今回は、「FÜFÜ PROJECT」(「atelier FÜFÜ」と「PIZZERIA FÜFÜ」)という名で活動している、櫻井規裕(さくらい・のりひろ)さんと櫻井さわこ(さくらい・さわこ)さんにお話を聞きました。
〈FÜFÜ PROJECT〉の夫婦ユニット三ヶ条
一つ:1人の時間は大切。「仕事場は別々にする」こと。
二つ:最終決定は主体者。「出した答えには口を出さない」こと。
三つ:長く続けることが目的。「手段は柔軟に変化させる」こと。
「夫婦ユニットだからといって、四六時中一緒にいるわけではありません。それぞれが自分のプロジェクトに責任を持って取り組み、必要な時は助け合う。目指すべき目標は夫婦2人で何かをやり続けること」と話す櫻井さんご夫婦。ひとり暮らしの長かった2人だからこそでき上がったカタチが “自立型”の夫婦ユニットでした。
自立した関係性、距離感が大切
――「FÜFÜ PROJECT」とは、どのような夫婦ユニットなのでしょうか?
櫻井規裕さん(以下、規裕):彼女が主体となって活動している「atelier FÜFÜ」と、私が主体となって動いている「PIZZERIA FÜFÜ」が、現在「FÜFÜ PROJECT」で取り組んでいるプロジェクトです。とはいっても、それは手段であって、根本的なコンセプトは「それぞれがやりたいことや楽しく思えることを仕事にして、社会と接点を持ちながら、夫婦2人で取り組んでいく」というものです。
櫻井さわこさん(以下、さわこ):具体的に言うと、私は刺繍絵コモノを制作し、販売しているのですが、デザインから素材選び、制作まですべて行なっています。
規裕:私の方はまだ試行錯誤が続いている状況ではありますが、ヴィーガンピッツァの移動販売を始める予定です。
――それぞれが別なプロジェクトに取り組んでいる、ということでしょうか?
規裕:基本的に実作業は各自で進めますが、方向性やアイデアなどは2人で話し合って決めるし、意見も言い合います。「atelier FÜFÜ」の刺繍絵コモノについては、「こんな小物を作ってみたら」とか「こうやって作ればいいのでは」と、私からも提案します。
さわこ:特に私の「atelier FÜFÜ」に関しては、デザインや制作における技術的な部分まで、かなり彼に助けられています。プロデューサー的な感じですね。
規裕:逆に私の「PIZZERIA FÜFÜ」については、“ヴィーガン”というアイデアは彼女からの提案です。ただ、結婚が遅く互いにひとり暮らしが長かったので、すでにそれぞれが自分なりの考えを持っている。最初から自立した人間同士が一緒に暮らすという感覚でしたから、四六時中一緒にいるよりはひとりの時間があったほうがいいと思い、私は自宅から歩いて10分の場所に事務所兼厨房を借りて毎日出勤しています。
――事務所兼厨房ですか?
規裕:20年前からフリーランスで広告制作に携わってきたんですが、今でもその仕事は続けています。結婚してすぐに「FÜFÜ PROJECT」を立ち上げた時、すでに「PIZZERIA FÜFÜ」の構想はあったので、広告制作事務所と厨房を兼ねました。
さわこ:毎日出勤して、帰りも遅いことが多いので、家にいない時間は普通のサラリーマンとほぼ変わらないですね。でも、遅くに帰ってきても、「FÜFÜ PROJECT」のことはもちろん、いろいろな相談ごとを何時間でも聞いてくれるので、本当に心強いしありがたいです。
規裕:実は私はフリーで仕事をしてきた期間が長いせいか、誰かと一緒に何かをすることが苦手なんです(笑)。でも「FÜFÜ PROJECT」という意識を持ってやればできるかなと思いました。
さわこ:それは私も同じですね。もともと広告代理店に勤めていたんですが、趣味で絵を描いたり、小物を作ってデザインフェスタに出店したりしていたんですね。結婚を機に会社を辞めて「atelier FÜFÜ」を始めたのですが、会社員気質がなかなか抜けずに時間の管理や商品としての技術的なレベルなど、意識が低かった。でも「FÜFÜ PROJECT」の一環としたことで、なあなあにならずに意識を持って取り組むことができています。彼のフリーランスとしての高い意識には教えられることが多々あって、ひとりでは絶対にできませんでしたね。
主体となる方が責任を持つ
――2人で同じことに取り組むよりも、意見の擦り合わせが難しいのでは?
規裕:いや、私たちの場合は逆ですね。制作自体を2人で、しかも夫婦でやるというのは難しい。いろんな感情が渦巻くので(笑)。夫婦だからこそ、言いたいことも言えちゃうし、会社なら引くところも、夫婦だとお互いに引かないケースも多い。そこをどう割り切るかが大事なことだと思います。だから、どちらかが責任を持ちましょうと、それぞれが主体となるプロジェクトを進めることにしました。
――自立した夫婦ユニットのカタチですね。
規裕:話し合いの段階では、刺繍絵コモノについても「こうしたほうがいい」「ああした方がいい」と言うけど、最終的に彼女が決めたことには口を出しません。正直、違うなと思うこともありますが、話し合った上で彼女なりに出した答えなので、まずは結果が出るまで待ちます。それで、失敗したら「じゃあこうしたら」と改めて意見を言う。そうしないと張り合ってしまって前に進みませんからね。
さわこ:私もピザについて意見は言うけど彼が決めたことに対しては口を出しません。話し合いの途中では、当然意見がぶつかることもありますが、会社だったら自分の意見を引っ込めて妥協せざるをえないことも、夫婦だからこそ妥協せずに話し合いができる。それは夫婦ユニットを組んで気づいたメリットの一つですね。
目的を忘れず、手段は臨機応変に
――メリットというお話が出ましたが、夫婦ユニットのメリット・デメリットは何だと思いますか?
規裕:最大のメリットは、絶対的な信頼がある、そこは崩れないという点です。仕事だけの関係とは信頼度が違います。私たちは“ずっと一緒にやる”という目的に向かって、手段となるプロジェクトに取り組んでいるので、プロジェクト上の問題点はそれほど重要ではありません。とことん話し合いはするけど、彼女がどうしてもこれじゃなきゃイヤだと言うのなら、それはそれでいい。それよりも、ずっと一緒に続けることが重要なんです。
さわこ:私も同じですね。たとえ意見が分かれることがあったとしても、話し合いを重ねることで、必ずお互いが納得できる着地点が見つかる、という絶対的な安心感があります。2人じゃないとできなかったことなので、私にはメリットしかありません。
――夫婦ユニットというと、どうしても収入源が同じというデメリットが生じますが、「FÜFÜ PROJECT」の場合、それも当てはまりません。
規裕:今のところは私の広告制作の収入が一番ですが、いずれは「FÜFÜ PROJECT」に移行していく計画です。ただ、「PIZZERIA FÜFÜ」と「atelier FÜFÜ」の、収入面での考え方はちょっと違うんです。私の「PIZZERIA FÜFÜ」は生活をしていくための収入として捉えているけど、「atelier FÜFÜ」は将来的にそうなればいいなと。焦らずにクオリティの高い商品を作ってほしいと思っています。そうすればおのずと結果はついてくるはずです。
さわこ:彼が「まだ生活費のことは考えなくていいよ」と言ってくれるので、納得のいく作品を納得のいく販売方法で進めることができています。もっと利益を追求しようとすれば、量産する方法を考えたり、売り方も変わってくると思います。私が今の段階ではそうしたくない意向なんですが、ようやく2年前くらいから形になってきました。
規裕:今後、「atelier FÜFÜ」の売り上げが増えていけば嬉しいことだし、どちらかがうまくいけばそれはそれでいい。かといって、うまくいっている方に集約することも考えていません。協力しながらやっていくだけで、収入源を一つにするつもりはないし、それぞれの軸を作っておくというスタンスは変わらない。
さわこ:「atelier FÜFÜ」がこの先もずっと刺繍絵コモノの制作販売を行なっていくのかというと、状況によってはそれもわかりません。今は“手作りの物”が世の中に認知され、買ってくれる人が増えているから成立しているプロジェクト。そういうニーズがなければ、そもそも刺繍絵コモノは生まれていなかったかもしれません。この先、状況に合わせて制作するものも変化させながら、継続していければいいなと思っています。
規裕:極論を言えば、東京に住まなくてもいいし、将来的にまったく別のことをやっているかもしれない。手段は何でもいいんです。状況に合わせて柔軟に変化していっていい。夫婦2人で目標を持って、お互いがやりたいことや楽しいと思えることをしながら一緒に頑張っていければ。それが「FÜFÜ PROJECT」のコンセプトです。
【FÜFÜ PROJECT情報】
*「atelier FÜFÜ」は、主に「雑司が谷手創り市」(http://www.tezukuriichi.com/home.html)で出展しています。
*「PIZZERIA FÜFÜ」は、近日オープン予定。お楽しみに!
(塚本佳子)