『彼らが本気で編むときは、』インタビュー・前編

『かもめ食堂』『めがね』の荻上直子監督、“癒し系”評価に違和感「むしろ強い女性を描いてきた」

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『かもめ食堂』『めがね』の荻上直子監督、“癒し系”評価に違和感「むしろ強い女性を描いてきた」

映画『かもめ食堂』や『めがね』などで知られる荻上直子監督の5年ぶりとなる新作『彼らが本気で編むときは、』が2月25日(土)から公開されました。トランスジェンダーの女性・リンコ(生田斗真さん)を主人公に、 LGBT(性的少数者)など、日本社会の保守性や閉塞感、歪みをあぶり出している本作は、「癒し系」と形容されることの多かったこれまでの作品とは一線を画しているように見えます。今月19日(現地時間)までドイツで開催されていた「第67回ベルリン国際映画祭」ではLGBT映画を対象としたテディ賞の審査員特別賞を邦画で初めて受賞、さらに観客賞のダブル受賞を達成。荻上監督に作品に込めた思いを聞きました。

みんな“常識”にとらわれすぎている

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

——『彼らが本気で編むときは、』は、いろいろな愛のかたちや家族のかたちがあってよいと再認識させる、とても愛情にあふれた作品だと思いました。本作の登場人物たちはどのようにして生まれたのでしょうか?

荻上:この映画を作るきっかけが、思春期になったトランスジェンダーのお嬢さんに、お母さんが「ニセ乳」を作ってあげたという新聞記事を読んだことだったんです。ガツンとやられた気がして、そのお母さんのお話を聞きに行きました。お嬢さんを全面的に受け入れている感じがすごく素敵で。だから、お嬢さんものびのびと育っていらして、その関係性をこの映画にも込めたいと思ったんです。

——日本の社会のLGBTに対する偏見はまだまだ根強いと感じます。監督は20代で6年間アメリカで学ばれ、最近も1年間アメリカで生活されていたとうかがっています。米国ではLGBTの方と接する機会も多かったそうですが、客観的にみて日本で意識改革が進まない背景にはどんな原因があると感じますか?

荻上:近所の人の目とか、世間体を気にするところにつながっているのかなって思います。まわりの目を気にしすぎるところが理由としてあるかもしれませんね。“日本で言われている常識”みたいなものにとらわれすぎている。

ちょっと前に、電車の中でお化粧をする女の人を「みっともない」というポスターが話題になりましたが、私は「別にいいじゃん」って思うんですよ。その人が恥ずかしいだけで、誰かに迷惑をかけているわけではないから。でも、そういう理屈とは別に、「これはダメ」って規則として言ってしまう感じが日本で感じる「狭さ」につながっている気がします。

「世間体」に対する反発心

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

——荻上監督の作品といえば、ストレスフリーでナチュラルな生き方に憧れる人に人気の「癒し系」というイメージがあります。今回は一見、作風が変わったように見えるのですが、実は一貫して伝統的な社会通念みたいなものからちょっとはみ出してしまった人たちを描かれているように感じます。そのあたりは意識されてらっしゃるのでしょうか?

荻上:それは全然意識してなくて。今回も意識せずに脚本を書いたんですけど、プレス資料に寄稿いただいている映画評論家の方々の文章を読んで、逆に私も気づかされたんです。確かに、そういう人を描いてることが多いなって。それはきっと、自分が若いときにアメリカに行って、「英語がしゃべれないアジア人」というマイノリティとして生活しなきゃいけない、マイノリティの立場であるっていうことを、肌で感じたことがあるからだと思います。

20代後半で帰国して、30歳過ぎまで実家に住んでいたのですが、帰って来たらきたで、今度は「あの子はあの歳になっても実家で昼まで寝てる。何してるのかしら?」っていう目でみられる。近所の人の視線が刺さるのをすごく感じました。

なのに、パートナーができて一緒に住み始めると、その痛い視線から解放されるわけです。男性と一緒に住んでるっていうだけで。この感覚ってすごい日本的だなと思って。たとえば映画を撮ってないときや脚本の準備中にシングルのときと同じように昼間ふらふらしていても夫がいるっていうだけで許される感じというか……。そういう経験もあって、「世間体」に対する反発心みたいなものが常に作品にある気がしますね。

「癒し系」に違和感

荻上直子監督

荻上直子監督

——これまで監督の作品は「癒し系」と言われることが多かったと思います。それについてはどんな気持ちで受けとめていましたか?

荻上:すっごく違和感がありました。むしろ強い女性の姿を描いてきたつもりだったので。風景や撮り方、テンポといったものが「癒し」と受けとめられたことは全然悪いことではないし、感じ方は人それぞれですからいいのですが、「なんで私が人々を癒やさなきゃいけないんだ!」っていう気持ちもありました(笑)。

でも、(これまでの作品の世界は)気持ちのよい風景ではありましたよね、きっと。『かもめ食堂』ではフィンランドっていう場所がどこを切り取ってもすごく気持ちのよい風景で、見てくださった人の心にそれがすーっと入っていったのかなって、今は思います。

【後編】に続く

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