2022年も残りあとわずか。年末年始はゆっくり好きなドラマや映画などエンタメ作品を楽しむという人もいるのでは?
そこで、12月16日に『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)を上梓したばかりの自他共に認める“ドラマオタク”ライターの小林久乃(こばやし・ひさの)さんに、令和4年のドラマを振り返っていただきました。前後編。
2022年はテレビドラマ界において、何かと変革期だったように思う。「タイパ」や「倍速視聴」という言葉に象徴されるように、視聴方法や放送時間、SNSとの連動性。平成後期かふわふわと続いてきた現象が、グッと浮き彫りになったような感覚がある。では一体、どんな現象が起きたのか? それらを私、小林久乃がドラマオタク代表として、あれこれを綴(つづ)らせていただく。
ここは「今年こんなドラマがあってよく見たよね〜〜!」と、みなさんと笑い合って語らう場。読み終わったらタイトルをサブスク検索できることが、現代っぽくていいなあと思う。
「ひょっとしたら連続ドラマも時間短縮放送に!? 」という危機感
今年は良くも悪くも人々がテレビの前に集合した1年間だった。年初には北京冬季オリンピック、年末にはサッカーワールドカップが開催。皆が睡眠時間を削って、仕事をする時間を調整して熱狂していた。先日、最終回を迎えた大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)も、平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)14.8%で大円団を迎えた。
では、今年は何がテレビに起きたのか……というと、ワールドカップがいい例になるけれど、若者の視聴方法が完全にサブスクに移行したこと。実はワールドカップの中継も、元日本代表の本田圭佑選手による『AmebaTV』での解説が大人気。確かにサッカーファンのツボをそつなく突いて、寄り添ってくれるような言葉選びは最高でした。一時期はアプリに入れなくなるという現象もあったほど。
川口春奈さん主演で12月22日に最終回を迎えたドラマ『silent』(フジテレビ系)も放送回数を追うごとに、TVerの再生回数が増加。1話ごと、500万回近くが記録されている。言われてみたら、私も移動時間にちょくちょくスマホでドラマを見るようになった。以前のようにWi-Fiを探して三千里、といった現象もないのでどこでも見られる。
そんな視聴環境に対応しようとしたのだろうか? 情報番組やバラエティー番組で放送される、約5分程度のドラマが人気なのだ。朝の情報番組『zip!』(日本テレビ系・月~金曜午前5時50分~8時)では毎日5分間程度の放送。定番のNHKの朝ドラと最近人気の夜ドラ枠は、毎日15分間。『土曜はナニする!?』(カンテレ・フジテレビ系、土曜午前8時半)内での『イケドラ』は、約4分間。スマホで視聴するには、ちょうどいい時間なのかもしれないとしみじみ。
ただどうか、これから制作される番組が「ちょっと短くしてみる?」とはならないようにと願う、昭和生まれであり、ドラマオタクの私。僭越(せんえつ)ながら今年、夢中で見た連続ドラマ5本をピックアップしてみた。
年末年始、サブスク検索の参考にしてもらえばドラマオタクとしてこんなにうれしいことはない。
第5位『おいハンサム!!』
出演:吉田鋼太郎、木南晴夏、佐久間由衣、武田玲奈、MEGUMI
(東海テレビ、フジテレビ系・1月〜放送)
またコロナウイルスの蔓延率が元気を見せ始めた、2022年の年初。毎週土曜、ニヤニヤしながら放送を待っていたホームコメディだ。伊藤家の三人姉妹たちが、毎週巻き起こす事件。お父さん・源太郎(吉田)と、お母さん・千鶴(MEGUMI)が、時に厳しく、時に優しく見守りながら解決していくのが、大まかなあらすじ。
面白かったポイントがふたつある。まずは「お……」と唸(うな)った好キャスティング。あのMEGUMI さんが52歳のほんわかした母親役。長女はすでに結婚しているというシチュエーションだった。このお母さん、審美眼が非常に鋭く、娘たちのピンチを次々に見抜く。そして見抜かれたのが高杉真宙さん演じる、大倉学。あの好青年の塊のような高杉さんが、インテリのマウント男子を演じていたのだから、そりゃ驚いた。
そしてやっぱり見どころをさらったのは、お父さん。娘の離婚危機、結婚しなくちゃ症候群、ダメ男好き……という、どこの家庭でもありそうな問題に対して真正面から向き合って、時には体当たり勝負に出てくる。すべては家族への愛情だってこその行動だ。
「伊藤家リモート会議が招集されました。奮ってご参加ください」
お父さんの掛け声で始まる家族会議。参加してみてたかった〜と、笑ったり、ほんわかしたりのドラマだった。
第4位『マイファミリー』
出演:二宮和也、多部未華子、濱田岳、賀来賢人
(TBS系・4月〜放送)
春の日曜劇場枠で放送されたのが『マイファミリー』。ゲーム会社社長でいわゆるセレブ一家の鳴沢家に起きた、突然の誘拐事件。父・温人(二宮)と母・未知留(多部)は警察の手には頼らず、自ら犯人の接触をして一人娘を救出する。やっと平穏な日々が訪れたと思いきや、鳴沢家に関わる家族たちも続々と、子どもを誘拐されることになってしまう……というのが、大まかなあらすじ。
「見てしまった……!」というのが、私の第一声の感想。この作品、世で言うところの“伏線ドラマ”だった。第一話に誘拐事件が勃発するところから始まり、犯人特定に視聴者が躍起になった。もちろん、私もなってしまった。実は伏線回収というのが非常に苦手なのである。ドラマオタクとしては、第5位の「おいハンサム!!」の吉田鋼太郎演じる「お父さん」が家族と向き合うように、「ドン」と作品を真ごうことなく受け止めたい。要は単細胞ゆえにあまり難しく考えたくないのだ。
ここからは個人的な話になってしまうのだが、ちょうど『マイファミリー』が放送されていた当時、私は非常に手のかかる案件を抱えて仕事をしていた。毎日やりとりをする担当者とは意見が合わず、何度背負い投げをしてやろうかと考えた。ストレスが溜まっていたのである。そこに登場した伏線ガンガン回収ドラマ。しれっと見ているつもりが、夢中になっていた。普段は深く入り込んでいかない伏線回収が、思わぬストレス解消になっていたらしい。最終回間際ではツイッターの犯人予想にも参加。やっぱりニノのドラマは面白い……と改めて納得をした2022年の初夏だった。
『マイファミリー』は12月29日に午前7時から午後6時まで全話一挙放送。(関東ローカル、中断ニュースあり)
※後編(第1〜3位)は11月30日公開です。