「大人向け粉ミルク」好調の理由は? 自分以外の人たちに刺さるモノの届け方

「大人向け粉ミルク」好調の理由は? 自分以外の人たちに刺さるモノの届け方

「粉ミルク」というと赤ちゃんが飲むイメージがありますが、”大人のためのミルク”がシニア層を中心に売り上げが好調です。

”大人”をターゲットにしたミルクは森永乳業の「ミルク生活」や救心製薬の「大人の粉ミルク」など各社が販売していますが、2017年9月に発売された「プラチナミルク」(雪印ビーンスターク)は、発売から3ヶ月後の12月末時点で、取扱店舗数、販売個数ともに設定目標に対して3倍強の数字で推移しています。

雪印ビーンスタークといえば、乳児用粉ミルクなど「赤ちゃん」向けの商品を開発・販売するメーカーですが、「赤ちゃん」向けメーカーが高齢者向け商品で成功した秘訣は?

また、自分の世代ではないターゲット層に対して刺さる商品を作るために必要なことって?

「プラチナミルク」の開発中心メンバーで商品開発部の河内慶子さん(41)に話を聞きました。

「雪印ビーンスターク」商品開発部の河内慶子さん

「雪印ビーンスターク」商品開発部の河内慶子さん

「赤ちゃんのミルクを飲んでいい?」寄せられた声

去年秋に発売されて以来、一時は在庫切れになったほど売れまくっているという「プラチナミルク」。開発のきっかけは、お客様センターに寄せられた声だったと言います。

「以前から『大人も乳児用の粉ミルクを飲んでいいか』という声がポツポツと寄せられていたんです。ちょうど他社さんで同様の商品が発売された時期だったんですが、弊社でも『実際にお客様の声がどれくらい届いているか調べてみよう』という話になり、調べてみたら乳児用のミルクを飲んでいるお客様が一定数いることがわかったんです。飲んでいる理由は『総合的な栄養がとれるから』『健康によさそうだから』ということでした」(河内さん)。

そもそも乳児用のミルクを大人が飲んでも問題ないのでしょうか?

雪印ビーンスタークによれば「問題はない」とのことですが、主に粉ミルクや母乳で栄養をとる乳児に比べて、大人は普段の食事からも栄養をとり、また必要となる栄養の量もかわってくるため、乳児用の粉ミルクが大人に適しているわけではないそう。

そのため、大人が適切に栄養がとれるミルクを……ということから本格的に「プラチナミルク」の開発がスタートしました。

少子高齢化、共働き世帯の増加…開発の背景

また、開発の背景には少子高齢化社会で子どもがどんどん少なくなっていく世の中で、メーカーが生き残っていくかという会社としての課題もあったといいます。

「弊社には育児品事業部と機能性食品事業部、ライフサイエンス事業部という三つの事業部があるんですが、機能性食品事業部とライフサイエンス事業部は、どちらかと言うと高齢者の方々を対象とした事業を手がけており、そちらをいかに大きくしていくかというのが課題になっているんです。

それらの事情を踏まえまして『では、商品はどういった形がよいのか?』というのは会社全体で考えていたんですが、まったく別のモノではなくて、弊社がずっとやってきた赤ちゃんに関する研究や粉ミルクに関する知見をいかしつつ、少子化をカバーするような商品を作れないかっていうところで『プラチナミルク』がぴったりとはまりました。

少子高齢化のほかにも共働き世帯の増加という背景もあると思うんですが、忙しい働き世代が簡単に飲めることも意識して開発しました」(河内さん)

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栄養分の配合に苦労

「プラチナミルク」のターゲット層は50〜70代が中心ということですが、「若い方でも食事が不規則になりがちだったり、偏った食事をしていたりと栄養不足になりがちなのでそういう方にはオススメをしています」と河内さん。

現在発売されているのはベーシックの「バランス」と、「パワー」「ビューティ」の3種類で、目的別に味を選べます。商品の開発に当たって苦労したことは?

「例えば『パワー』にはHMBという筋肉のもととなる栄養素が入っているんですが、1日に1500mgとったほうがいいと言われているんです。でも、錠剤にすると10粒ぐらいは飲まなければいけない。それも大変ですし、食べるのも苦い。製品の配合を考える担当者がとても苦労していました」(河内さん)。

HMBは苦味(にがみ)があるので、担当者は「いかに飲みやすくなるか?」を念頭に、チョコや抹茶、緑茶などありとあらゆるものに入れて色々なパターンの味を研究したそうです。

また、女性におすすめの「ビューティ」も、においにクセがある「ローヤルゼリー」や「コラーゲン」を配合しているため、HMBと同様に、いかに飲みやすくするかを試行錯誤した結果、ポタージュ風味で発売することが決定しました。

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粉ミルクは恥ずかしい? デザインの工夫

こうして、約2年間の開発期間を経て完成した「プラチナミルク」ですが、苦労したのは味(中身)だけではないそう。

「実際に乳児用の粉ミルクを使っていた方に、グループインタビューをしたことがあったんですけれど、商品自体は気に入って使ってくださっていたんですが、使っていることを知られたくない、乳児用の粉ミルクを飲んでいるなんて恥ずかしいという方もいらっしゃったんです。『孫もいないのに赤ちゃん用の粉ミルクを家に置いておくのが恥ずかしい』という声もありました」

「そういう経緯もあったので、どうしたら自分向けのもので、これを飲んでいることがよいことだっていうふうに自信を持って続けてもらえるんだろう、家に置いてもらえるんだろう、ということを念頭に考えました。デザイナーさんにも『飲んでいただく方がうれしくなるようなパッケージって何だろう?』というのをテーマに考えてもらいました」(河内さん)

パッケージデザインで考えたのは以上のことだけではありません。

河内さんは、”恥ずかしくないデザイン”のほかに「メーカー側が持っている高齢者のイメージの押し付けにならないように注意しました」と明かします。

「メーカー側が考える”高齢者”のイメージで商品を作ってしまうと、お客さまが『私にはまだ早い』と思ってしまう可能性もあったので、マイナス10歳ぐらいの方をイメージしました。私がちょうど41歳なんですが、40代が抵抗なく取れるようなパッケージを意識しました」

パッケージと並行し、粉ミルクのマイナスイメージを払拭するためと使用シーンがイメージできるよう、忙しくても簡単に試せるアレンジレシピも考案。ターゲット層の女性にできるだけ手に取ってもらえるよう、商品のPR写真に普段より予算をかけて「写真映え」にこだわりました。

発売してみると売り上げは好調でメディアでもたくさん取り上げられるように。河内さんは「実際に手にとって使い始めてもらうまでのきっかけ作りが大変だろうな、と思っていたので想像以上の反響に驚きました。そして大人向けミルクのニーズがこんなにもあったんだなあと実感しました」と顔をほころばせました。

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“自分”ではない人たちに刺さるモノを届けるには…

20代や30代にもおすすめとはいえ、50〜60代がターゲットの商品。自分の世代ではないターゲット層に刺さる商品を届けるために必要なことは? 河内さんにズバリ聞くと……。

「実際にターゲットになるであろう方々の顔を見に行くことですかね。機能性食品事業部という部署にいたころ、『60代後半くらいの年代が使う商品を考えてください』と上から言われて勝手にイメージして考えたことがあったんです。

そのあと、その年代の人にお会いしたら、私が想像していたよりもずっとパワフルで若い方が多かった。イメージと実際のギャップを感じたときに、ターゲット層の顔というか、雰囲気をきちんと感じることが重要なんだと身にしみました」

今後も赤ちゃん研究の結果をいかした商品を

河内さん自身は、もともとは理系出身で新卒で当時の雪印乳業に入社。母乳研究の部署に配属されたのち、ベビーフードの開発、営業を経て現在の商品開発部に至ります。

「プラチナミルク」は、ほぼすべての部署が関わった一大プロジェクトで、「苦労した人間関係も含め様々な部署での経験も今回の仕事にいかされました」と振り返ります。

最後に、今後の展望について聞くと「引き続き、プラチナミルクの拡大もそうですが、弊社が雪印乳業時代から続けている母乳研究や赤ちゃん研究の結果をいかした中で、ほかのさまざまな年代の人に役立つ商品を作っていきたいですね」と力を込めました。

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(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

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