髪のスタイリングのポイントについて、前編「毎朝のヘアセットのポイント、タイミングは?」では、髪が水で濡れると毛髪内部のタンパク質の水素結合が切断されて形がくずれ、乾く過程で再び水素結合して形がつくられるということでした。
今回は、そのスタイルのくずれを予防して、少しでも長くキープする方法について、ひき続き、「Hair salon aruca」(福岡県北九州市)のオーナーで美髪を追求する三谷遥さんに尋ねます。
濡れた髪にはスタイリング用ローションかミストを使う
——前回、水素結合の仕組みから、髪が全体の8~9割ほど乾いたところでブラシやカーラー、ドライヤー、ヘアアイロンを使って熱を多めに加えると形がつくられることを教えてもらいました。では、その形を少しでも長くキープするにはどうすればいいでしょうか。
三谷さん:スタイリング剤を上手に使いましょう。上手に、とは、スタイリング剤の用途を見極めて適切なタイプを選び、ていねいに使いこなすことです。
そもそもスタイリング剤は、前回にお話しした水素結合の仕組みを活用してつくられています。
ブロー前の濡れた髪につけるスタイリング剤には「ローションタイプ」や「ミストタイプ」が多いですが、それは水分やアルコールで水素結合をいったん切断するためです。水素結合が切断された毛髪はやわらかくなり、髪の形がくずれて不安定な状態になります。
それから、ドライヤーやヘアアイロンで熱を加えながら、ブラシやカーラーでブローして再結合させることで、形をつくっていくわけです。
ブローの後、保湿とツヤ出しやスタイルキープのために、「ムースタイプ」や「ワックスタイプ」、また「ヘアスプレー」で、毛髪に油分や樹脂分を加えて美しく整えます。
つまりスタイリング剤は、乾かす前の濡れた髪にはスタイリング用ローションかミストを、ブロー後にはセット用のムース、ワックス、スプレーを、それぞれ自分の髪質にあったタイプを選ぶことがポイントです。
——朝のセット時にも、濡れた髪にはアウトバス用の「洗い流さないトリートメント剤」を使っていますが、それはどうなのでしょうか。
三谷さん:アウトバス用のトリートメント剤は、毛髪に栄養分を与え、保湿する役割があります。そのため、朝のセット時のドライヤーの前に使うと髪が乾きにくくなってスタイルもつきにくくなります。毛先を保湿したいときはセット後に少量をつけるとよいでしょう。
ただし、スタイリングをする必要がない夜の洗髪後などは、ドライヤーで髪を乾かす前につけましょう。熱から髪を守ります。
髪の質別・ブローのコツ
——髪の質によっても適切なブローやセットの方法が違うのですか。
三谷さん:違います。自分の髪の質を知っておくと、理想に近い形に仕上げやすくなります。
髪質のタイプは大きく分けて2つがあります。細毛・猫毛で根元にボリュームないタイプと、硬毛・くせ毛で髪の毛が広がりやすいタイプです。それぞれのブローのコツは次のとおりです。
その前に共通の乾かすときのコツとして、髪のどこかに濡れたままの部分があると、そこは水素結合がゆるんでいるのですぐにくずれます。一部がくずれると全体がおかしなスタイルになることがあるのです。
つむじ、分けめ、耳の後ろ、根元、毛先などは乾き残しやすいので、注意しましょう。そして、仕上げたいスタイルをイメージしながら、ブローをしましょう。
<細毛・猫毛でボリュームがないタイプ>
毛髪の根元を中心に、ローションタイプかミストタイプのスタイリング剤をつけます。ドライヤーは、頭を前に倒して風を下から頭皮に向かってまんべんなくあてましょう。毛髪どうしの間に風を吹き込んでボリュームを出すようにイメージします。
また、つむじや分けめは髪の流れと逆に風をあてます。すると毛髪の根元が立ちやすくなります。
次に、前編で紹介したように、乾く直前にドライヤー、ヘアアイロン、カーラー、ヘアブラシなどを使って、髪を小束ずつ手に取ってブローしながらスタイルを作ります。形ができたら、ドライヤーを冷風に切り替えて数十秒あてましょう。水濡れや熱で不安定だった水素結合が再結合し、くずれるのを防ぎます。
そしてキープするための仕上げとして、ハードタイプのヘアスプレーを根元付近に吹きかけてふんわりさせます。
このタイプの髪はバームタイプのような硬いワックスをつけると重みでさらにペシャンとしやすいので、やわらかいクリームタイプのワックスを毛先に軽くつけて整えましょう。

つむじや分けめが気になる場合は、髪の流れと逆に風をあてる
<硬毛・くせ毛でボリュームが出すぎるタイプ>
ローションタイプかミストタイプかのスタイリング剤を全体につけて、ドライヤーの風を頭の上のほうから全体にあて、手や指で髪をなでつけながらブローしましょう。髪が広がることを抑えるイメージです。
次に、ここはボリュームがないタイプと同じ方法で、乾く直前にドライヤー、ヘアアイロン、カーラー、ヘアブラシなどを使って、髪を小束ずつ手に取ってブローしながらスタイルを作ります。形ができたら、ドライヤーを冷風に切り替えて数十秒あてましょう。
仕上げには、バームタイプやバタータイプのワックスを小豆大ほど手に取り、毛髪の長さの中間から毛先まで少しずつつけます。
根元につけたほうがボリュームを抑えられると思いがちですが、頭皮から分泌される皮脂と混ざって過剰にべたつくのでそれは避けましょう。

ボリュームを抑えたい場合は、頭の上のほうから風をあてて指で髪をなでつける
朝につくったヘアスタイルをキープするコツ
——朝に仕上げたスタイルを少しでも長くキープする方法はありますか。
三谷さん:帰宅時までキープするのは難しいので、先ほど紹介したワックスやクリーム、ムースなど髪質別のスタイリング剤を持ち歩いてこまめにつけ直しましょう。キープ力が高まるでしょう。
ただし、髪を水で濡らすと形がすとんとくずれて、スタイリング剤だけではどうにもなりません。外出先では水で濡らさずに、スタイリング剤だけをつけてください。
——湿度が高い日、梅雨どき、夏は汗でスタイルがくずれやすいですね。
三谷さん:毛髪が水分を吸収すると水素結合が切断されるので、どうしてもくずれやすくなります。スタイルをびしっと決める必要がある場合は、外出先にもヘアアイロンやドライヤーも持参して、スタイリング剤も使って朝と同様の手順でブローとセットを再度行いましょう。
聞き手によるまとめ
髪に乾き残しがあるとくずれやすいこと、ブローのタイミングや髪質別にスタイリング剤を選ぶこと、外出にはスタイリング剤を持ち歩いてこまめに手入れをすることなど、どれも毛髪の水素結合の仕組みに応じる方法ということです。さっそく実践したところ、明らかにキープ力がアップしました。試してみてください。
(取材・文 藤井 空/ユンブル)