前回の記事で養子を迎えて、「過去の自分だったら人にこんなに献身的にはなれなかったと思う」と話してくれた、マンガ家の古泉智浩(こいずみ・ともひろ)さん。古泉さん夫婦のもとにやってきたのは、「里子」の赤ちゃんでした。
2015年に里子との日々をつづったエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』(イースト・プレス)を出版して2年、その時の里子の赤ちゃん「うーちゃん」は、特別養子縁組を行い、戸籍の上でも親子になりました。
続編であるエッセイ漫画『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』(イースト・プレス/12月13日刊行)には、特別養子縁組が成立するまでの過程と、うーちゃんの成長の様子が描かれています。
インタビュー後編となる今回は、イヤイヤ期を迎えたうーちゃんとの生活や、新たに里子を育てたいという気持ちについて聞きました。
3歳になったうーちゃん
——うーちゃんは現在何歳ですか?
古泉智浩さん(以下、古泉):3歳になりました。ちょうどイヤイヤ期の真っただ中です。
——反抗されてツラいと思う時もあるのでは?
古泉:まあ子育てってそういうことも含めてだと思います。乳児の時は純度100%でわがままで、それはそれで大変でしたし。ちょっと感情表現が強めな子なので、他の子より手がかかっているような気もします。着替えの途中で逃げたり、おしっこをしていても「してない」と言ってオムツを替えさせてくれなかったり。毎日のことなので、「頼むよー」と思うんですけどね(苦笑)。
あまりにも聞きわけがない時があるので、友人にグチを話したら「(親の前だから)安心しているんだよ」と言われて、泣きそうになりました。
——古泉さんのマンガを読んでいると、大変なことも多そうですが、うーちゃんといられる嬉しさが伝わってきます。
古泉:子どもが近くにいてくれるだけで嬉しいですよ。僕が舌を出して変な顔をしただけで「ギャハハハハ」と笑ってくれたり、顔を近づければ近づけるほど「ヒーッ、ヒーッ」って息も絶え絶えになるくらいウケてくれたりするのを見ていると、楽しくてしょうがない。人にウケるのは嬉しいっていう根源的な喜びを、日々味わっています。
もう一人里子を迎えたい
——うーちゃんとはいい関係を築けていると思うんですけれども、自分と血のつながった子どもが欲しいと思うこともありますか
古泉:実は今年、最後に1回だけということで、不妊治療をやってみたんです。まあ、全然うまくいかなかったので、お金ももったいないし、もうやめようということになりました。
今は、できればもう一人、里子を預かれたらいいと思っています。でも、妻が腰を悪くしていて、僕も不眠症気味ですし……。2人とも体力づくりをしないと、とてもじゃないけどそんなことを言う資格がない。そういう理由もあって、妻は最近ウォーキングを始めました。僕もこのあいだ、マラソンで21km走りましたよ。
——すごいですね! 新しく里子を希望されているのは、うーちゃんに“きょうだい”みたいな存在がいたらいいという考えからでしょうか?
古泉:そうです。僕は一人っ子だったので、一人っ子の負の側面をものすごく実感しているんですよ。人がいると眠れないのもそうですし、物を分け合う相手がいないからわがままになりがちですし。もちろん、一人っ子がみんなそうだとは言えませんが、うーちゃんには、家庭の中で社会性を培って、人と折り合える人間になってほしいんですよね。
——里子をもし預かるとしたら、どのくらいの年齢の子を? うーちゃんのお兄さん/お姉さん、弟/妹。選べると言えば、選べるわけですよね。
古泉:実は、うーちゃんが10カ月くらいの時に、8カ月の男の子を1週間だけ預かる機会があったんです。その時は、うちに最初に来たうーちゃんを優先しなきゃいけないという思いもあり、もう一人の子に平等に愛情を注ぐことができませんでした。
その後、「小5か中1の子を里親として預かりませんか?」とお話をいただきまして。その時に、妻と2人で真剣に考えたんです。うちでは、うーちゃんを第一に考えるという前提があり、そこに小5か中1の子が来たらどうか? その子たちはとてもツラい思いをしてうちに来るのに、優先して扱われなければ、きっと気持ちが傷つくんじゃないか?
そこまで考えて「もし養育するなら、うーちゃんよりも年下の子にしよう」と妻が言い、僕も賛成しました。だから、うーちゃんより年下で、物心のついていない1〜2歳くらいの子を預かれたらいいというのが、今の僕たちの希望です。
実親さんについて思うこと
——うーちゃんが大人になって、もし「自分も里親登録を考えている」と言ったら、どう答えますか?
古泉:迷わず登録したほうがいいと言いますね。その場合は、孫も自分とは全く血縁の違う子だけど、なついてくれたら、きっと誰でもかわいいと思えるんじゃないでしょうか。最近、うーちゃんのお見送りやお迎えで保育園へ行くと、じゃれてくる子がいるんです。よその子でもなついてくれるとかわいいなって思いますよ。
——うーちゃんの実親さんに対して思うことはありますか?
古泉:感謝しかないです。縁組みがスムーズにいったのも実親さんのおかげです。ただただ「ありがとうございます」というか……。
——もう少し詳しく教えていただけますか?
古泉:みんなが幸せだったら今の状況はあり得ないんですよ。実親さんの不都合があったからこそ、うーちゃんがうちに来てくれたという状況があるんですよね。これは我々のエゴですし、決して喜んじゃいけないんですけど。
——実親さんとお会いしたことは?
古泉:ないんです。実親さんは、うーちゃんを産んで、そのあと離婚して僕らと同じ市に引っ越してきたそうです。そういう経緯がなければ、うーちゃんは別の市の児童相談所の案件になっていて、うちには声がかかっていなかった。いろいろな偶然が重なって、今の状況があるんだと感じます。妻も『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました』のあとがきで、実親さんに対する感謝をつづっています。
【奥さんの想い(著書より引用)】
「想像だけではわからないことだらけだ」と里親になってよくわかった。特に産みの親御さんたちへの想 いは、経験してみないとわからなかった。里親になる前は負のイメージだったが、今はとにかく感謝しかない。この世に産んでくださって、その命を安全な児童相談所に託してくださって、本当にありがとうございます。
——安全な児童相談所……。
古泉:ニュースなどでは、児童相談所が悪く言われるケースも多いですよね。でも僕らがお世話になった児相では、みなさんすごく多忙ななか、手厚くフォローしてくださいました。里親を考えている人だけじゃなく、育児が困難だと感じている人にも、児相の良い面をもっと知ってほしい。もし、万が一子育てが上手くいかなくて悩んだとしても、子どもと引き離される場所とか、自分のダメな部分を認める場所とか、そういう怖いイメージを持たずに相談に行ってほしいですね。
(取材・文:東谷好依、写真:面川雄大)