逃げて、逃げて、逃げまくる——“人生を賭けた逃避劇”を描く映画『そして僕は途方に暮れる』が、2023年1月13日に公開されました。脚本・監督は三浦大輔さん。2018年に上演した同名の舞台作品から続いて、都合が悪くなるとすぐに逃げてしまう主人公・菅原裕一役は、藤ヶ谷太輔さんが務めました。
今作で、菅原の親友・今井伸二役を演じた中尾明慶さん。明るくて気遣いができて、友達思いの役は、世に知られる中尾さんのイメージともよく重なります。本当の自分やパブリックイメージとの向き合い方について、お話いただきました。
基本はいつも自然体
——ユーモアがあって、気遣いができて、友達思い。今井役は、中尾さんのイメージともよく重なる役だと思います。
中尾明慶さん(以下、中尾):本当ですか? 僕は今井ほど真面目な人間じゃないですけど……でも、三浦さんの作品がすごく好きなので、今井という人間に興味を持てました。共感できる部分も多かったし、台詞もすごく出しやすかったですね。
とはいっても、やっぱり僕は気が短いほうだし、言いたいことがあればわりと誰に対してもすっぱり言う。今井みたいに自分の家で友達にだらだら暮らされて、あんなに我慢はできません(笑)。
——逃げてばつが悪くなっている菅原に今井が「この数ヶ月はお前という人格の、失敗作の部分だっただけ」とフォローするセリフが印象的でした。弱さやずるさを引き受けられるのは優しいなと思います。中尾さんにも、弱さというか、そういう失敗作の部分や裏の部分はありますか?
中尾:……裏の部分があったとしても、取材で言わないですよね? 言った瞬間に表になっちゃうじゃないですか(笑)。でも、あると思います。いまは朝の情報番組でMCもやらせていただいているし、YouTubeでは家族と仲の良い部分も見せているから、世間は僕をさわやかな人間だと思ってくださっているかもしれないけど……それほどでもないです(笑)。見えない部分を「裏」だといえばそうかもしれませんが、基本的にはいつでも自然体だと思いますよ。
——自然体、まさにそんな印象を受けます。
中尾:ただ、どんなお仕事でも編集したり作り込んだりしてくださる方がいて、いろんな人が僕のきれいな部分だけを取り出してくれているわけで……編集前の俺なんて、やっぱりそれほどでもないですよ(笑)。
——自分に厳しい(笑)。
中尾:今、良いイメージがあるとおっしゃってくれましたが、僕のことを「明るくていいやつ」と思ってくれる方もいれば、僕がなにかしたせいで「こいつは嫌いだ」と思っている方もいるでしょう。それは仕方ないし、出会う人すべてに同じ“いいところ”を見せることもできません。だけど、そうやって自分のなかにいろんな自分がいるからこそ、お芝居にも生かせるのだと思います。
求められる「顔」に応えたい
——中尾さん自身は自然体でいらっしゃるのに、「明るくて楽しくていいやつ」といったパブリックイメージばかり先行することには、どのように感じていますか?
中尾:仕事のときはできるだけそのイメージでいた方がいいかなとは思いますね。現場ではひとつギアを上げて臨むようにしています。
——そうやってギアを上げるのに、しんどさを感じることはありませんか?
中尾:ありませんよ。それが求められている自分の顔なら、応えたい。需要と供給がマッチしないと仕事は成立しないんだから、求められたことを表現していきたいと思います。……まぁ、そんなことを考えなくても、基本明るい人間ではあるんですが(笑)。
——あるときは俳優、あるときはMC、あるときはキツネさん……。求められる“さまざまな自分”に応えていくのは、大変そうでもあります。
中尾:だけど、どれも楽しいですし、それが健全なんじゃないでしょうか。一面に偏らせず、俳優、バラエティ、YouTube……いろんな面を出して、いろんなことをやって、新たな表現を手にするべくもがいているんだと思います。
いまも、満足しているわけじゃない
——イメージのバランスをとるためにも、たまには俳優として悪役もやってみたい、といった思いもありますか?
中尾:ありますよ! でも、お話をいただかない限りはやれませんから。たとえば、昨年放送された『PICU 小児集中治療室』はすごくよくしてくださっているスタッフのチームで、「中尾さんはいつも笑ってるから、あえて笑わない役をやってみよう」とアサインしていただきました。そういうオファーはすごくうれしいですよね。
——中尾さんと同じ30代なら、『3年B組金八先生』のイメージがまだ強い方もいるんじゃないかと思います。
中尾:えっ、まだチューのイメージありますか!?
——それだけ、中尾さんがずっと一線で活躍を続けていらっしゃるということですよね。
中尾:でも、こないだ昔のマネージャーと食事をしていたら「あのときは仕事なくてつらかったわ~」と言われました。だから、ずっと一線で出続けているわけでもないんじゃないかな……自分が思い描いている仕事ができない、という時期もありましたし。
生き抜いていかなくちゃいけないから、これから年を重ねるにつれて、いままでとは違うアプローチも見つけたい。30~40代は、そういう変化をつけていかなきゃいけない時期なのかなぁと考えています。そのためにもいろんな役をやりたいし、いろんな作品に出ていきたいです。
(取材・文:菅原さくら、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)
『そして僕は途方に暮れる』
2023年1月13日より東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国でロードショー。
(c)2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会