食欲の秋、今年こそは腸活をしたい…という決意のもと、臨床内科専門医で正木クリニック(大阪市生野区)の正木初美院長に、「本気で腸活」と題し、連載にてお話しを聞いています。前回の「本気で腸活① 十二指腸、回腸、直腸ってどこ? 何をしている?」では、まずは腸の部位と各働き、食べてから排出されるまでの経路や状態、時間について尋ねました。
今回は、読者(32歳女性)による「ストレスフルなとき、憂うつな気分が続くとき、何日もお通じがないということがあります。なぜ?」という質問について伺います。
腸の活動は自律神経がコントロールしている
——読者の質問にあるように、ストレスや憂うつ気分と便秘は直接的に関係があるのでしょうか。
正木医師:あります。ストレスや憂うつ感、緊張感は便秘の大きな要因となります。旅行中に便秘になった経験がある人も多いでしょう。それには、自律神経の働きが関係しています。
前回にお話ししたように、食べたものは胃で消化されてから、小腸でさらに消化と栄養分の吸収が進みます。その残りかすが大腸に送り込まれて、そこで水分が吸収されて便が形成されます。
この間、腸内での滞在時間が長くなると、水分が吸収され続けるために、便が硬くなって便秘になります。逆に、短時間だと水分があまり吸収されないかゆ状のままで進んで行くので、下痢になります。
——前回のお話しで、大腸での滞在時間が長くなったり短くなったりする理由には、腸のぜん動運動の状態が関わっているとのことでした。
正木医師:そうです。そして、そのぜん動運動をはじめ、消化の働きを調整しているのが、自律神経です。自律神経とは、自分の意思とは関係なく、心臓の拍動や呼吸、血圧、発汗、体温、胃腸の動きなどをコントロールしています。活動時や興奮時に働く交感神経と、リラックス時に働く副交感神経があり、互いにバランスを取りあって健康な状態を保とうとします。
腸のぜん動運動が活発になるのは、リラックス時に働く副交感神経が優位のときです。反対に、緊張している、不安があるなどストレス状態だと交感神経が優位になるので、ぜん動運動が弱まって便がスムーズに運ばれなくなるのです。
例えば、仕事で緊張する商談やプレゼンのとき、またイライラや憂うつ感が強いときなどに便秘になるのはそのためです。旅行中も日常とは違う場所で活動していて、観光や食事などで脳が興奮して、交感神経が優位になっています。それで便秘になりやすいわけです。ヒトの消化活動は自律神経系が支配しているのです。
——便秘の原因というと、食べ過ぎやダイエット、運動不足などが浮かびます。
正木医師:そのいずれの場合もストレスがかかっている状態で、交感神経が優位になっています。そのために腸での消化吸収の働きは抑えられているので、便秘になるのです。
朝の快便は体調のバロメーター
——お通じが順調であるためには、自律神経のバランスを整える必要があるのですね。
正木医師:そのとおりです。ぐっすり眠った翌朝や、くつろいで朝食をとり、出かけるまでに慌てないで時間や精神的に余裕があるときは快便だということがあるでしょう。その状態は、自律神経のバランスが整っていると言えます。
——では、朝の快便は体調のバロメーターでしょうか。
正木医師:そう言えます。前日の疲れや緊張が睡眠によって改善されて、リフレッシュした翌朝に食事をとると、腸が適度に刺激を受けてスムーズなお通じになるわけです。そのような朝は体調がいいととらえることができます。日中の活力にもつながるでしょう。
便秘を改善し自律神経のバランスを整える生活習慣
——逆に、朝にお通じがないとあせることがあります。
正木医師:朝にお通じがスムーズでない場合は、「ストレスで自律神経のバランスが乱れていないか」、また、「時間がなくてトイレタイムを落ち着いてとれていない」など、理由を考えてみましょう。そしてお通じが改善するように、その日の行動を変えてみるとよいでしょう。
——具体的に、セルフケアとしてどうすればいいでしょうか。
正木医師:ストレスをため込んだままだと、根本的に便秘や体調が改善されることはありません。薬を飲んで改善したとしても一時的なことで、やめればまた便秘になります。
それに、ストレスがあると甘いものやお酒の量が増えるなどで栄養バランスが偏った食生活になる、睡眠時間が短い、あるいは不規則になりやすいでしょう。そうした場合、気づかないうちに自律神経のバランスが乱れています。
体重が増える、おなかの脂肪が気になってくることもあるでしょう。まずは「ストレスがあるかどうか」を自問自答してください。毎日多忙や人間関係のトラブルなど、思いあたる原因が必ずあると思います。それを紙に書き出すなどして自覚や意識をして、できるだけストレスの原因を取りのぞく、また避けるように、行動を少しでも変えてみてください。
そのうえで暴飲暴食を避ける、1日3食を栄養バランスよく食べる、良質な睡眠をとる、1日に20分~1時間ぐらいのウォーキングやストレッチ、軽い体操など適度な運動をする、そして1日に10分でもリラックスする時間を持つようにしましょう。
毎日は無理でも、最初は週末に実践する、次は週に3日は意識的に実践するなどで続けていってください。やがて自律神経のバランスが整って便秘が改善されていきます。
聞き手によるまとめ
ストレスや憂うつ感があると、自律神経のバランスが乱れて腸のぜん動運動が弱まること、内容物が腸での滞在時間が長いと水分が吸収されて硬くなり、便秘になりやすいということです。つまり便秘を改善するには、まずは自律神経のバランスを整える必要があり、そのために自分でできることはストレスの改善、生活習慣の見直しだというアドバイスです。朝の快便を目指して試みていきたいものです。
次回・第3回は、「毎朝美便…腸の健康を知る目安は?」をお送りします。
★お知らせ
正木医師が理事を務める「大阪府内科医会」では、オンライン健康セミナー・第23回市民公開講座「美と健康はおなかから~腸活のススメ~」を、2021年12月12日(日)13:00~と15:00~の2回開催します。正木医師による講演「きょうから美腸活、始めませんか?」もあり、無料で視聴できます(事前登録が必要です)。申し込み先:https://www.osaka-naika.jp
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)