映画『そして僕は途方に暮れる』インタビュー前編

キーボードを打つシーンに20テイク、雪待ち4時間…。中尾明慶がそれでも監督を信頼する理由

キーボードを打つシーンに20テイク、雪待ち4時間…。中尾明慶がそれでも監督を信頼する理由
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逃げて、逃げて、逃げまくる——“人生を賭けた逃避劇”を描く映画『そして僕は途方に暮れる』が、2023年1月13日に公開されました。脚本・監督は三浦大輔さん。2018年に上演した同名の舞台作品から続いて、都合が悪くなるとすぐに逃げてしまう主人公・菅原裕一役は、藤ヶ谷太輔さんが務めました。

今作で、菅原の親友・今井伸二役を演じた中尾明慶さん。三浦組の撮影は舞台稽古のように厳しく、あるシーンは20テイクも撮り直しをしたそうです。それでも「妥協しない監督は素敵だし、チャンスがもらえてありがたい」と語る中尾さんに、お話を聞きました。

何気ないシーンを20回撮り直し…撮影というよりほぼ稽古

——中尾さんは、2018年の舞台版でも今井役を演じています。映画版のオフィシャルコメントによると、当時から映像化への思いがあったそうですね。

中尾明慶(以下、中尾):はい。この作品は、何か特別に舞台映えするような殺陣があるわけでもなく、淡々と進んでいく日常が描かれています。じつは舞台のときも、マイクをつけて、日常会話のトーンで芝居をしたんです。劇場は700席以上あるシアターコクーンだったため、本来ならうしろのほうまで届くようにある程度大きな表現をしなければいけないのですが、三浦監督はあえてそれを辞める道をとりました。でも、僕は映像の経験が多いから、そのやり方がまた心地よくて。だから、映像化された際には、きっとまた新たな面白さを伝えられるだろうと思ったんです。

——「三浦組は、撮影というよりもほぼ稽古。OKが出たとき、こんなに安心する組はない」ともおっしゃっていました。撮影は大変でしたか?

中尾:そうなんです。たとえば、今回は登場人物それぞれの生活の点描があって、僕はパソコンで仕事をしているシーンを撮りました。そこは本当に一瞬のカットなのに、20テイクくらい撮ったんです。

——一瞬のシーンに20テイク!!

中尾:パソコンをカタカタやっている僕のうしろを、レールに乗せたカメラで撮影するという、特に見せ場でもないシーンなのに、午前中いっぱいかかりました。僕は午後から別の仕事があって、11時半には確実に出られると思っていたのに、ギリギリで焦っちゃいましたよ。仕事がなければ夜までかかっていたかもしれません(笑)。

……というエピソードを、僕はいつもこうやって面白おかしく話してしまうのですが、内心では、そんな環境でお仕事をさせていただけることに感謝しているんです。

だって、みんなの体力や予算のことを考えたら、早く終わるほうが絶対にいいわけですよ。クリエイティブに対して、「こだわりすぎると大変になっていく一方だし、できるだけ早く終わらせていこうね」という空気もあるなかで、その逆をいける監督は本当にすごいと思っています。「三浦さんだからしょうがないよね」って、みんなにも受け入れられているし。

捉え方で「チャンス」に変わる

——三浦組の現場には、どうして「三浦さんだからしょうがない」「監督が納得するまでやりきろう」というムードができあがるのだと思いますか?

中尾:監督が一生懸命だからじゃないでしょうか。テイクを重ねるときも「何回もやっちゃってごめんね」と謝ってくださるから、こちらも心から「全然ですよ!」と言える。「お芝居とか照明の入り具合とか、パソコンの画面とかカメラの速度とか、なんかいろんなことが気になっちゃったんだよ……」と素直に話してくれるので、納得もできます。それに、それほどこだわる三浦監督がOKを出したのなら、これは本当にOKなんだなって思えるじゃないですか。

——信じられるOKなんですね。

中尾:はい。やり直しが多いというのは、逆にとらえれば、三浦監督はベストを出すチャンスを20回もくれているということ。監督からOKが出たら、僕はよっぽどのことがない限り「もう一回やらせてください」とは言わないので、それだけチャンスがあるのはありがたいですよ。都度「何がだめだったんだろうな」「次はこうしてみよう」と考えられるわけだし。だから、本当に稽古みたいなんですよね。大変だけど楽しいです。

——中尾さん演じる今井と、藤ヶ谷さん演じる菅原が、雪のなかふたりで話すシーンもすばらしかったです。

中尾:あのシーンにも監督のこだわりがすごく詰まっています。人工的に雪を降らせて撮影したのですが、降り方に納得いかないということで、4時間も撮影が止まったんです。僕の目にはめちゃくちゃいい感じに降っていたのですが、監督としてはそうじゃなかったそうで。なので、藤ヶ谷くんと一緒に、寒い北海道でワンカットも撮らずひたすら待機しました(笑)。でも、監督だって早く終わって一杯飲みたいだろうに、そこまで追い求められる覚悟と勇気を尊敬しますね。

——いや、監督を信頼して4時間待つ中尾さんもすごいです。

中尾:ありがとうございます(笑)。僕ら俳優にとっては、監督が妥協してOKを出すことの方が不安になります。だから、こんなにこだわってくれる三浦監督は素敵なんです。とはいえ、ある日突然誰かが本当に逃げてしまわないかな……とは思いましたけど(笑)。

後編は1月14日(土)公開予定です。
(取材・文:菅原さくら、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)

『そして僕は途方に暮れる』

2023年1月13日より東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国でロードショー。
(c)2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会

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