「尊敬できる上司がいない」
「管理職になりたくない」
「がんばりが認めてもらえない」
「やりたい仕事ができない」
などなど、会社という組織の中で働く私たちが感じている煩悩の数々。
いい上司もいないし、憧れる女性の先輩もいないし、ああ、なんて私は運が悪いんだろう……。と、自分の置かれた境遇をうらめしく思ってしまうこと、ありますよね。でも、実は私たちがこうして悶々としていることのなかには、すでに研究され尽くして法則や理論になっているものも、少なくないんです。
全5回シリーズでは、人材マネジメント・人材開発を専門とされている東京大学准教授の中原淳(なかはら・じゅん)先生に、私たちが職場で感じている数かぎりない煩悩をわかりやすく解説していただきます。
「なんで、自分だけ……」と理不尽に感じていることも、あらゆる組織に見られる「法則のひとつ」とわかれば、気がラクになるかも?
第3回のテーマは「チームがまとまらない」です。
第1回:「尊敬できる上司がいない」東大の先生にグチったら…
第2回:入社5年目以降の女性がやる気を削がれる本当の理由
あらゆるチームがたどる4段階
——このシリーズも、もう3回目まで来ました。今回は「チームがまとまらない」という煩悩を受け止めていただきたくて(笑)。
中原淳先生(以下、中原):もちろん、受け止めて差し上げましょう。詳しく聞かせてください。
——ありがとうございます。ウートピ読者は、社会人5〜10年目でまだ管理職じゃないけれど、チームのリーダーとして数人の後輩がいるという状況にあります。私自身も、ちょうど3人のメンバーを束ねていかなきゃいけないポジションにあって。チームが発足して1年ほど経ちましたが問題が次から次に噴出していて……。
中原:ほうほう。
——この1年、本当にいろんなことがありました。最初はみんながなかなか本音で話してくれないから不安だったし、そのうちメンバー間でケンカが起きたり、「KPI(評価指標)がわからない」「ビジョンがない」と突き上げられたり、「私のやりたいことじゃない」と離脱するメンバーも現れたりで。ここ数ヵ月でどうにかこうにかまとまりだしたような気はするんですが……まだ確信は持てないですね。
中原:ああ、それはまさに「タックマンモデル」を地でいってますね。
——ひょっとしてこの煩悩もすでに説明されている?
中原:はい、とっくに(笑)。アメリカの心理学者、ブルース・W・タックマンが提唱したもので、「あらゆるチームは、【1】形成期→【2】混乱期→【3】統一期→【4】機能期という4段階をたどって形成されていく」というモデルです。これがそのままきれいに当てはまると思いますよ。
ちょっと詳しく説明してみましょう。
【1】の形成期は、チームのメンバーが集められた最初の段階ですね。チームの目的を確認して、ひとつの目的のために一緒にがんばっていきましょう、というところです。
【2】の混乱期は、その名の通り嵐が訪れる段階です。メンバー間でいろんな認識のズレが明らかになって混乱が生じます。「これは私のやりたいことじゃない」とメンバーが離脱したり、「何がやりたいかわからない」とフォロワーのやる気が落ちたり、いろんな問題が噴出して綱渡り状態が続きます。
【3】の統一期は、混乱を抜けてルールができたり、メンバーの役割を再確認したりして、ようやくスムーズにチームが回りだします。カオス状態を脱し始めて、「ちょっと先が見えてきた」とホッとする段階ですね。
【4】の機能期は、チームに一体感が生まれて、目的達成に向かいます。それまでウンウン言いながら毎日やっと回していた仕事が、ルーティン化されてムダが減りラクに感じられるようになります。
——どのチームもこの4つの段階を踏むんだということが最初にわかっていれば、どんなに気持ちがラクだったことか……。つまり、今のチームは【2】と【3】の間にいるんですよね?
中原:おそらくそうでしょう。まさにがんばりどころですね。チームの規模やメンバーの状況にもよるので、一概には言えませんが、チームが【4】の機能期に入って全体が自動的に回るようになるまで、早くて1年はかかると言われています。要は「プロジェクトが軌道に乗った」という段階ですね。
——早くて1年……。まだまだ先は長いということですよね。
中原:でも、すでに【2】の混乱期に突入しているんですから、大丈夫ですよ。一番よくないのは、メンバーとの葛藤を恐れて、なかなか【2】の混乱期に入れないこと。いいチームをつくるためには、実は混乱期が一番大事なんです。できるだけ【1】の形成期から【2】の混乱期までの期間を短くした方がいいんです。
——とりあえず嵐は乗り越えたということですか。
中原:そうそう、一番しんどい時期は抜けてますから、がんばって!
完璧なチームにリーダーは要らない
——どんなチームでも混乱はつきものということはわかったんですが、それでもやっぱり「私にリーダーシップがないからダメなんだ」とか、「もっといいメンバーが集まれば、こんな苦労はしなくていいのに」とか、グズグズ考えちゃうことはあるんですよね。
中原:気にすることないですよ。「すべてのチームは不完全」ですから。リーダーはみんな「優秀なメンバーが集まれば、もっとうまくいくのに……」とぼやくものですが、「完全なチーム」なんて、そもそも存在しないんですよ。
——メンバーがそれぞれ心から自然と湧き出るモチベーションを発揮して、みんなで仲よく和気あいあいと仕事に取り組んで、どんどん成果が出るみたいな、「すんごいチーム」はありえない、と?
中原:そんなのあるわけじゃないですか(笑)。だって、もしリーダーが「完全チーム」を与えられるなら、リーダー不在でもチームは機能してしまいます。預かるチームが「不完全」で「難あり」だからこそ、リーダーが必要とされるんです。でも、まあ、そうは言っても、すべてのリーダーは完全チームの夢をみちゃうものですよね。
デコボコ、バラバラのメンバーに対してあの手この手で働きかける。「動かない人」をそそのかし、「動きすぎる人」を押さえ込み、「暴走するメンバー」の方向性をただし、「微動だにしないメンバー」にささやき……。そうやってしんどい毎日を送っていると、ふと「完璧なチームが与えられたら」と夢想しちゃう。
——しちゃう、しちゃう(笑)。
中原:でもね、くどいようですが、この夢が叶えられることはないし、もし叶うようなことがあれば、リーダーは要らなくなっちゃう。だって、完璧なチームならおのずとメンバー同士が意思疎通をはかりながら、各々がリーダーシップを発揮して仕事を進めちゃいますから。「完璧なチーム」と「リーダーの存在」は両立しないんです。
——デコボコ、バラバラだからリーダーが必要なんですよね。頭ではすんごい納得しました。
中原:そうですよ。リーダーが率いるのは、いつも「不完全なチーム」であるというのは普遍の真理です。グズグズ言っていても、文句たれてても、しゃーないんです(笑)。目の前のデコボコ、バラバラをうまく動かして成果を出すしかありません。
——う、救いがない……。でも、この煩悩もチームの成長過程とわかれば、少しは気がラクかも。1日でも早く機能期に突入できるようにがんばります。次回は「やりたいことをやらせてもらえない」という煩悩をぶつけさせてください。