学生時代は成績優秀でアート系の才能や文才もあるのに、つい新しいものに目移りばかりして決定的な道を見つけられないアラサー女性の日々を描いたノルウェー映画『わたしは最悪。』(ヨアキム・トリアー監督)が7月1日に公開されました。
「何者にもなれないわたし」の迷走と葛藤
成績優秀で医学を志すも「これは自分じゃない」と心理学に転向。心理学を学ぶもののしっくりこなくて写真家を目指す……と次々と目新しいものに飛びつき、いまだ人生の脇役のような気分のユリヤが主人公。
ユリヤの恋人でグラフィックノベル作家として成功した年上のアクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)は、妻や母といったポジションをすすめてくる。ある夜、招待されていないパーティーに紛れ込んだユリヤは、若くて魅力的なアイヴィン(ヘルベルト・ノルドルム)に出会う。新たな恋の勢いに乗って、ユリヤは今度こそ自分の人生の主役の座をつかもうとするのだが……。
主人公・ユリヤを演じたのは、今作が映画初主演となるレナーテ・レインスヴェ。子供の無邪気さと愚かさ、大人のずるさと賢明さが混在する年代の感情の揺れ動きを繊細かつ大胆に演じ、2021年の第74回カンヌ国際映画祭で女優賞に輝いた。
「わたしも最悪。」と身につまされる瞬間
「人生のステージの違い」などもっともらしいフレーズを並べながら、新しい男の存在を隠しつつ恋人のアクセルに別れ話を切り出すシーンや、呼ばれてもないパーティーにちゃっかり忍び込んで医者のフリをするなどユリヤの“最悪”な部分はたくさん目につくけれど、ユリヤに自身を重ねて「わたしも最悪。」と身につまされる中年は意外と多いのではないか?
とはいえ「そんな時代もあったね」と懐かしい気分に浸るだけではなく、芸術の都・オスロを舞台に#MeToo以後の、アフターコロナの今を生きるリアルな姿も描かれており、もう少しだけ「何者にもなれないわたし」と「何者にもなりたくないわたし」の間でプカプカと漂っていてもいいんじゃないかな、と心地よい余韻に浸れる一本だ。
7月1日(金)よりBunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー。
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