海外のホールでクラシック音楽の録音や取材を行う音楽プロデューサーとして活躍中の渋谷ゆう子さん。
仕事柄、海外出張も多く、時にはアーティストの都合で海外出張が前の日に決まることもあるそう。出張先は主にクラシック音楽の本場・ヨーロッパとエンターテインメントの中心・北米。多いときは1カ月に1回、オーケストラや演奏家、レーベルとの打ち合わせに赴きます。
そこで、音楽だけではなく旅や文化にも造詣が深い渋谷さんに冬のウィーンの楽しみ方について教えていただきました。
【第1回】YOUは何しにウィーンへ? 実は冬のヨーロッパが穴場の理由
【第2回】日本の3分の1の値段で買える! 冬のウィーンで手に入れたい意外なアイテムとは?
ウィーン名物・ザッハトルテを食べよう
ウィーン旅の重要ポイントとして、カフェ文化も外せない。ショッピングや音楽鑑賞と一緒にぜひこれらのスポットにも立ち寄ってほしい。
ウィーンのカフェ文化は2011年にユネスコ文化遺産に認定された。それは歴史と文化に深く浸透しており、市内にはおよそ2700店舗が軒を連ねている。
オーストリアでは国民一人当たり一年間におよそ160リットルのカフェドリンクを消費し、それはイタリアやフランスに比べてもおよそ2倍であるという。こんなカフェ事情ならぜひそれを体験したいもの。ザッハトルテをはじめとしたカフェスイーツも一緒に、楽しいカフェ巡りを楽しもう。
まずは最もウィーンで有名なケーキ、どっちが元祖か論争に決着がついたようなつかないようなザッハトルテを食べよう。その名前の由来を持つホテルザッハーのカフェも、チョコレートの王様デメルのカフェも観光客の大行列で待ち時間30分は当たり前が現状。
冬のウィーンの平均気温が0度前後なのでいくら雪が降らないとはいえ、外で待つのは厳しい。観光名所的カフェが行列しているのなら、潔く他のカフェに行きたい。
幸い老舗カフェには困らない街である。至るところに創業100年以上というカフェがあり、座席の待ち時間を店内で過ごせるところも多い。
またザッハー以外のホテルカフェもおすすめだ。特にランクの高いホテルでは、トルテの種類が豊富なだけでなく、その大きさもちょうどよく、日本人女性一人でも食べ切れる。(なにしろ本家ザッハーホテルのケーキも日本のケーキの二人分くらいはある)
特にインペリアルホテルのケーキは上品な甘さで、サービスも良く、コーヒーだけでなく紅茶も香り高いものをサーブしてくれる、おすすめのカフェ。東京でもホテルラウンジやバーに親しんでいるならウィーンでも同じように楽しみたい。
寒くなったらカフェに入ろう
ウィーンでコーヒーが飲みたい場合は、次の単語を覚えておくと良い。
ウィーンでよく飲まれているメランジュ(Melange)は、ミルクとコーヒーが一緒で、カフェオレに近い味わい。ブラックコーヒーが飲みたければモカ(Mokka)か、シュヴァルツァー(Schwarzer)なら濃い目のコーヒーが味わえる。
もう少しまろやかなテイストがお好みの人におすすめのブラウナー(Brauner)はモカにクリームを入れて自分好みに。アインシュペンナー(Einspänner)がいわゆるウィンナーコーヒー。生クリームが乗っているが意外と甘すぎない。
これらと一緒にショーケースに並んだトルテかサンドイッチを選んで食べるのが、ウィーンのカフェスタイルの定番である。
ランチもおやつも全部ケーキでいいじゃない
朝食をホテルビュッフェで取った後、ウィーンの街を散歩したらカフェを見つけて入り、ランチがてらケーキとカフェ。またショッピングや美術館巡りをして休憩にカフェ。そこでまたトルテ。美術館にもカフェが併設されているところがほとんどなので、カフェには本当に困らないウィーンの街。寒くなったら目についたカフェに入り街の人たちを眺める。
ウィーンという時空にすっぽりと入れるこんなひとときがこの旅をより味わい深いものにしてくれる。夜のディナーの予約までケーキでつなぐ。ランチもおやつも全部ケーキでいいじゃない。そんな意気込みでウィーンのカフェを堪能してほしい。
ウィーンのお金の支払い方は…
ウィーンでは会計をテーブルで行うことが一般的。この時も、サーブしてくれた店員を呼ぶことが必要だ。日本ではあまりなじみのない制度だが、ヨーロッパ各国のお店ではテーブルのエリア担当が決まっていることがほとんどで、自分の持ち場のテーブルでなければ会計をしない。担当が決まっているので、そのサービスに対してチップを支払う。
カフェでは1ユーロ以下を繰り上げて(またはそれに1ユーロ程度足して)キリのよい数字で支払う程度で構わない。ホテルラウンジなどで特にサービスが良かったと思えば、もう少し足してもよい。クレジットカードでもチップ込みの支払いで大丈夫。
ウィーン市内は基本的にどこでも英語が通じるので簡単な英語のやり取りができれば問題なく過ごせる。ただ、ショッピングの際の挨拶や食事の注文などで少しドイツ語ができるとさらにお店の人の対応が良くなるので、簡単な挨拶など覚えておくと良い。
それから、日本人が気をつけたいのは、店員さんを呼ぶ際に「すみませ〜ん」と大きな声を出さないこと、手をあげて合図をしないこと。日本人はついつい、「はーい」と手をあげてしまうが、ドイツ圏では特に嫌がられるハンドサインなので、もし動作で何か合図をしたいなら人さし指をたてた手に軽く動きを入れて合図を送る。
こういうしぐさがスマートな女性はとてもエレガント。男性が同席しているなら、一切お任せしてゆったりお茶を飲んでいるのがすてき。エスコートされなれていない我々は多少気まずいのだが、そこはぜひ周りのウィーン女性を見習って優雅にいたいものだ。
そこに暮らすように旅を楽しむ
散歩に美術館巡り、合間にカフェ。路面電車や地下鉄も発展しており、旧市街は小さな街なので、外をほとんど歩かず寒さをあまり感じずに過ごせるのもウィーンの良さのひとつ。
ウィーン風ホットワインやプンシュと呼ばれるフルーツティーベースのホットアルコールドリンクスタンドにも立ち寄りながら、心も暖かく豊かになれる冬のウィーンをまるでそこに暮らすように楽しむ。
旅に出るとつい急ぎ足でスケジュールを組んでしまいがち。けれどもウィーンの本当の楽しみは、こうした優雅な時間にこそ訪れる。
日本で忙しく働いているのなら、なおのこと、このカフェタイムでもう一度自分の時間を取り戻そう。甘いトルテが疲れたあなたを癒やし、街を歩くすてきな女性たちの姿が、きっとあなたの背中をそっと押してくれるだろう。