料理愛好家として、NHKの料理番組「きょうの料理」や「平野レミの早わざレシピ」をはじめ、さまざまなメディアでアイデアいっぱいの家庭料理を発信している平野レミ(ひらの・れみ)さん。そんなレミさんのエッセイ集『おいしい子育て』(ポプラ社)が、2月16日に発売されました。
同書は、1997年に刊行された『笑顔がごちそう』(講談社)を大幅に加筆修正したうえ、新たな原稿と和田誠さんのイラストを加えて単行本化。幼少期の2人の息子さんとの思い出や子育てと料理にまつわるエピソードのほか、47品のオリジナルレシピ、義理の娘でもある上野樹里さん、和田明日香さんと3人で会談した「和田家の嫁姑鼎談(ていだん)」も収録しています。
レミさんはどんなふうに子育てをしてたの? 嫁姑のちょうどいい関係の築き方は? レミさんにお話を伺いました。前後編。
「教育方針なんてない」和田家の子育て
——2人の息子さん(和田唱さんと和田率さん)もそれぞれの分野で活躍されていますが、子育てを振り返って今思うことはありますか?
平野レミさん(以下、レミ):子育ては本当に懐かしい思い出ですよね。愛情をいっぱい注いで、ご飯をいっぱい食べさせて……。あまり怒ることはなかったな。毎日、笑って暮らしてましたね。
——和田家の「教育方針」はあったんですか?
レミ:そんな立派なものは何もなくてね。ただもう、楽しく自由に、おいしいものを食べて笑ってさ。息子たちだけじゃなく、子供たち全般にそうですけど、レールなんか引っ張ったって、絶対にその通りになるわけないから。だから、レールを引っ張らないで自由にさせてました。元気に健康でいればいいやと思ってね。
それから私、好きだったら努力しなくてもいいと思っていて。どうしても「努力」っていう言葉が好きになれないの(笑)。例えば、お料理をしていても、「どうして、この組み合わせでこうなるんだろう?」とかいろいろ考えるんだけど、それってただ楽しくて「もっと知りたい!」ってやってるだけだから。
だから、息子たちに対しても、自由にさせていれば自分の中で何か芽生えたり、何かやりたいものが見つかればこっちが何か言わなくても勝手にやると思っていたので、とりあえず元気で健康だったらいいやと思っていました。
——思わず「もうやめなさい」と周りが言っちゃうくらい夢中になれるものが見つかったら幸せですよね。
レミ:そうそう。自分が好きなもの、無我夢中になれるものを見つけたら最高よ!
和田さん(夫の故・和田誠さん)も、3歳のときから絵が大好きで、絵をずっと描いていた。「絵なんか描かないで、勉強しなさい!」って言われてたら、イラストレーターにはならなかったんだろうと思うんだけど。戦争中でも、お母さんがちゃんと絵を描くための紙を用意してくれて……。和田さんみたいに好きなものが高じて、一生涯、好きな仕事で生活ができるようになることもあるでしょう? だから、子供の芽を摘むみたいなことは絶対にやっちゃいけないって。
まだ若かった頃、私もお料理をしていて、ある日角煮を作ろうとしたときに、どこにも作り方が書いてなかったの。とりあえずお肉を買ってきて、「どうしたらいいんだろう?」って、お砂糖とか酒とか醤油とかみりんとか入れて、コトコトコトコトやったの。でも、やればやるほど、肉が硬くなっちゃうのよ! 普通は、火を通したら柔らかくなるはずなのに、「なんで硬くなっちゃうんだろう?」って思って。何度も何度も肉を買ってきて、実験しましたよ(笑)。結局、自分で分かったことは、肉だけを柔らかくしてから調味料を入れること。そうすると、スーッと味が染み込んでいくのね。どこにも書いてなかったことを、自分で発見して成功したら、ますます「お料理が楽しい!」っていう気持ちになるからね。
人生いろいろあるけれど…遠回りが楽しい
——子育てでレミさんが「しなかった」ことは「親がレールを敷かない」「子供の芽を摘まない」ということだったんですね。
レミ:そうそう。子供が夢中になってやろうとしたときに、「やれ! やれ!」って応援するのはいいと思うのよ。だから、レールは引っ張らないほうが私はいいと思うけどね。
いつも言ってるんだけど、人生を道路に例えると、なんの障害もないツルツルの高速道路をゴールに向かって真っすぐパーッと行っちゃう人生がある一方で、高速道路に乗らないで下道でドブに落っこちたり、石につまずいたり、いろいろなことがありながら、お花やチョウチョウを見ながらゆっくりゆっくり進んでゴールに行き着く人生もある。どっちが良い人生かな? って思って。私は、いろんな経験をして、いろんな失敗をしても、そっちのほうが楽しい人生なんじゃないかなって思っちゃうのよね。
——先ほどの料理のお話みたいに、まずは自分でいろいろやってみたり、実験したりするのも大事なのかなって。
レミ:自分から積極的にしたことは絶対に忘れないからね。「やりなさい!」って言われてやるのと、「なるほど!」「こうかな?」って自分で考えながらやるのは違うよね。だから、なんでも自分で考えてやったほうがいい。お母さんも、子供が自分で考えられるような環境や場所をつくってあげられるといいのよね。
——そういえば、子育てで悩んだことや困ったことはありましたか?
レミ:病気になったときよね。熱が出ちゃったりしたときは悩んだけど……。でも、お医者さんに連れて行けばいいからさ。あとは、ないない。嫌なことがあったら、みんな和田さんに押し付けてたから(笑)。私は、「放っておけばいいや」って感じで、育てちゃったからね。
——本にあったように親の背中を見せることも大事なんだなって思いました。
レミ:お料理なんかもそうよ。宿題はキッチンでさせるようにして、私が野菜を洗っているエプロン姿とか、包丁でトントン刻んでいる音とか、炒めている音とかを聞きながら宿題してたのよね。私は、「手伝いなさい」とか何も言ったことがないけど、そんな私の姿を見てたのが良かったんでしょうね。だから、自分たちが料理することにも抵抗なかったんでしょうね。2人とも料理が上手らしいですよ。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:中西裕人)