『ふがいないきょうだいに困ってる』第2回

サバサバした姉と流されやすい弟。林田さんの場合【ふがいないきょうだいに困ってる】

サバサバした姉と流されやすい弟。林田さんの場合【ふがいないきょうだいに困ってる】

「親の老後、死後の相談ができない」「経済的に自立できていない」「何かとトラブルが多くて困っている」……など、きょうだいのことで悩みを抱えているけれど、人に相談できずにひとりでモヤモヤしていませんか?

不安感はあるけれど、「家族」なんだしどうにかなるだろう——と、スルーしがちな大人のきょうだい問題。「このままだとちょっと心配」の段階で向き合うために、コラムニスト・フリーライターの吉田潮さんがご自身を含む”ふがいないきょうだい”に悩む人たちの声を集め、専門家に話を聞いた『ふがいないきょうだいに困ってる 「距離を置きたい」「縁を切りたい」家族の悩み』(光文社)が、5月24日に発売予定です。

ウートピでは、特別に本書の一部を発売前に抜粋して掲載。”ふがいないきょうだい”や「家族」について、今一緒に考えてみませんか?(この記事は、全6回の第2回)

繰り返す問題行動、身の丈に似合わない浪費癖(林田瑛子さんの弟)

「きょうだいはいますか?」と聞かれたら「いません」と即答。きょうだいの存在をあまり知らせたくない人がいる。林田瑛子さん(45歳)だ。

「私、一時期は”ひとりっこ宣言”をしていました。本当は2歳下の弟がいるんだけど、話してもプラスにはならないので。とにかく”かまってちゃん”なんです」

43歳にして、かまってちゃんと言われてしまう弟・正孝さんは、どんな人なのか。

「弟はもともと気が弱くて、周囲に流されるタイプ。小学校の友達が中学校に入ってみんなやんちゃというかヤンキーになって、バイク盗んで改造したりしていて、そのグループにいたみたい。でも、いじめられたとかパシリにされたわけでもなく、ノリでダボダボの服を着て、仲間とつるんでるだけ。オラオラ系になるわけでもなく、喧嘩するほど根性も据わってない。周りが強いだけで勘違いしちゃってんのかと思って、『お前さ、そういうキャラじゃないんだから、やめたら?』って本人に言いましたけどね。弱いんだから自覚したほうがいいんじゃないのって」

瑛子さんはサバサバした性格の人だ。一刀両断の物言いで裏表のない人である。ちょっと気弱な弟をふがいないと思うのは、性格の違いかなと思っていたら……。

「実は20年以上前に始まったんですよ、弟の厄介な言動は。当時、弟はうつ病の女の子と付き合っていたら、自分もうつ病になっちゃって。その子の通院に付き添ってる間に、何か自分もおかしいなって思ったらしくて。診察を受けたら『あなたはうつ病でパニック障害です』って言われて。病名がついたことによって、彼の人生の歯車が狂ったらしいんですね。もともと流されやすいから、ネガティブ思考の彼女とずっと一緒にいて、慰めたりしているうちに自分もそうなったらしいんだけど」

当時、瑛子さんも正孝さんも実家住まいだったが、正孝さんがどこの病院に行ったかも知らなかった。

「弟に本当に興味なかったから。まあ今もですけど。私は、自分が楽しむことが自分の人生だと思ってるんで、仕事も別に何だっていいし、楽しく生きることが一番大事。だから成人した弟に関わってる暇はないですよ。迷惑をかけなければいいくらいにしか思っていないし。その頃、弟は就職していましたが、結局会社に行けなくなって家にこもった。傷病手当っていうのかな、当時は毎月結構な額をもらっていましたよ。月給の7〜8割とか」

心の病ならば、正孝さんを責めてはいけない。しかし、家族は距離が近いだけに、思うところがたくさんあるようで。

「手当をもらっても働いていないから、金も時間も余るわけですよ。それでパチンコに行くんです。心が病んでいても体は元気なわけで、動けるんですよね。パチンコだけじゃなく、クラブに遊びにも行ける。でも仕事や家事はやらない。自分の好きなものを買い込んだり、彼女に貢いだり。自分が好きなことはできるわけ。私に言わせれば、『はぁ? 何それ』ですよ。手当も出ていたし、父も母も『病気だから』と思って、ハッキリ言えなかったみたいで」

弟が働いていた会社は、林田一家がご縁のある会社でもある。ただ、弟は日勤も夜勤もある不規則な勤務状態で、そこにうつ病の彼女という、いろいろと重なった状態でもあった。

「彼女とは結局別れたんですよ。でも次に付き合った女の子も、同じように、処方された薬を飲んでいる子で。普通にいい子だったんだけど、まあ、類は友を呼ぶみたいな感じだったのかな。で、弟も時々ワーッとおかしくなって、『俺は死ぬ!』みたいなことを言い出すようになったんです。それで薬のオーバードーズもやりましたからね。しかも3回も」

消費者金融から200万借りていた

オーバードーズ、つまり薬の大量服用。ただ事ではない。家族は複雑な思いを抱え込んでしまう。

「1回目は、私がちょうど旅行から帰ってくる途中、当時の彼女から電話が入って。『お姉さん大変です』って。急遽予定を変更して、私はそのまんま救急病院まで行く羽目に。病院に行ってみたらカテーテル入れて、胃洗浄されてて。私や家族の時間を奪うのが腹立たしいし、なによりも親より先に死ぬなんて、親を苦しめるだけじゃないですか。

私は弟が死んでも3年くらいで忘れるけど、親はそうはいかない。その身勝手さが一番許せなかったんですよね。だから私は母親に『もし2回目があったら助けるな!』って言いましたよ。その自殺未遂の前にもいろいろとあったもので……」

強烈な言葉かもしれないが、瑛子さんは育ててくれた親への思いも人一倍強いことがわかる。それゆえに、親に心配をかける弟に対しては厳しくなる。

実は、働いていない正孝さんが借金をしたこともあったという。

「休職中の弟がカードのキャッシングで借りまくり、消費者金融にまで手を出してたことが発覚したんです。うちの父親が大嫌いなんですよ、そういう借金とかカード払いとか。父親が『とりあえず全部洗いざらいまとめて出せ。一括で返すから。それで、お前がその金を俺に返せ』と、全部清算したみたいですが、全部で200万ぐらいと聞いてます」

実家暮らしで、食う寝るに困らない上に、傷病手当ももらい、生活が苦しいわけではない。そんな大金をなぜ正孝さんは借りてしまったのか。

「自分の弟をこんなふうに言うのもなんだけど、ええかっこしいで私が最も嫌いなタイプ。自分をよく見せたい、人によく見られたいんですよ。だから、他人には親切ですごく優しい。雨が降ったら車出してあげるとか、お金がないのにご飯おごっちゃうとか。人様の相談に乗ったりして、すごい偉そうに話してるんですけど、私に言わせれば『仕事もろくにしてないくせに何言ってんの? まともに働いてから言えよ』って。

でも、本人は悦に入っちゃってるから、なんか滔々(とうとう)と説いてる。挙句、借金ですよ? 結局それも父親に返したんだかどうか。月に3万だか払ったというけれど、それは生活費であって、借金の返済ではない。その線引きがないから、うやむやですよね」

お金にだらしないきょうだいについては2章でまとめて触れるが、ルーズな金銭感覚の持ち主に対しては身内の目線がよりいっそう厳しくなるものだ。正孝さんも心の病といえど、姉の怒りの導火線に火をつけてしまったようだ。

叱れない親の代わりに憎まれ役

ご両親も「病気だから」という理由で、息子を強く叱ることはできない。結果、長女の瑛子さんがその役割を担うことになってしまったのだろう。

「この頃から弟に繰り返し言ってきたことがあるんです。両親が亡くなったらうちの家族は解散、私には関わってこないように、と。あなたに人生を邪魔され続けるのは勘弁。今後、私も邪魔はしないし、助けもしませんから、ってね」

繰り返す問題行動、身の丈に合わない浪費癖。正孝さんの20代は家族を振り回し続けた。

ふがいない息子に対して、母親は時折、自分を責めていたという。「私の育て方が悪かったのかな……」とよく口にしていたそうだ。そのたびに瑛子さんは反論した。

「いや、違うから。私も同じ育て方してるんだし。育て方が悪いんじゃない、育ち方が悪かったんだって。お母さんのせいじゃないし、あいつの環境が悪かったんだって。それも、思春期の多感な時期ならまだしも、20歳を過ぎた成人がそうなったのは、誰のせいでもなく自分のせいなんだからっていう話をしました」

責任感もストレスも感じている母親に対して、甘えている弟が許せなかった瑛子さん。

「いつだったか、弟が家にこもって働かない時期、母親の作った夕飯に対して文句をつけたんですよね。ミックスベジタブルってあるじゃないですか。お弁当の残りかなんかだと思うんだけど、食卓に出したんです。それに対して弟が『なんだよ、弁当じゃないんだから、他になんかないのかよ』って。

それを聞いて私は『お前さあ、ひきこもって家に一銭も金入れないで、飯食わしてもらって何様なんだよ!』って。そうしたら弟も逆ギレして『じゃあいいよ! 食わねーよ!』と、茶碗を流しに投げたんです。あのとき、私も初めて頭に血が上るという経験をしましたよ。頭に血が上ると、手の指先が冷たくなるんですよね。手が寒くて震えるくらい。

それで『いい加減にしろよ!』って追っかけたら、弟が玄関先でパタッと倒れて、ガタガタ震えて嗚咽(おえつ)し始めたんです。『てめえ、私の靴にゲロなんかかけたらタダじゃおかねーぞ!』っつって追いかけたら、母親が『やめて! もうそれ以上追い詰めないで!』って止めに入ってきて。確かに追い詰めたかなって後から思いましたけど、家事すべてをやってくれている母に対して弟が当然のような態度をとるのが許せなかった。一事が万事、そんな感じでした」

(第3回は、林田さんのケース・後編です)

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