「逃げる」というと「負け犬」「ダメな人」といったネガティブなイメージを持つ人は多いのではないでしょうか?
しかし、このたび『逃げ出す勇気〜自分で自分を傷つけてしまう前に〜』(角川新書)を上梓した精神科医で「ゆうメンタルクリニック」のゆうきゆう先生は「本書で言うところの『逃げ出す』は、自分の場所を見つけるための戦略的撤退」と話します。
ゆうき先生に4回にわたって話を聞きます。第2回目のテーマは「しんどい親子関係から逃げてもいい?」です。
【西原理恵子】「わかり合おう」とかやめませんか? 家族がしんどい女の子たちへ
自分の本当の気持ちがわからない
——ウートピでときどき「母親(家族)がしんどいなら無理に実家に帰省しなくていいよ」という記事を出すと一気にアクセスが増えるんです。もちろん仲のよい親子や家族はいるけれど、しんどい思いをしている人も多いんだなと思います。やっぱりそんなしんどい親子関係からは「逃げて」いいのでしょうか?
ゆうきゆう先生(以下、ゆうき):自分と親の課題を分けることはすごく重要かなと思いますね。
どんな人でも、多かれ少なかれ、人から影響を受けている部分はあるので、影響を受けちゃいけないというわけではないんですが、「お母さんの希望を叶えてあげたい」というのも「人のために役立ちたい」というふうに捉えるのであれば必ずしも悪いことではないんです。
ただ、自分自身の希望まで歪められちゃっているレベルだったらあんまりよろしくないかなと。
——母親の希望が自分の希望にすり替わっちゃっている場合もありますよね。自分の本当の気持ちがわからない。
ゆうき:自分の本当の気持ちがわからないのであれば、日記を書くことをオススメします。
毎日、「お母さんはこう言っている」と漠然と考えるのではなくて、例えば「お母さんはこう言うけど、自分はこう思う」というふうに。
次の日は気持ちが変わって「お母さんが言うことは正しいかも」となるときもありますよね。そうやって、1日1日の日記をつけていくと、多数決のような感じで自分の本当の気持ちがわかってくるんですよね。
1週間とか1ヶ月、一定期間日記をつけてみて母親の言うことに共感する部分とそうでない部分を比べてみる。そうやって日記をつけて自分の気持ちに気づくというのもアリなのかなと。
——なるほど。
自分の希望が通らなくても「まあいいか」
ゆうき:ただ、人間って人を喜ばせたときに、かなり大きな幸せを感じるという部分もあるんです。なので、無理やり我を通したからといって、それが必ずしもよい結果になるとは限らない。
——私は、自分がやりたいと思ったことを通すのがいいのかなと思っていたんですが。
ゆうき:「オールオアナッシング」で考える人が多いんですよね。例えば、仕事でもちょっとでも自分の希望が通らなかったら、「私は軽んじられている」とか「否定された」と思ってしまう。
たとえ、ほかの人の希望通りや他人に我を通される部分があったとしても、その分自分はわがままを聞いてもらっているからまあいいか、というふうに「マイナスもあればプラスもある」と俯瞰してみたほうがいいのかなと思います。
——確かにそう考えてしまう傾向はあるかもしれないです。無意識に「完璧」を目指していたのかも。
ゆうき:やっぱり完璧主義者ほどうつになりやすいと言われているので、「オールオアナッシング」で考えないほうがいいと思います。
——わかりました。
ゆうき:でも、本に書いた通り、親の人生と子の人生は別物なので、親の「こうあってほしい」という期待に応えなかったと言って「責任」や「罪悪感」を覚える必要は一切ありません。他人の不機嫌や理不尽からは躊躇(ちゅうちょ)なく逃げていいと思います。
※第3回は6月18日(月)公開です。
(取材・文:堀池沙知子)