日本一ちっちゃな働きかた改革 第31回 少子化ジャーナリスト・白河桃子さんインタビュー(後編)

20代女性は「産み時はない」とわかっている。新世代のキャリア戦略

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「フリー編集長」と「社畜プロデューサー」というまったく異なる立場から、ウートピ編集部というチームを運営している鈴木円香(34歳)と海野優子(32歳)。

脱サラした自営業者とマジメ一筋の会社員が、「心から納得できる働きかた」を見つけるため時にはケンカも辞さず、真剣に繰り広げる日本一ちっちゃな働きかた改革が現在進行中です。

海野P(左)と鈴木編集長(右)

海野P(左)と鈴木編集長(右)

少子化ジャーナリストの白河桃子(しらかわ・とうこ)さんに、「結婚」と「働きかた」をめぐるビミョーな関係について聞いた前編。後編では、新たな傾向が出現しつつあるという20代女性にフォーカスしてお話を伺っていきます。

30代も半ばに差し掛かり、だんだん下の世代のことがわからなくなってきた鈴木と海野P。客員教授も務める白河さんが普段大学で接している女子大学生は「結婚」について、どんなことを考えているのでしょうか?

【前編】「寿転職」が増えてるってホント? 結婚と仕事のビミョーな関係

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高学歴女性ほど「結婚と出産」が当たり前?

鈴木:前回は、社会人5〜10年目のまさにウートピ世代の女性の間で、寿退社ならぬ「寿転職」が増えているという話を教えていただきましたが、20代女性の間では、さらに新しい傾向が出てきているそうですね。

白河桃子さん(以下、白河):私は普段から女子大学生に向けてセミナーや講演をすることが多いんですが、今の20代前半の女性たちも結婚については、かなり戦略的に考えていますね。

海野P:詳しく聞きたいです!

白河:前提として、やっぱりみんな結婚したいんです(笑)。特に有名大学のハイスペ女子大学生は「結婚したい」とハッキリ言う人が多いですね。

意外に聞こえるかもしれませんが、高学歴の女性のほうがむしろ結婚して子供を持つという選択肢を現実的に考えているようです。確信的な独身主義である人を別にすれば、彼女たちには「結婚しない」「子供を持たない」という選択肢はあまりない。自分でもちゃんと稼げそうだし、大学の同級生や先輩・後輩には結婚して一緒にうまくやっていけそうな男子がたくさんいるし。だから、わりと当たり前のように「結婚して出産したい」と考えていますね。

海野P:へーー! つまり大学にいるうちに相手を見つけちゃうわけですか?

白河:自分と同じくらいの学歴、収入、キャリアがある相手と結婚する「同類婚」をしようとすると、やっぱり大学生のうちに見つけておいたほうが有利、と彼女たちは先輩を見て学習しているんです。

海野P:学習(苦笑)。

白河:私はバブル世代なんですが、20代の頃は「社会に出て自分を磨けばもっといい男に出会える!」って思ってました(笑)。大学生の頃に決めちゃうなんてもったいない! と。でも、それは大きな間違いだった……って後になって気づいたんですが。ホントに今の女子大生はしっかりしてると思いますよ。「もうこれ以上いいのは出ない」と悟っているというか。

鈴木&海野P:(私たちも白河さんの感覚に近いかも……)

白河:本人も優秀な上に、彼女のキャリアも応援してくれそうな稀な逸材を見つけて、そのまま結婚しちゃうという高学歴女子大学生が10年ほど前から出てきました。最近は「今の彼か次の彼と結婚したいです」と話す人がすごく増えましたね。さらには大学生のうちから「育児はふたりで一緒にやるんだよ」と相手をしっかり教育している猛者もいます。

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「産み時なんかない」と学習した20代

白河:学習といえば、彼女たちは「産み時」についても着実に学習してますよ。

鈴木:というと?

白河:つまり、高学歴の女子大学生は「産み時なんてない」ってわかってるんです。今の30代や40代の女性が、キャリアを積んでから35歳以降で産んで両立に苦労したり、マミートラックで仕事のやりがいを失ったりしているのを見て学習してる。または不妊治療などに苦労しているのも知っている。だから、先輩と同じ轍を踏まないように、自分たちは早く結婚して早く産むという戦略をとろうとしているわけです。先にやることをやっちゃってから、仕事をバリバリがんばろう、と。そのくらい割り切っている女子大学生もいますよ。

海野P:30代は「産み時」に迷いまくってますからねえ……。

白河:彼女たちの中では「早く結婚したい」より「早く産みたい」のほうが強いかもしれませんね。仕事がひと段落した30代半ばで産むといっても、ちょうど責任も重くなり、実際には難しくなります。ですから、キャリア志向の人ほど「20代のうちに第1子」という傾向があります。結局、彼女たちの戦略の裏側にあるのは、社会への絶望以外の何ものでもないんですが。

鈴木:最近の女子大学生は、就職活動の時から「産む前提」で企業にワーママとして働き続けられる環境が揃っているかどうかを調べると言います。

海野P:私が就活をしていた10年ほど前は、「いつか子供を持ちたい」と面接で匂わせることすら不利になるからダメっていう雰囲気でした。結婚、出産、両立みたいなワードはNGという不文律がありました。

白河:そのあたりの事情は、2009年の育児・介護休業法の改正により「育休世代」が出てきてから情報発信が劇的に増えてかなり雰囲気が変わりましたね。今の大学生は「就活で失敗したら人生、終わり」という感覚で本当にまじめに就活をやりますし、男女とも大手志向ですから、両立できる環境が整っているかどうかはかなりシビアに見ていますよ。

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「働き続けたい女性」の4タイプ

鈴木:結婚しても、子供を産んでも、働き続けるという前提が20代女性の中にはあるということですよね?

白河:トップ私大の女子大生に「将来、どんなふうに働いていきたいか?」とアンケートしたことがあるんです。結果、全体の7割が「働き続けたい」で、内訳は4割が「バリキャリで一生働く」、3割弱が「ゆるキャリで細く長く」*でした。「いつかは専業主婦」は4%、「子育てで辞めて復帰する」は6%と、キャリアを途中で離脱する可能性を考えている人は、1割ほどしかいないんです。

*ともに全体に対する比率。出典『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』

海野P:「辞めるかも……」という人が1割というのは、やっぱり時代の変化を感じます 。

白河:今の女子大学生を見ていると、働くことに対して意欲のある人は4種類に分けられます。1つ目は「母親がずっと働いていた人」。彼女たちは「働くのは当たり前ですよね」「理由なんて考えたこともありませんでした」と口を揃えます。2つ目は「経済力がなくて離婚できないという愚痴を母親から聞かされてきた人」。3つ目は「一家の働き手が途中で交代した人」。最初は父親が働いていたけれど、病気になって代わりに母親が働くようになった、とか。4つ目は奨学金を借りている人ですね。

以上の4タイプは「働くのは当たり前」という軸がしっかりあります。

鈴木:そういう軸のある人は多いんですか?

白河:「働くのは当たり前」という軸がしっかりある女子大学生は2、3割程度で、あとは社会の雰囲気から何となく「働き続けなくちゃいけないんだろうなあ」と諦念の域に達しているという感じかな(笑)。

鈴木:積極的に「働き続けるぞ!」って感じではまだないんですね。

白河:私、思うんです。今、私が大学で出会う女子大学生の母親は、50代の均等法第一世代。その世代の女性は結婚したらほとんどが仕事を辞めています。働き続けたのは、結婚しても子供を産まなかった人か独身の人ばかり。そう考えると、今はまだ「働く母親」の遺伝子を受け継いだ女性が社会に出てきていないんですよね。

海野P:なるほどー、そういう視点もありますよね。

白河:そう。だから、2000年代以降に出産を経験した育休世代の子供たちが社会に出てくると、またガラリと変わるかも……と考えたり。

鈴木:その子たちは「働き続ける理由」をわざわざ考えることさえないかもしれないですね。

見えにくくなってはいるけれど、女性の中で確実につながっている「結婚」と「仕事」。白河さんへのインタビューを通して、問題は山積だけど、そのなかで賢く学習してサバイブしようとする女性の姿が見えてきました。

今年5月からのスタート以来、アラサー女性の当事者目線でワークスタイルを考えてきた本連載は、年内で一度休載となります。次回は、鈴木と海野Pがこれまでの有識者会議で学んだことをまとめた総集編です。みなさま、ご愛読ありがとうございました!

【新刊情報】

白河桃子さんと是枝俊悟さんの共著『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(毎日新聞出版)から刊行されました。

購入はこちらから。

(構成:ウートピ編集長・鈴木円香)

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脱サラした自営業者のウートピ編集長・鈴木円香と、社畜プロデューサー海野Pのふたりが、時にはケンカも辞さず本気で持続可能なワークスタイルを模索する連載です。

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