「ランゴリー」インタビュー・後編

「無意識に男性の意見を優先させようとしている自分がいた」私がインドでブランドを立ち上げた理由

「無意識に男性の意見を優先させようとしている自分がいた」私がインドでブランドを立ち上げた理由

コピー機やプリンターを製造・販売するメーカー「リコー」(東京都大田区)が、社内ベンチャーとして、今春、下着やヨガウェアを中心とするエスニックウェアブランド「ランゴリー(RANGORIE)」をスタートしました。その目的は、「インド農村部の女性たちに職業機会を提供すること」、そして「女性の地位を向上させ、一人ひとりが可能性を最大限に発揮できる社会を目指す」こと。

「ランゴリー」のプロジェクトリーダーの綿石早希(わたいし・さき)さんに、リコーがエスニックウェアブランドを立ち上げた経緯について伺った前編に引き続き、後編では綿石さんがインドで驚いたことや女性のエンパワメントに関わる理由について伺いました。

インドの女性が置かれている環境は?

——綿石さんご自身は、何回くらいインドに行かれているのですか?

綿石早希さん(以下、綿石): 2019年に2回、そのうち1回は農村部と都市部含めて5都市を回ってリサーチし、もう1回はムンバイに3ヵ月長期滞在してテスト販売を行いました。そのあと、コロナ禍となりましたが、2022年1月にやっと農村部での工房立ち上げが再開し、その際は3週間滞在しました。

——長期滞在する中で、インドの女性が置かれている環境で驚かれたことは何ですか?

綿石:ポジティブな驚きとネガティブな驚きと両方あります。まず、ポジティブな驚きのひとつは、男女の立場の差は大きいですが、ジョイントファミリーとして一族が一緒に大人数で暮らしているため、女性たちが家事を分担していたことです。

工房を作っても、女性たちが外で働くことで「家事や家族に影響が出るのでは?」との心配もあったのですが、ヒアリングしたところ、「誰かが仕事に出ても、家の仕事や家族の世話はほかの女性たちがカバーするから問題ない。家計のプラスになるのであれば、ぜひ働きたい」ということでした。

ネガティブな驚きは、農村部に仕事がないことで、男性たちが出稼ぎに出てしまって、村にいるのは子供と女性と老人という状況だったこと。でも、女性たちが働いて現金収入ができることで、家族が一緒に暮らせることにも貢献できるのかな、と思いました。

ピーコックフラワーコットンワンピース29,700円

リラックスブラ7,700円、他は参考商品

「Tomorrow is a better day」今日より明日が絶対良くなる

——インドの農村部で生産を始めるにあたっては、何が一番の大きな壁でしたか?

綿石:壁はもうたくさんありました! あえて、ひとつ上げるとするなら、日本で販売するにあたっての品質の確保です。高品質について理解してもらうために、日本の100円ショップでボールペンを買って持っていき「日本では、これが75ルピーくらいで売られています。見ての通り、インドで売っているものと品質が全く違います。日本では高いものはもちろん、安いものにも高い品質を求められるんです」と、口をすっぱくして言って理解してもらいました。

——インド農村部の女性と接していて、印象に残ったことはありますか?

綿石:私は、スタッフが話すヒンディー語を英語に通訳してもらうのですが、「Tomorrow is a better day」とよく言っていて、今日より明日が絶対良くなる、と信じている感じが皆さんから伝わってきました。彼女たちは、頑張れば、それに見合うものがついてくる、と実感しているんですね。ポジティブなエネルギーにあふれていて、私たちから学べるものは全部学びたいと、縫製指導者はいつも質問攻めになっています。仕事にも前向きで、最近は「こんなの作ってみた」と新しいアイデアを提案してくれます。そんな彼女たちから私たちは元気をもらっていますし、だからこそ、この事業を一緒に成功させたいと思っています。

——ポジティブなエネルギーにあふれているんですね。

綿石:ほかにも印象に残っていることがあります。インドのムンバイでテスト販売している時、都市部に住むおしゃれな女性がたくさん来店してくださって「すごくかわいい! 買いたい!」と言ってくださったのですが、かなりの数の女性が「旦那さんに聞かないと(購入していいかどうか)わからない」とおっしゃっていました。下着を買うかどうかの意思決定も、旦那さんに委ねなければならないんだと驚きましたね。

「ランゴリー」のプリント柄には、インドのラッキーモチーフが盛り込まれています。これは、アーユルヴェーダ発祥の都市ケララをイメージした2ndコレクションのモチーフで、魔除けとなる孔雀と、幸せを意味する花・華を用い、幸せが降りてくることをテーマとしたピーコックフラワー。

スキャナーのエンジニアと下着を作る仕事の共通点

——ランゴリーに挑戦する前はコピー機のスキャナーのエンジニアをされていましたよね。下着を作る仕事と聞くと別分野の話に聞こえますが、共通点はありましたか?

綿石:ものづくりのプロセスという部分では、共通していると思います。お客さまが必要としているのは何か分析して、それに対して何を実現させたいかを明確にすることが、私の中では一番コアな部分です。なぜ、その機能が必要なのか、どういう人に届けたいからこのデザインにするのか、を明確にすればするほど、チームは動きやすいし、期待に合ったものができます。「コンセプト・企画がしっかりしていればいいものができる」それが共通点です。

——逆に違う点はありますか?

綿石:私はスキャナーのソフトウェアの開発をしていたのですが、ソフトウェアはアップデートできて、データをメールで送ったり、サーバにアップデートしたりすれば、瞬時に世界に送ることができます。ただ、下着や生地、素材など現物を送るとなると、輸送に時間がかかるんですね。もちろん、時間がかかることは頭では理解しているんですが、感覚ではつかめなくて、スケジュールを組む時にその時間を見誤ったことがありました。アパレルの仕事をして、物流の大切さをかみ締めています。

ビハール州バーバガルプル近郊の村に作った工房Amayraのカッティングルームにて。2022年9月。

同縫製ルームにて。(同)

毎朝5Sマニュアルの確認を持ち回りで実施します。(同)

Amayra工房メンバー、Drishtee(NGO)支援メンバー、ランゴリーの生産担当内海と。(同)

「無意識に男性を立てようとしている」コンサル時代に気づいたこと

——そんなさまざまな苦労を経て、いよいよ工房が本格始動するのですね。

綿石:2022年1月から始めた、現地工房でのトレーニング期間が終わり、9月13日から本格稼働し、販売する商品の縫製を始めました。そこで縫製されたものが12月頃に日本に届き、販売もスタートする予定です。次のステップとしては、インドでの販売。日本と同じデザインでいいか、インド独自のデザインにするかなどをリサーチするために、テスト販売を予定しています。

——今回、お話を伺うにあたり、綿石さんの過去のインタビューを調べていた際にプロフィール欄に男女の役割意識の強い家庭で育つ」と書かれていたのが印象的だったのですが、今回のプロジェクトのように女性をエンパワメントしたいと思われることと関係していますか?

綿石:私の両親は飲食店を営んでいたため、夜、帰宅するのが遅く、同居している祖父母に育ててもらいました。昭和一桁生まれの祖父母なので、家長である祖父がご飯もお風呂も一番、兄は遅くまで外で遊んでいていいけれど、私は5時に帰ってきなさい、と言われて育ちました。たしかに「女の子だから遅くまで外にいるのは危ない」という祖父母の気持ちは理解しているし、愛情をたっぷり注いでもらったのはわかってはいるのですが、どこか反発心もありました。

でも、自分でも気づかないうちに、祖父母の価値観が自分の中に刷り込まれていたんです。気づいたら、無意識に男性を立てようとしている自分がいました。米国でコンサルタントの仕事をしていた時には「自信がなさそうに見える」「もっと力強くないと、部下もクライアントも納得させられない」と言われ、内面化していた価値観が、自分の可能性や実力に限界を作っていたことに気づいたんです。それから心の持ち方を変えるのに、すごく苦労しました。

帰国して、私と同じような同僚や友人を見ると、彼女たちも解放される機会があればいいのにと思うことも多いです。もしかしたら、それが女性をエンパワメントしたいという今の活動に通じているのかもしれません。

※写真はすべてランゴリー提供。

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「無意識に男性の意見を優先させようとしている自分がいた」私がインドでブランドを立ち上げた理由

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