夫婦で一緒に仕事をする「夫婦ユニット」という働きかた。
ウートピでは、これまで9組の夫婦ユニットを取材して、“円満”に働き続けるルールを聞いてきました。最終回となる今回は、9回の取材を通して見えてきた共通点に迫ります。
仕事も、プライベートも、ほぼ24時間ずっと一緒に過ごす夫婦ユニットの、成功のヒミツとは?
一番の共通点とは?
9組の夫婦ユニットを取材して感じた共通点として、一番印象に残っているのは、みなさん、「メリット」はすぐに思い浮かぶのに、「デメリット」となると考え込んでしまうことでした。
夫婦で一緒に働き続けるデメリットは、もちろんゼロではありませんが、第9回「Atelier S+」の中川さんいわく、
「夫婦ユニットだからこそのデメリットはあるけれど、考え方をちょっと変えるだけで、すべてがメリットにもなる」
とのこと。
夫婦というもっとも身近な者同士の小さな集合体だからこそ、意思疎通や軌道修正がしやすくて、問題が起きても柔軟に取り組める。そのため、問題がデメリットとして定着してしまう前に解決できるようです。
絶対的な信頼関係があるから、ケンカする
9組の夫婦ユニットのなかで「ケンカをしない」と話していたのは、第3回に登場した税理士・服部さん夫婦のみでした。残る8組は苦笑いしながら「よく(ケンカ)しますね」との返事。服部さん夫婦のような関係は羨ましい限りですが、やはり夫婦間にケンカはつきもののようです。
厄介なのは、やっぱり、夫婦ユニットが「夫婦」というプライベートだけで繋がっている関係ではない点です。どんなに激しいケンカをしても、翌日も一緒に仕事をしなくてはいけません。当然、ぶち当たるのは「ケンカをしていたら仕事が進まず、生活が成り立たなくなる」という現実。
どの夫婦ユニットも、「ケンカ」に対してはそれぞれに対処法を見つけていました。
「ケンカをしてもその日のうちに解決するというルールを作りました。ログをとりながら、問題点を客観的に整理するようにした結果、だいぶケンカが減りました」
と話していたのは、第1回で取材した「うめ」の妹尾さん夫婦。
「ケンカをするとついおたがいに無口になってしまうけど、それでも手を止めず仕事を続けているうちに解決法が見えてきます」
(第8回「cafenoma」刈込さん夫婦)
「お客さんの来店でケンカは中断。それがいい緩衝材になって、ケンカしていたことも忘れてしまうことがあります」
(第5回「東京ひかりゲストハウス」兼岩さん夫婦)
のように、「仕事をしているうちに自然と解決」というタイプもいました。
ケンカの原因はさまざまですが、第2回の「FÜFÜ PROJECT」櫻井さん夫婦が言うように「夫婦だからこそ、言いたいことも言えちゃうし、会社なら引くところも、夫婦だとおたがいに引かない」がゆえに、エスカレートしていく側面もあるよう。
ですが、いくらケンカをしても、絶対的な信頼関係はあって、そこだけは崩れないのが夫婦ユニットの強みでもあります。
「一生一緒に仕事をしていく相手。上辺だけでつき合っていくわけにはいかない」
(第4回の「アタシ社」の三根さん夫婦)
夫婦だからこそ、ぶつかるし、解決方法を見つける努力も惜しまないんですね。
おたがいの「得意」を組み合わせる
9組すべての夫婦ユニットに当てはまると感じたのが、ちょっと失礼な言い方ですが、「割れ蓋に綴(と)じ蓋」。見事におたがいの苦手分野をカバーし合っているんです。
例えば、漫画家ユニット「うめ」の場合、料理が苦手な妻と得意な夫。仕事上、作画担当の妻はどうしても物理的な時間が必要になる。効率的に働くためには、その得手・不得手がちょうどよかったのだそう。
第6回の「あるまま農園」溝口さん夫婦と、第7回の「ノマド魚屋」浅井さん夫婦の場合、夫は生粋の職人。そのスキルは素晴らしいけど、ビジネスには少々うとい。そこを妻がフォローして新機軸を打ち上げたり、ビジネスとしての道筋を確立させていました。
みなさん、よくぞここまでぴったりの相手を見つけたものだ、と感心してしまうほどでした。
でも、取材していくと、これは「たまたまの結果」ではないことがわかります。
「夫婦ユニットをはじめる前におたがいがどんな技能を身につけるかということを真剣に考えるべきだと思う」
と話していたのは、「アタシ社」三根さん夫婦。おたがいの「得意」を組み合わせると、何ができるか? それを、みなさん真剣に考え抜いたからこそ、今があると言えそうです。
子育てしやすいワークスタイル
「今後、夫婦ユニットという働きかたは増えていくはず」
今回の取材で半分以上の夫婦ユニットのみなさんが口にした言葉です。
その理由の一つが、子育てのしやすさ。
「仕事も子育ても一緒にしている夫婦ユニットという形態だから、ここまでのシフトチェンジが可能だったのかもしれない」
(「うめ」の妹尾さん夫婦)
「今日はどちらが子どもの面倒をみるか、そのスケジューリングも含めて魚屋の仕事だと思っています。おたがいに違う場所で仕事をしているとコンセンサスをとりにくいけど、今は『仕事のことを考える』=『家庭のことを考える』。おたがいに責任を転嫁し合うのではなく『どうしていく?』という話ができるのは夫婦ユニットだからこそ」
(「ノマド魚屋」の浅井さん夫婦)
子育ても、仕事のマネジメントの一部。子どもの成長に合わせて、夫婦で柔軟にワークスタイルをシフトしていけるのは、ユニットを組む大きなメリットのようです。
そして、今はまだ夫婦ふたりだけれど、こんな将来像を思い描いているユニットもいました。
「家にゆりかご置いて、子どもが泣いたら旦那さんに『私、忙しいからミルクあげてきて』みたいな感じでね。子どもをおんぶしながら旦那さんのそばで仕事をするのって、絶対に楽しいと思う」
「忙しかったら、どちらかが子育てすればいいし、一緒に仕事していると夫婦間でコミュニケーションがとれないなんてこともあり得ないですからね」
(「アタシ社」の三根さん夫婦)
仕事とプライベートをあえて分けない
時には煩わしいこともあるけれど、仕事のことも、プライベートのことも、すぐに相談できる相手が常に近くにいるのは、とても心強いこと。
「バリバリ仕事をしていた時には、仕事とプライベートをきっちり分けていたけど、今はすべてが一つの暮らし。意外にも、それがとても心地いいんです」
(「ノマド魚屋」の浅井さん夫婦)
「夫婦ユニット」とは、仕事とプライベートの境目がない、すべてをひっくるめた「暮らすこと(生きること)」と真剣に向き合える、新しいワークスタイルなのかもしれません。
(塚本佳子)