「”ジジイ”の所作しかできなくなってきた」3年間の深夜ラジオを振り返って【燃え殻×二村ヒトシ】

「”ジジイ”の所作しかできなくなってきた」3年間の深夜ラジオを振り返って【燃え殻×二村ヒトシ】
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『ボクたちはみんな大人になれなかった』などで知られるベストセラー作家の燃え殻(もえがら)さん。そして、AV監督として活躍しながら、数々の恋愛本を執筆している二村ヒトシ(にむら・ひとし)さん。プライベートでも親交のある2人は、2020年1月にスタートしたラジオ番組『夜のまたたび』(AuDee配信)で、ぼそぼそと“真夜中のオフラインサロン”を繰り広げてきました。

リスナーに惜しまれつつも、12月14日の配信をもって最終回を迎えた同番組。その3年間の集大成として、番組本『深夜、生命線をそっと足す』(マガジンハウス)が12月8日に発売。どこか優しく、ちょっとエッチで、ときどき人生で役に立つかもしれない2人のトークを、読みやすく再構成した一冊です。

そこで今回は、燃え殻さんと二村さんに、3年間を振り返って思うことを伺いました。前後編。

「心療内科に行ってるみたい」月1回のラジオ収録

——(ウートピ編集部、以下同)『夜のまたたび』が最終回を迎えました。3年間を振り返ってみていかがでしたか?

二村ヒトシさん(以下、二村):燃え殻さんって世間からは「おしゃれな映画や配信ドラマの原作を書いた、インターネット発の流行作家」だって認知されてるんでしょうけど、愛読者の皆さんは彼の書くものにせよ人柄にせよ、今ふうの器用な人じゃないってことをよくご存じだと思います。この人はたぶんラジオという媒体が、それも古い深夜放送や海賊放送みたいな、スポンサーや放送コードを気にせず、おっさんがただ無意味にしゃべってるみたいなのが本当に好きなんですよ。そんな、彼にとっての大切なことを一緒にやらせてもらえて本当にうれしかったし、ありがたかったですね。

燃え殻さん(以下、燃え殻):正直、3年もやるとは思ってませんでした。僕はどの仕事も、始まりも終わりも、あんまり決めずにやってることだらけなんです。特にこのラジオは、始まるちょっと前に二村さんにお会いして、なし崩しのように僕が引きずり込んで一緒にやることになったんです。僕にとって、この3年間は結構怒涛(どとう)の日々だったので、こういう仕事を本格的にどっぷりやる手前で、二村さんと出会って、そこからずっと付き合ってもらえたことはラッキーでした。

なんとなく、自分の健康チェックというか、精神状態のチェックになっていた部分があります。「また悪い癖が出てるよ。大丈夫?」みたいな。この本にも出てきますけど、心療内科に近かったというか。月一回収録に来て、二村さんに「今月はこうだった、ああだった」という現状をとりとめもなく話すというか……。アーカイブを全部は聴き返せてないんですけど、そのときどきの自分の体調や考えてること、今は忘れてしまってるかもしれない悩みや愚痴なんかが全部あると思います。

自分の人生のなかでも特に慌ただしくて不慣れなことだらけだった3年間を、二村さんと一緒にいて、お話ができてよかったです。自分にとって、「精神衛生上よかったな」と心から思っています。

「“ジジイ”の所作しかできなくなってきた」3年間を振り返って…

——二村さんはいかがでしたか?

二村:いや、この3年間でとにかく体調が……。燃え殻さんと比べたら俺の喋りは元気よく聴こえてたかもしれないけど、『夜のまたたび』を始める前に腰の手術をしてて、始まったら声が出にくくなって喉の手術して、術後は一週間しゃべっちゃダメだったんだけど、月一回の収録だったのでなんとか休まずやれました。週一の生放送とかだったら終了してた(笑)。

それで今は、歯のインプラントが腐って抜け落ちましてね、上顎の骨に穴が開いて口の中と鼻の穴がつながっちゃってるんですよ。春に大学病院で穴を埋める手術をするんですけど。頭もだんだん曖昧になってきたし、もう本当にどこかが常に不調。燃え殻さんは俺よりは若いけど、そろそろ50歳が見えてきたでしょう?

燃え殻:まあでも、40代半ばぐらいから、本格的に体調が悪くなりますよね。

二村:もうすぐ50になる人と、これから60になる人のコンビなんでね。

燃え殻:30代半ばで普通に働いてたときは、若い子がいっぱい入ってくるから、もうジジイ扱いなんですよ。だから一応、先輩的な振る舞いをしてるんだけど、気持ち的には19歳くらいから変わってなくて。体調も基本的にあんまり変わらないから、「ジジイの所作でもしとくか」ぐらいに思ってたんですけど。

今や、ジジイの所作しかできなくなってきた(笑)。意味が分からない腰痛とか、「ジジイでしかない」みたいなことが起きてて。「あれが原因で、腰痛になったんだな」とかじゃないんですよ。なんか非常に体調が悪かったり、異常に手が冷たかったり。「これは何なんだろう?」っていうことが、突然増えてきましたね。インターネットで、「手が冷たい 病気」って調べるみたいな。

二村:腰のMRIは撮りました?

燃え殻:撮ってないです。整骨院に行ったら、「軽いギックリ腰です」って言われたんですけど。物理的に弱ってくるというか、自分の体と精神状態がマジで変わっていく年齢で、ちょうどこのラジオをやっていて。そこが記録として残った感じ。だから、最初のころは、まだ元気だった気がする(笑)。

燃え殻さんは「ちゃんとサラリーマンをやってきた人」

二村:俺と燃え殻さんは年は違うけど、共通してるのは、周囲から見たら年配なのに若いつもりでいることかもしれないね。小説では燃え殻さん(の分身である主人公)って「こき使われてたバイトの若者」だったけど、現実の彼はそこから会社の仕事で身を立てましたから。そして相応の地位に就いたのに、今度はそれを棒にふってゼロから文章なんか書き始めて、新人作家になってまたこき使われてる(笑)。

畑は違うけど、まあ映像制作の仕事ですから僕も多少は分かるんですよ。「この人は、サラリーマンをちゃんとやってきた人だ」って。お役所とか商社とかとは違う、テレビというネクタイは締めない業界ではあるけれど、下請けの裏方で地味に堅実に仕事してきた人なんだろうなっていうのを、いつも思ってます。そういう人が、あるときTwitterでバズって、ふと小説を書き始めた。だから燃え殻さんは、書くものも面白いけど、まず労働者としてちゃんとしてる人なんです。

燃え殻:ありがとうございます……。

二村:でも、ちゃんとしすぎているから、普通のちゃんとしすぎてる人たちと同じように、いろいろ心を病むわけですよね。そのへんの話も、この本のなかで一杯してますけど……。とにかく、『夜のまたたび』では「二村が燃え殻さんに、ちゃんと演出してもらってたな」という感じだったの。僕の良いところをすごい引き出してくれた。

燃え殻:本当ですか? うれしいな。

二村:相手が燃え殻さんじゃなかったら、こういうふうには喋れなかったですよ。プロデューサーとしての真面目な燃え殻さんが、二人で楽しく収録してる裏で「燃え殻と二村がどういうコンビだったら、リスナーが聴きやすいか?」って真摯(しんし)に考えてくれてたんだと思います。ありがとう。

燃え殻:とんでもないです。

二村:だから収録中すごく助かったし、勉強になりました。このラジオをやれてよかった。

■イベント情報

【著者参加読書会】燃え殻・二村ヒトシ『深夜、生命線をそっと足す』

日時:2022年12月30日(金)19:00 〜 20:50
申し込み締め切り:2022年12月27日(火)23:59
場所:オンライン(Zoom)

(構成:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘)

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