SNSやニュースを見ているとたびたび、「保育園に入れられない」「預け先がない」という情報が流れてきて、自分も産んだら同じようなことを悩むのかな……と思うこともあるはず。
でも「これからは、どこでもいいから入れたらラッキーという時代から、保育園を選ぶ時代になるはず」と、現役保育士のてぃ先生は言います。
それってどういうこと? てぃ先生に保育士が見た保育の現状と、これからの保育について聞きました。
保育士は子どもと遊ぶだけ?
——てぃ先生のツイッターが好きで、よく拝見しています。著書の『ほぉ…、ここがちきゅうのほいくえんか』(ベストセラーズ)にも癒されました。
てぃ先生:ありがとうございます。
——保育に関連するニュースを見ると「なんか大変そう」というイメージがあって。でも、それは全部外側からしか見えないもの。てぃ先生のツイートや活動を見ていると、私たちの無知が壁を作っているのかな、と考えさせられます。
てぃ先生:たしかに、「保育園落ちた」とか「保育士は低賃金」とか、ネガティブな言葉は記憶に残りやすいですよね。でも、僕としては保育士として働く中で、楽しさを感じることが多くある。そういう側面も発信したほうがいいと思っているんです。
——働いていて、現場と社会からの見え方にギャップを感じることはありますか?
てぃ先生:何かの記事で見たのですが、社会の6〜7割以上の人が、保育士は子どもと遊ぶことが仕事だというイメージを持っているとありました。国家資格の中で最低ランクの資格だと揶揄されることもあります。
でも、それは僕たちにも要因があるんだろうなと思います。講演会でもよく話すことですが、子どもを見るって、お父さん/お母さんでもできるし、近所のお兄さん/お姉さんでもできるんですよ。保育士の資格を持っていなくても子育てしている人はたくさんいますから。
——いや、そんなことはないんじゃ……。
てぃ先生:そう、本当は違うんです。確かに保育士は子どもと遊ぶことが主な仕事なんですが、その遊びには子どもの成長や発達を考えた、あらゆる工夫がなされていて、細かな計画まで立てられています。ただ遊んでいるのとは全く異なるんです。
問題は、これがオープンな情報になっていないこと。保育園/保育士側の発信が足りていないと思います。子どもを預けている保護者がようやく分かる程度で、社会には届いていません。
不満を言っているだけじゃダメ
てぃ先生:「やっぱり保育士じゃないとね」と言われるようにならないと、待遇も社会が見る目も変わりません。
保育士は、「プロとは何か」をきちんと自分たちで考え、僕らにしかできないことを社会に示さないといけない。「私たち、給料が低くて大変なんです!改善してください!」と、不満や不遇を訴えているだけではダメなんです。
——現場ならではの課題ですね。
てぃ先生:そうですね。昨今、保育士の待遇改善が少しずつなされていますが、あれは「待機児童問題」が起因となっているのであって、「保育士はすごい!」と高い専門性を認められたわけではありません。お給与が上がることは嬉しいですが、その理由は手放しで喜べるものではないんです。
また、みんな日々のことに追われていて、先のことを考えにくい環境があります。現場の保育士さんたちに10年後、20年後の自分がどうなっていたいか聞いても、答えに詰まるんじゃないかな。
最大の出世が「園長」
——将来のことを考えにくい環境にあるのはなぜだと思いますか?
てぃ先生:現状の現場は、どれだけ長い期間技術を磨いて知識を身につけても、最大の出世が園長先生だということ、それに付帯して給与にもキャップがあるところに課題があると思っています。業界全体が「諦めモード」な印象です。女性が多い業界なので、結婚や出産で離職してしまい、園長までキャリアを積めない人も多いですしね。
その中で「連絡帳を書かなきゃいけないのに寝てくれない子がいる」とか「お遊戯に参加してくれない」といったイレギュラー事態に追われたりする。他にも行事の準備や書き物など、日々の仕事をこなすことで精一杯で、自分の成長について考える時間がないという面もあるでしょう。これではモチベーションが上がりませんよね。
——もうちょっと選択肢があるといいですね。
てぃ先生:そうですね。頑張った先が園長だけじゃなくて、保育士の資格を持っているとこんな選択肢も増えると示したかったので、僕は今「顧問保育士」という名称での仕事も行っています。他の園や新規参入する企業に対して、保育の専門知識を提供するものです。
保育士は専門性を持ったプロ集団
——おもしろそうですね。
てぃ先生:前述しましたが、「子どもと遊ぶ」だけの印象を変える努力をしていかないと、今後僕らは食いっぱぐれてしまう可能性があります。今は何もしなくても、毎年子どもたちが入園してくる仕組みができていますが、新規参入する企業も増えています。待機児童問題がある程度解決され、園の数が増えてきた際には、「いい保育」をしないと選ばれません。競争化されれば、サービスも営業も頑張りますよね。他業種から優秀な人材が入ってくることも考えられます。その中でもし、あぐらをかいていたら……。
——これからは「選ばれる」時代が来るだろうということですね。
てぃ先生:はい。今は、「保育園に入れたらラッキー」という時代かもしれませんが、本来は「自分と子どものライフスタイルに合った保育園に入れる」のが理想だと思うんです。
そして、その理想は少しずつですが着実に現実へ向かっています。そのとき「選ばれる」保育園・保育士は、高い保育の質や専門性を持ったプロだと思います。前述の通り、現場の現状はそこまで考える余裕がありません。日々を滞りなく終わらせることに必死です。いかにその余裕をもつことができるか。業務の効率化や削減、ICT化など、できることは多いように思います。
現状のままで満足せず、より良い保育について考え行動し、僕らの仕事や思いをオープンにすることで、本当の意味で、子育てのプロに任せているんだと社会全体に思ってもらえるようになれば、保育に対する感情も、ポジティブに変わっていくのではないでしょうか。
(取材・文:安次富陽子 撮影:青木勇太)