『少年タイムカプセル』錦織一清さんインタビュー

「悩んでいるのは生きている証し」ニッキに聞いた、“悩み”の取り扱い方

「悩んでいるのは生きている証し」ニッキに聞いた、“悩み”の取り扱い方

アイドルグループ「少年隊」のリーダーとして活躍し、“ニッキ”という愛称で人気を博した錦織一清(にしきおり・かずきよ)さんによる初の自叙伝『少年タイムカプセル』(新潮社)が、3月1日に発売されました。

1977年にジャニーズ事務所に入所し、1985年に「少年隊」としてデビューした錦織さんは2020年12月31日に、ジャニーズ事務所を退所。現在は、俳優や歌手、そして舞台の演出家として活動しています。

自叙伝では「“仮面”を脱ぎ捨てて、できるだけ素の自分をさらけ出した」という錦織さん。55歳で新たなスタートを切った錦織さんにお話を伺いました。

43年間所属した組織を離れて思ったこと

——雑誌のインタビューで、ジャニーズ事務所を退所したときに「やりたくないことをやらなくてもいいようになったことに幸せを感じます」と話していたのが印象的でした。

錦織一清さん(以下、錦織):やらなくてもいいことをやらなくていいし、会いたくない人に会わなくていい。退所してフリーになってから、「ニッキは、これから好きなことできるじゃん」ってよく言われるんですよ。僕は、演劇が好きなんだけど、それは別に辞めなくても、ジャニーズ事務所はやらせてくれてたんです。だけど、何が大きかったかと言うと、自分と馬が合わない人、会いたくない人、行きたくない場所に行かなくてよくなった。その幸せって、ないですよ。

——錦織さんにも、そういう悩みがあったんですね。

錦織:ありますよ。だって、組織に属していたら、組織に従わなきゃいけない。「お前も顔出せよ」って言われたら、行かなきゃいけないじゃないですか。でも、フリーになったら、それがない。「顔を出せ」って言われても、「何で?」って聞けばいいだけだから。

——ウートピを読んでいる読者も仕事や自分がどう生きていけばいいのか悩んでいる人がたくさんいるので、55歳で新たなスタートを切った錦織さんにお話を伺えればと思いました。

錦織:読者の方はどんなことに悩んでいるの?

——やっぱり会社員が多いので、組織に属しているからこその悩みが多いと思います。人間関係の記事もよく読まれますね。

錦織:そうなんだ。僕は、林修さんの理論がすごく好きなんです。林さんと僕は同い年なんですけど、前にテレビを見ていて「なるほど! いいこと言うな~」って思ったことがあって……。

——何て言っていたのですか?

錦織:X軸とY軸があって、X軸が「やりたい」「やりたくない」、Y軸が「できる」「できない」って書いてあって。「できる」「できない」というのは、お金になるかならないかというのにもつながるんだけれど。

林修さんが言うには、仕事をやる上でも、「やりたい」ことと「できる」ことが一致してたら最高ですよねって。でも、「やりたい」けれど「できない」こと、つまり、やりたいことがお金にならなくても、その場所には比較的居やすいんです。

一方で、「やりたくない」し「できない」ところへは行かなければいい。ただ、「やりたくない」けれど「できる」、つまり「お金になる」というのが仕事で一番多いところなんですよね。だから、こことの付き合い方をどう考えるかということなんです。

林先生の考えに触れたときに、僕は目からウロコで、「この人、いいこと言うな~」って。林修さんに手紙を書きたいぐらいでした(笑)。

——会社や組織に属するというのはまさにここですね。

錦織:僕の場合は、ここ(「やりたくない」けれど「できる」の領域)をどう考えるかというと、フリーになった瞬間、自分に選択権が与えられたなって思ったんです。組織に属していなければ、選択権が与えられるんです。でも、組織に属していると、ここが強制的になってしまう。

でも「やりたくないことだけど、お金になるんだったら、この仕事やってもいいかな?」という場合もあるでしょう? それが仕事の選び方なんですよね。「やりたくない」し「できない」ところは捨ててしまって構わない。でも、仕事で一番多いのは、「やりたくない」けれど「お金になる」だから。そことの付き合い方だと思うんです。

最初に言った「やりたくないことをやらなくていい」というのは、そういうことです。だから、フリーになったときに、自分で選べる幸せがあることがわかったんです。

——自分で選択できる幸せということなんですね。

錦織:そう。「やりたい」し「できる(お金になる)」のであれば、それは最高な仕事ですよね。僕の中で、「やりたいけれどお金にならない」のは、ゴルフと演劇。ここは、遊びのグループだと思うんですよ。お金を払ってでも楽しいというか。だから、演劇が、「やりたいことでお金になる」という仕事のグループに入れたら、最高ですよね。僕は、そういう努力をしていきたいと考えていて。演劇をこのグループにいかせたいって思います。

ただ、一番ドラマチックなのは「やりたくないし、お金にもならない」という領域なんじゃないかなとも思うんです。

——どういうことですか?

錦織:ドラマの題材なんかは、ここに属するものが多いんじゃないかな? 「お金にならないし、やりたくもないのになんでやるの?」って。「でも、やっちゃう」みたいな……。そういうところに、人間の愚かさがあったりして。「突き動かされてやっただけなんだけど……」って言われると、これは誰かのためにやってるのかもしれないよね。

——誰かのため……。

錦織:自分の好みとしては、この領域が好きなのかもしれない。逆に言ったら、それが、僕にとっての「カッコいい」かもしれない。人間がカッコつけるところはそこじゃない? って思いますね。「そんなお金にもならないようなことを、なんでアイツはやってるんだろう?」って。それは、カッコつけて、意地張って、やせ我慢してやってるんですよ。もしかしたら、その領域が自分を成長させてくれるのかもしれない。

ニッキが考える「カッコいい」ということ

——改めて、錦織さんが考える「カッコいい」ってどんなことですか?

錦織:姿かたちがカッコいいとか、ヘアスタイルがカッコいいとか、着てる服がカッコいいとか、乗っているスポーツカーがカッコいいとか、そういうカッコいいじゃないんですよね。僕が言ってる「カッコいい」というのは、ブレないこと。それは、自分が好きで飲んでるお茶でも、何でもいいんですよ。それを変えない。「俺が好きでやってるんだから、いいじゃん!」って言えることで、楽になるでしょ? それが実は、「カッコいい」ことだと思ってる。だから僕は、マイノリティーやアウェーでも構わないんです。

悩んでいるのは生きている証し

——「好きでやってるんだからいいじゃん」と堂々と言えたらどんなにカッコいいかと思うのですが、つい周りの反応や顔色を伺って言い切れない部分があります。

錦織:でもさ、悩みがあったとしても、それは生きている証しだから。悩みがない人って、それはそれで悩むんじゃないのかなって思いますけど。だから、悩んでいることを逆手にとってやればいい。ピンチのときはチャンスですよ。「悩んでいるときこそ、楽しんでやろう!」ってぐらいポジティブに考えたほうがいいんじゃない? と、僕は思いますね。

——悩んでいるのは生きている証しなんですね……。

錦織:僕は、悩み相談で「こんなことをやったら悩みが解消されます」「ここのツボを押せば悩みが解消されます」なんて、インチキがましいことは言いたくないんです。僕だって、舞台を作っていくなかで、悩みはありますよ。「時間がオーバーしてる。どうしよう?」とか、大きな壁が立ちはだかる。

でも、その壁を打破していくのが好きなんです。ものすごくもつれちゃっている結び目を、「ちょっと待てよ。ここを一個通過して……」ってやっていくと、得るものがあるじゃないですか。それを乗り越えたときの喜びを、もしかしたら、悩んでいる人にはないのかもしれない。でも、僕は、そこを打破したあとに、ものすごいご褒美が待っていることを知っているので、壁が立ちはだかっても、「このヤロー、どうしてやろうかな?」って考えています。

もちろん、お金が解決する場合もありますよ。でも、予算が決まっていたり、お金が使えないときに、自分で自分自身に言っているのが、「お金がなかったら、頭を使えばいいじゃん」って。「お金が使えないんだったら、頭を使ってやる!」って、心の中で言ったりとか、わざと稽古場で大声で言ってみたりとか。頭を使うのはタダですからね。僕はいつもそうやって考えたり悩んだりしています。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

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