憂鬱な日曜の夜を「楽しみ」に変えてくれたバカリズム『ブラッシュアップライフ』人気の秘密

憂鬱な日曜の夜を「楽しみ」に変えてくれたバカリズム『ブラッシュアップライフ』人気の秘密

今まで憂鬱(ゆううつ)だったはずの週末の夜に、ひと筋の光明が差し込んできた。

今までの日曜ときたら18時に『相葉マナブ』(テレビ朝日系)を見終えて、ゆっくりと大河ドラマを見て、そして日曜劇場へ……ああ、休日が終わっていく……とやや重たくなった頭でベッドに入ることが多かった(あくまでもこのコラムの筆者調べによる)。それが新年早々『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)のスタートにより、日曜夜が楽しみになった。このドラマ、一言でまとめるとむちゃくちゃ面白いのである。

SNSを見渡すと、私のような昭和生まれから、平成生まれZ世代までがっちりと眼球と心をつかんでいる。皆、ハマっている。このモーゼの海割りのごとく、伸びていった人気の理由はなんだろう? 放送されるすべての連続ドラマを見続けて、ン十年。自称・ドラマオタクの小林久乃が考えてみた。

日本テレビ提供

「私も徳を積もうかな」と思わせてくれる日曜夜の癒し、そして月曜からのエナジー

知らない人もいるかもしれないので、まずはあらすじを。

“近藤麻美(あーちん/安藤サクラ)は、35歳の研究医。医学界に貢献すべく、日夜研究を続けている。実は彼女、近藤麻美としての人生が4回目。1回目は地方都市の市役所職員。2回目は薬剤師、3回目はテレビ局勤務のプロデューサー。すべて不慮の事故により命を落とし、死後案内所の受付係(バカリズム)に「徳を積めば人間として生まれ変わることができる」と言われ、保育園の先生の不倫を阻止したり、中学時代の嫌いな教師・ミタコングを冤罪から救ったり、祖父の命を救ったり、コツコツと徳を積むミッションをこなして人生をブラッシュアップさせてきた。麻美の人生は4度目にして完遂できるのか?”

今の自分の知識、脳細胞で人生をやり直せることができたなら……そんなSF映画めいた妄想、誰もが一度はしたことがあるはず。なかったら申し訳ない。ただ恥ずかしながら私は何度も考えたことがある。でも残念ながら人生は1周目だ。

あらすじだけ読めば素っ頓狂(すっとんきょう)なドラマである。そこへ多くの視聴者が引き込まれていく理由のひとつにリアリティーさと、斬新さの掛け合わせがある。まずは斬新さをたどると、関東圏の地方都市(注:物語では“北熊谷市”という、実際にはないけれど、埼玉県を匂わせる設定)に住む女性をヒロインにしたドラマが珍しいこと。朝ドラや離島医療ドラマではない。ふつうの女性たちの日常を描くのが、地方都市なのだ。東京に住んでカフェや居酒屋で待ち合わせるような女性がヒロインではないこと。ここに親近感が訴求されているのは大きい。

人生二周目以降も麻美は幼い頃からの友人、なっち(夏帆)と、みーぽん(木南晴夏)としょっちゅう会っている。地元での移動手段はみーぽんが運転する、軽自動車だ。そして居酒屋でもなく、地元のカフェレストランに集合をして、どこまでも他愛もない会話を続ける。

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「バカリズムこそ人生何周目なんだろう?」と思わせる精緻な脚本

食後は遊び場のメッカ・ラウンドワンでカラオケがお決まりコース。私も地方出身なのでよく分かる。カラオケはソフトドリンクで盛り上がる、最高のエンターテインメントだ。突然カラオケでハモってくる面倒な輩(やから)がいても、それでも歌う。そして3人組は都会のヒロインのように、小綺麗なコートを羽織っているのではなく、大型ショッピングモールで売っていそうな、ごくありふれた格好をしている。こういったリアリティーあるディティールが共感度をさらに深めていく。

よく考えると東京のど真ん中に住んで、幼少期から青春期を過ごす、田舎っ子の羨望(せんぼう)を浴びる “都会っ子”は日本全体から見たらごく少数。そう考えると『ブラッシュアップライフ』との親和性は半端ない。

「私たちの会話、聞いてた?」と思うほど、女性分析力の高いドラマを考えているのは、もう日本を代表する脚本家になったバカリズム。舌を巻くのは上記に並べたリアリティー、斬新さを生んだ、女心の分析力である。アラサー女子の会話だけではなく、小学生のあーちんを含む、女子3人同士の会話が……まあ、よく調べ込んである。「カタルシス〜!(笑)」と、理解していないような言葉で盛り上がり、シール交換(!)をしたり。これがリサーチだけで分かるのだろうかと思うと、疑念がわく。そこで私が思ったのは「バカリズムさんは、心に女性を飼っている」。でなきゃ、こんな原稿を書こうという衝動にたどり着くほど、面白さに惹かれていない。

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さて、物語は最終章へ突入。展開が気になるところといえば、実は人生ブラッシュアップ仲間だった、宇野真里(水川あさみ)とのやり取りと、関係性だ。同士ならではの会話は見ものである。

それからあーちん最大の課題となっている「徳を積む」ことの行方。バカリズム演じる「受付」から、死ぬたびにグアテマラ南東部のオオアリクイ、インド太平洋のニジョウサバ、北海道のムラサキウニ……と、どうしても生まれ変わりたくはない生物として、来世を告げられてきたあーちん。徳を積めば人間になれると、善行をずっと心がけてきた。公務員だった彼女が研究医を志したのも、莫大な徳を積むためだ。でも勉強ばかりを続けてきた代償として、前世仲の良かった友人との関係性が薄くなっている。これでいいのか? あーちん! 果たして徳とは何なのか? この答えは最終回が握っている。

「ブラッシュアップライフ」は日本テレビ系で日曜午後10時半放送。Tverで1〜3話、最新7話が無料配信中。

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