ネットに溢れる「排卵日と妊娠」に関する誤解をまだ信じてる?

ネットに溢れる「排卵日と妊娠」に関する誤解をまだ信じてる?

妊娠や出産について気になることがあると、病院を受診するよりも先に、スマホで検索してそれでわかった気になってしまうもの。

ところが、実際に調べてみると、きちんと専門家に取材したり、専門家が書いたりしている情報は、検索上位10サイトのうちわずかしかなかったと、出産ジャーナリストの河合蘭(かわい・らん)さんは警鐘を鳴らします。

「妊娠しやすい日」で検索すると…

私たちがいつも手のひらに持っているスマホは、ちょっと叩けば何でも教えてくれるとっても便利な道具。でも、そこで得られた情報の「正しさ」を、あなたはどれくらい信じていますか?

先日、私が女性のためのニュースサイト「ウートピ」に2016年9月に寄稿して以来ロングで読んでいただいている記事「『排卵日にセックスしなきゃ』はウソ?」の内容についてグーグルで検索する機会がありました。すると、上位サイトに、排卵日とその前後1日しか妊娠できないように見えてしまうサイトが半分くらいありました。

『排卵日にセックスしなきゃ』はウソ?」を読まれた方はおわかりと思いますが、自然妊娠をしたカップルを調べた研究によると、妊娠しやすい日は、月に6日もあります。そして、一番妊娠しやすい日は「排卵日当日」ではなく「排卵日の2日前」です。また、排卵が終わると妊娠率は急降下します。

このデータは、私が30名を超える専門家に取材して『卵子老化の真実』(文春新書)という本を2013年に出した時、国立成育医療研究センター不妊診療科診療部長・齊藤英和先生からやっと入手できたものです。当時、私が他の医師や文献検索を通して見つけ出せたデータは体外受精に関するものばかりで、自然妊娠のデータはどこにあるかわからなかったのです。これは、米国の国立環境衛生科学研究所の研究者たちが782組の健康なカップルの排卵と妊娠を調べたとても貴重なデータでした。

その後、齊藤先生の妊活に関する活動が広がり、このデータも専門医の間で少しずつ知られていきました。そもそも排卵日そのものが自分ではなかなか正確にとらえられませんし、基礎体温表をにらんで数日だけを妊娠可能日と考えるピンポイント妊活は、夫に「今月は今しかないんだ!」という多大なプレッシャーを与えてしまいます。

「検索はしないように」と言う医師も

しかし、スマホで妊活していると、情報の鮮度や正確さはさまざまです。

それは妊娠可能日に限られたことではなく、医療者と話していると「有効な対処方法が出ているサイトはわずか」「患者さんにはできるだけ検索しないように言っている」といった声がしばしば聞かれます。

今や、医療や健康情報に関するウェブサイトは、その不正確さが社会問題になりつつあります。問題が広く認識されるきっかけは、2016年に、大手の健康サイトが信憑性の低さを指摘されて休止となった事件です。当時の報道によると、このサイトはとても安い原稿料で外部ライターを依頼し、他のサイトに書いてあることを少し変えるという方法を多用して記事を大量作成したようです。一方、記事がうまく検索サイトの上位に上がる工夫「SEO対策」には力を注いたので検索の順位はどんどん上がり、たくさんの人が訪れるサイトになりました。

目に余る状態が明るみに出たこのサイトは、会社が第三者による委員会を立ち上げて改善に取り組みました。しかし関係者の間では、この事件は氷山の一角であるというのが大方の見方です。あれから、医療・健康情報がどれだけ改善されたかというと、少なくとも私がよく使う妊娠・出産の分野では、まだあまり変わっていないように見えます。

医師に取材している記事は10本中1本のみ

2017年12月、グーグルは日本語検索の方法をアップデートして「医療従事者や専門家、医療機関などから提供されるような、より信頼性が高く有益な情報」を上位に表示しやすくしました。

しかし問題は、そもそもグーグルの本拠地・アメリカと違い、日本語のサイトには、グーグルが「上位に表示する」と言っている「医療従事者や専門家、医療機関などから提供されるような、より信頼性が高く有益な情報」それ自体が、まだ少ないということです。

医師に取材した記事、医師が書いた記事は、あれば、信頼できる内容になっていることがほとんどですが、数が少ないし見つけにくいのです。たとえば「妊娠しやすい日」という言葉で検索した結果、1ページ目に見える上位10位までのサイトの中に(2019年1月現在)、医師に取材している記事、医師が書いた記事はそれぞれひとつずつしかありませんでした。

グーグルがこうした措置を取った以上、今後、医療ものを扱う非医療者によるサイトは、次々に医師と連携していくでしょう。そうしなければ検索の順位が落ちてしまいます。ただ、そこにも大きな問題があるのです。

産婦人科医なら誰でも妊活に詳しいわけではない

医師が関与していれば、それでよいのでしょうか。診療科の中でも、特に産婦人科は不妊治療、出産、がん、胎児診断、更年期、美容・アンチエイジングなどとてもたくさんの専門分野があります。それなのに、ネットの中では、体外受精をしたこともない医師が体外受精の記事を監修していたりするのです。また、トピックによっては医師同士の間で意見が対立していますし、独自な考え方をしている医師もいます。

本や新聞など旧来のメディアでは、記事作りは医師選びから始まります。まず記者や編集者、ライター自身が勉強してそのテーマに詳しくなり、慎重に医師を選ぶことから取材が始まるのが普通なのです。助産師さん、看護師さん、そして当事者自身にしかわからないことも多いので、必要に応じていろいろな人に会いに行きます。

ニュースサイトや新聞社の記事、書き手が実名を名乗って書いている記事なら、そのタイプの、書き手が「自分の名前を出しても恥ずかしくない」と思える中身を追求した記事を見つけることができるはずです。ページの信頼性を考える時、書いている人が誰かわかることは、ひとつの大きなポイントではないでしょうか。ブログ、口コミサイト、ツイッターも、匿名の投稿は、どんな背景を持った人が書いているのか、一般の人には調べようがありません。知らない間に商品を買うボタンに導かれる記事もたくさんあります。

「検索上位のサイト」で満足しないで

スマホの時代になって、女性が、情報に惑わされやすくなっていることは事実。

一番大事なのは、検索の上位に来るサイトだけで満足せず、いろいろなページを見ることだと思います。語学力がある方は、日本語サイトにとらわれる必要もありません。そして、頼れる記事が見つかったら、さらに、その中の気になる言葉で新たな検索をかけると、いい情報が手元にやって来ることもあります。

多くの場合、ネットはいい情報が「ない」のではなく「探し出すのが難しい」だけ。誰が誰のために作っているサイトなのかを気をつけて見ていけば、きっと頼りになるサイトに出会えるはずです。

特につわりなどで体調の悪くなりやすい妊娠初期は、横になりながらいじりやすいスマホに情報収集を依存しがちです。でも、いい情報の検索の仕方を自分なりに見つける工夫をしないと、悩みがますますこじれるリスクさえあります。本当に気になる時には医療従事者に会いに行き、リアルに情報を提供してもらう努力も忘れないでください。

(出産ジャーナリスト・河合蘭)

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