2023年もいよいよスタート。年末年始のまとまった時間にずっと見たかったドラマやエンタメ作品を一気見したという人も少なくないのでは?
自他ともに認める“ドラマオタク”のライター・エッセイストの小林久乃(こばやし・ひさの)さんによる『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)が12月に発売されました。動画配信サービスで過去の作品に手軽にアクセスできる今だからこそ見返したい、平成ドラマの魅力をたっぷりにつづっています。
本の発売を記念して、小林さんに寄稿いただきました。
先日、飲み屋で三十路を控えた女性客に「早く結婚しないといけないんです!」と言われた。実際まだこういった悩みを持つ女性は多い。
こんな悩みを聞くと「それは固定観念であってね……」とウンチクを並べて、諭したくなる。でも若手に嫌われたくないので、溜飲を下げたい気持ちをグッとこらえる。でも、でも。知っているだろうか。女性の“転換期”の年齢変動をテレビドラマが教えていてくれている事実を。
約30年前。女性の自立を教えてくれた『29歳のクリスマス』
ドラマオタクの私がこの世で愛してやまない作品に、山口智子さん主演の『29歳のクリスマス』(フジテレビ系・1994年)がある。アパレル会社に勤務していた矢吹典子(山口)が、上司に逆らったことをきっかけにしてパブへ出向となる。すでに1986年に男女雇用機会均等法が施行されていたものの、まだまだ「男はこう」「女はこう」の決めつけが今よりもずっと強かったバブル崩壊直後の日本だ。女性が働いていくことは苦難の連続で、苦虫を嚙(か)みつぶしたような表情になることも多々。
それでも典子はめげなかった。年下女性のマウントに屈することもなく、セレブ家庭との結婚よりも、本物の愛と自分の仕事を選択した。そんな姿に惹かれて今でも繰り返して見ている作品だ。
このドラマが放送される数年前まではクリスマスケーキに例えられて女性の賞味期限は24歳とも言われていた。いや……まだ学生じゃん……と総ツッコミをしたいけれど、本当にそういう世の中だった。そして数年後、三十路を恐れて結婚という自分の受け入れ先の捜査に必死だった女性たち。そんな状況下、『29歳のクリスマス』が女性の新しい道筋を見いだしてくれたように思う。
ドラマから飛び出した“アラフォー”という40歳の区切り
『Around40 〜注文の多いオンナたち〜』(TBS系・2008年)というドラマを覚えているだろうか。天海祐希演じる、精神科医の緒方聡子は仕事も順調、終の住処(ついのすみか)という高級マンションを手に入れながらも、迷っていた。大きな理由は結婚と出産である。年齢は39歳。三十路が転換期だと言われていた時代は、いつの間にか終わっていた。
平成も終盤に突入した頃、女性の転換期が40歳だとドラマが表現したのである。そして“アラフォー”という、今でも盛んに使われている言葉を生んだ。ドラマの内容もさることながら、竹内まりやによる主題歌『幸せのものさし』も良かった。曲タイトルが示すとおり、自分の幸せは自分の物差しで決めるというのがテーマの一曲。「自由と孤独はふたつでセット」という歌詞の一節に、当時の女性へのメッセージが込められていた。
キョンキョン演じた48歳のヒロインに感涙『続・最後から二番目の恋』
『Around40 〜注文の多いオンナたち〜』からたった4年後。また新しい女性へのメッセージがドラマから動き出した。それが『最後から二番目の恋』(フジテレビ系・2012年)だ。小泉今日子演じる、テレビ局のドラマプロデューサー・吉野千明は46歳。東京から鎌倉へ引っ越して、新しい人間関係を構築して、独身生活を謳歌(おうか)している。日々、酒と肉とタバコを食らい、些細(ささい)なことにはめげない。そんな女性を演じていた。
たくましい千明の姿に、男女問わず共感を呼び、大人気作品に。そして2年後に『続・最後から二番目の恋』が放送された。この時、千明は48歳。そう、五十路目前。つまり女性のターニングポイントは、アラフォーからあっという間にアラフィフまで伸びたのである。もちろんいいことばかりではない。体調不全もあるし、社内では“副部長”という肩書きばかりが先行して、制作現場からは外される。閉経に対する恐怖もある。そんな赤裸々な女性の機微をドラマが堂々と表現してくれたのだ。
そんな3人のヒロインを見て思うこと。30歳、40歳……と年齢を気にして、人生のコマを進めることは、もう選択肢ではない時代に変化したということである。
女性のライフイベントとは代表的なところで、結婚、出産、就職、転職、独立、家の購入など。いずれも自分が「動こう」と思った時期に動けばいいし、他人から指図されるものではない。仮に結婚を取り上げるとすると、結婚もする人がいればしない人もいる。私のように「苗字が変わらなければ」と30代まで金も時間もすべて婚活に注ぎ、40代で「あ、結婚に向いていないかも」と気づくパターンだってある。
ただここで忘れてほしくないのは、3人のヒロインも毎日をサボっていなかったことだ。仕事も遊びも一生懸命で、生き方はすべて自分たちで選択をして、(最終的に)胸を張っていた。年末年始、もし時間があればサブスクで作品を見て参考にすることもいいかもしれない。
改めて。冒頭の飲み屋で会った彼女がなぜ「30歳までに結婚したい」と切々と訴えていたのかは分からない。もしまた会う機会があれば、ここに書いたことをまた酔いに任せて話してみたい。おそらく静聴されずに「あ、ヤベーやつが来た」と、とっとと退散されそうだけど。