2022年も残りあとわずか。年末年始はゆっくり好きなドラマや映画などエンタメ作品を楽しむという人もいるのでは?
そこで、12月16日に『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)を上梓したばかりの自他共に認める“ドラマオタク”ライターの小林久乃(こばやし・ひさの)さんに、令和4年のドラマを振り返っていただきました。前後編。
パンデミックによる自粛期間もあけて「さあ、出かけてもいいですよ!」と国が解放してくれた2022年。ひさびさに自由を手に入れた夜(尾崎豊『15の夜』オマージュ)なのに、よくテレビを見ていなかっただろうか? その理由のひとつに、北京冬季オリンピックやサッカーワールドカップがある。本当は現地に観戦に行きたいけれど、私を含め多くの人はそんなことないだろうから、自宅でテレビにかじりつく以外、他ない。
加えて今年は全局で、ドラマ大豊作の一年だった。よくテレビ画面を見た。これは小学生から連続ドラマをオールチェックしているオタクが、自信を持って断言をする。ではその理由は何か……というと、フジテレビが放送したドラマの数々がオタクの進むべき道を明るく照らしてくれたのである。そんな思い出を振り返ろう。
火曜の朝は“月9”の話題で持ちきりだった「あの頃」がよみがえる
この記事を読んでくださっている皆さんが「月9(げつく)」と聞いてピンとくる人はどれだけいるだろうか。これは1990年代を中心に、フジテレビが月曜夜9時に放送していた連続ドラマの略語である。火付け役と言われるのが、1991年に放送された『東京ラブストーリー』(脚本:坂元裕二)で、ラブストーリーをはじめ学園モノ、ミステリー、サスペンス、ファミリードラマとさまざまなジャンルの作品が放送されていた。テレビ文化全盛期だった当時、老若男女問わず、“月9”に熱狂したのである。
それから数十年。“ドラマのフジテレビ”と言われた人気ぶりが、どこかへ消えてしまった。私はオタクなのでずっと作品をチェックしていたけれど、周囲の人間とまるで話が合わなくなっていることだけは実感していた。
それが2022年のフジテレビはまるで、月9の息を吹き込まれたかのようにドラマが面白かったのである。『ミステリと言う勿れ』は菅田将暉の演技に引き込まれて『おいハンサム!!』で大笑い。『恋なんて、本気でやってどうするの?』では、朝ドラを終えたばかりの松村北斗(SixTONES)に心を撃ち抜かれた。そして冬は『PICU 小児集中治療室』『エルピス−希望、あるいは災い−』『silent』と、涙と、視聴者の背中にほとばしるゾクゾク感をかっさらっている。こんな名作ラッシュはここ数年間、お目にかかることができなかった。
改めて。2022年のドラマの面白さはフジテレビがハンドリングしていた。前置きが少々長くなってしまったが、ドラマオタクによるベスト3の選出も、やや気持ちが奪われていること、ご理解のほど……。
第3位『あなたのブツが、ここに』
出演:仁村紗和、毎田暖乃、キムラ緑子、佐野晶哉(Aぇ! Group/関西ジャニーズJr.)
(NHK総合・8月〜放送)
山崎亜子(仁村)は小学生の娘を育てるシングルマザーで、職業はキャバ嬢。コロナ禍の煽(あお)りを一挙に受けてしまい、無職に……。貯金も底をつき、実家に戻り、宅配便のドライバーとして働き始める。これがドラマの大まかなあらすじ。
「夜ドラ」という月曜から木曜まで、毎日15分間、深夜に放送されていた『あなブツ』。マスク着用問題、消毒、宅配便の増加、友人の自害、以前とは違う生活様式。この数年間で誰もが触れたワンシーンがよみがえってくる感覚だ。当時はあんなに鬱蒼(うっそう)とした気分だったのに、ドラマを見ているとノスタルジックな気持ちになれたのが不思議だった。ほんの数年前のことだとは思えない。
思えばNHKは優等生のフリをしながらいつも斬新さをアピールしてくる。例えば朝ドラ『あまちゃん』(2013年)もそう。誰もが触れることを恐れて琴線のようになっていた、東日本大震災発生から2年後にドラマ化した。それがあえて、良かったのだ。今回もまた、パンデミックによって苦難を強いられた状況下なのに、力強く、気も強そうに生きていた亜子。心がふさがっているときは、そんな強そうなイメージに皆、ついていきたくなるものだ。そんな要素が詰まっていった。
第2位『PICU 小児集中治療室』
出演:吉沢亮、安田顕、木村文乃、生田絵梨花、高杉真宙
(フジテレビ系・10月〜放送)
北海道の病院を舞台に、ひとりの小児科新人医師・志子田武四郎(吉沢)が試練を乗り越えて成長していく物語。まあ、泣いた。ドラマを趣味で見ている理由のひとつに感動から得られる涙の浄化作用がある。これが年齢を重ねると、そんな簡単には作用しない。
そんな私に対して踵(きびす)を返すように、毎週とんでもない感動をぶつけてきた『PICU』。病に苦しむのが子どもであるということも泣いた理由としては大きかった。加えて、葛藤しながら成長していく「しこちゃん先生」。毎週、志子田医師の指導医のごとく泣いていた私。純粋に誰かを救いたいと懇願して、行動する姿は素晴らしい。彼を観ていたら、ふとコトー先生を思い出した。と思っていたら、16年ぶりに『Dr.コトー診療所』(2006年)が映画化されて、クライマックスを迎えた。主題歌も同じ中島みゆきだし、バトンタッチされた作品として、続編を期待しよう。そしてまた舞台は北海道がいい。
第1位『Silent』
出演:川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、夏帆、風間俊介、篠原涼子
(フジテレビ系列・10月〜放送)
数年振りに偶然、再会を果たした恋人・佐倉想(目黒)がろう者になっていた青葉紬(川口)。驚きながらも手話を覚えて、空いてしまった時間を埋めようしていく。これが本当に大まかなあらすじだ。
「いやいや、ドラマオタクと言い張って、ドラマの本も書いている人が選んじゃダメでしょ〜?」と言われそうではあるが仕方ない。本当に毎週、夢中になってしまったのだから。ではなぜ夢中になってしまったのかを検証をする。
まず「こんな純然たるラブストーリー、待っていました!!」。これが大きい。昨今のドラマはどうも伏線回収祭りの勢いが止まらず、必死で物語に追いつかねばと躍起になりながら視聴することがある。少しでも他の視聴者よりも違った観点を見つけたい。その一心も間違っていない。ただ個人的にドラマはストレス解消なので、この現象が少し疲れることもある。それが『silent』にはなかった。もちろん、振り返ると「ああ、伏線か」と思う小さな箇所もあったけれど、それは主人公たちの愛を紡ぐために必要な要素だと納得。
そんな純度の高さにオタク以外も心惹かれたのか、ひさびさに普通の友人と『silent』の話で、よく電話をした。LINEもした。だいぶ昔、月9の話題で盛り上がったことを思い出した。こんな現象いつ以来だろうと思ったら『花のち晴れ〜花男 Next Season〜』(TBS系列・2018年)のことが浮かんできた。
それから、手話を扱ったドラマということで、かなり画面に集中して海外映画のように見ていたことも大きかったかもしれない。自然にセリフと演者の機微に集中をする。CMがハーフタイム(休憩)となり、1時間の試合に挑むような感覚。毎週木曜日の放送が待ちきれず、1話の放送を繰り返し見ていた熱情。楽しかったなあ。全録画しているので、冬休みに繰り返し見ようと思う。そして来年の連続ドラマ開幕を心待ちにする。
第4〜5位はこちらから。