回は6月20日(水)掲載です。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

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