ドラマにみる女友達考 #2「監獄のお姫さま」

女の友情に「裏切り」を期待してしまうのはなぜ? 「監獄のお姫さま」に見る団結力

女の友情に「裏切り」を期待してしまうのはなぜ? 「監獄のお姫さま」に見る団結力

女性の多い職場と聞くと「マウンティングが多くて面倒くさそう」「人間関係が大変そう」なんて想像してしまいますよね?

でも、それって本当なんでしょうか?

ライターの吉田潮(よしだ・うしお)さんに2017年の秋ドラマを通して女友達を考察してもらうこの企画。今回取り上げるのは、女性同士の一致団結を描く『監獄のお姫さま』(TBS系)と、片や女性の多い職場で対立を繰り返す『ファーストクラス』(2014年・フジテレビ系)です。

【女友達考1】「偶然近くにいるだけの人」との適切な距離感

オバサンたちがわちゃわちゃと結束

テレビドラマでは、男たちの一致団結は汗と涙とともに爽やかに描かれることが多い。

金や権力と闘う男たちを清々しく凛々しく見せるために、主要人物は質実剛健、清く正しく優しい人格者として描かれることが多い。また、そこに乗っかってほだされる女もよく登場する。

みんな、正義のヒーローが大好きなのだ。私は映画『デッドプール』のような、無責任で自分の欲望だけに忠実なヒーローのほうが好きだけどな。

では、女たちが一致団結するドラマはないのか。

どうしても、世間的には「女の醜い争いと足の引っ張り合い」という対立構造を求めがちなのだが、女たちが徒党を組むドラマは実は案外ある。過去の作品は文末の参照作品をご覧ください(微妙な作品も多いけれど)。

とりあえず今期でいえば、『監獄のお姫さま』だ。

元受刑者の女たち(と元刑務官)が、ひとりの女囚の無実を証明するために、用意周到な計画を練る。出所後にオバサンたちがわちゃわちゃと力を合わせて、諸悪の根源である男を誘拐拉致する事件を起こす物語だ。

といっても、基本はふざけたコメディなので、肩の力を抜いて、さらっと観るのにちょうどいい。

ドラマで女子刑務所モノといえば、「陰湿ないじめやリンチ、悲しい境遇にお涙頂戴」というが定番だったのだが、『監獄のお姫さま』は、なんか底抜けに明るくて楽しい。小泉(今日子)、菅野(美穂)、坂井(真紀)、森下(愛子)、満島(ひかり)らが一致団結する理由が、「姫(夏帆)に罪を着せた、イケメン社長(伊勢谷友介)への復讐」なのである。

男への復讐劇、女たちの友情物語

オバサンたちが純粋無垢な悲劇の姫を救うため、という動機がやや弱いと思うかもしれない。そもそも女同士で団結するには、地位や権力奪還ではない、強い目的が必要だ。

しかし、それぞれの背景をひもといてみると、根底に流れるものが同じだとわかる。小泉も森下も菅野も、男に辛酸を舐めさせられた経験がある。クズ彼や浮気夫、寄生虫のような父親など、「男への恨み節」が共通項。

伊勢谷という格好の標的を見つけた女たちは、男への恨みつらみを一緒くたにして、復讐を遂げようとするわけだ。

また、元受刑者たちは「家族や帰る家を失っている」という共通項もある。小泉は離婚が成立して、ひとり息子も新しい家族とともに暮らしている。罪を犯した者のよるべない今後という、切ない側面も垣間見える。だからこそ、女友達との結束も強くなるのだ。

さらには、「みんなオバサンである」という強みもある。若いときは、我が身可愛さで保身に走るのに一生懸命だ。これ、別に恥じることではないのよ。ある意味、若さの特権だからさ。

歳を重ねるごとに感じる「義憤」

でも、人生も中盤以降となれば、なぜか「義憤」のようなものが生まれてくる。社会に対して、世間に対して、許せないことや怒ること、物申したくなることが増えてくるのだ。

若い頃はデモや反対運動、署名運動に見向きもしなかったが、人生黄昏時に入ると、何か突き動かされたりする。オバサンになると、みな社会派になるんだよね。

通常、元受刑者同士は過去がバレるのを気にして、出所後は連絡を取り合わないと聞く。服役中でも再犯や共謀を防ぐために、極力コミュニケーションが遮断されるとも聞く。それでも「クズ男の成敗」という目標に向かって結束する、まさに女の友情物語として完成している。この結束力、ちょっとうらやましくない?

自分たちの利益を追求する仕事上での団結でもない、楽しいからつるむという快楽的なつながりでもない。女友達の冤罪を証明して、真実を白日の下にさらすという、崇高な使命によって結束しているのだから。使命感というか正義感というか。ひとりの女の名誉回復のための闘いなのだ(ま、誘拐拉致監禁は犯罪ではあるんだけど)。

一致団結といっても、相手がイケメンだけに、女たちの間でちょっとした嫉妬や女心も生じる。それはそれで、女友達の間にはよくあることだ。もしかしたら今後裏切りも発生するかもしれない。

でも、容貌だのスペックだので競い合うことに疲れた女には、このドラマがほっとできるオアシスになると思うんだよね。

ここにきて、ほろりとさせる友情シーン(出所直前の小泉に満島が語りかける名シーン)も盛り込まれているので、ぬくもりや信頼に飢えている女には、たまらない。

足を引っ張り、マウンティング&蹴落とし合い

ただし、世間が盛り上がるのは、逆パターンの女ドラマであることは間違いない。

代表例でいえば、沢尻エリカ主演の『ファーストクラス』は、すさまじかった。

会社にとっては明らかな損益になるような嫌がらせを次々と仕掛けるのが特徴的なドラマで、女たちはバカみたいに闘い、傷つき、蹴落とし合っていた

マウンティングによる順位までつけたりしてね。沢尻はいじめられてもへこたれない役を演じた割に、あまり共感を得なかったという特異な作品だった。

逆に、菜々緒の内面からにじみ出るような底意地の悪さを堪能し、ワクワクしながら観ていた人も少なくない。わかりやすいあからさまな悪意というのは、なぜか人を魅了するものだ。

実際には、そこまでの大がかりな嫌がらせやいじめをするほど、働く女は暇じゃない。でも日常に小競り合いは山ほどある。その小さな鬱憤は、悪意をデフォルメ&増大したドラマを観ることで晴らせたのかもしれない。

嫌がらせによる成功体験の末路

もし『ファーストクラス』ばりの嫌がらせをしてくるような女友達が本当にいたら、どうするか。

きっとその友達は、嫌がらせによる成功体験があるに違いない。だから、同じようなことを繰り返すのだ。そして、その友達は嫌がらせを繰り返すことで、信用も友達も着実に失ってきたはずだ。属するコミュニティからもたびたび総スカンをくらい、転々としているに違いない。

私は直接その人を知らないのだが、ある女性がまさに転々と流れ者になっている話を周囲からよく聞く。

仮にKさんとしておこう。あちこちでマウンティングや男絡みの問題行動を起こしているようで、ひとりまたひとりと犠牲者が生まれているらしい。その犠牲者たちは仕事でつながっているので、Kさんは完全なる事故物件扱いなのだ。

信用も女友達も仕事も失っているのに、Kさんだけがその事実に気づいていない。SNSでは派手で華やかな虚像を映し出し続けているという。それって、かなり怖い。

女友達の間で、優劣や順位をつけることの馬鹿馬鹿しさ。それがわかっていない人は、本当の意味での女友達はできないだろう。『監獄のお姫さま』は、女友達のある種の理想形であり、『ファーストクラス』は女友達が不要な人のためのバイブルとも言える。

●女たちの「一致団結ドラマ」を観たい人には…

『黒の女教師』(TBS系・2012年)
出演:榮倉奈々、市川実日子、小林聡美

『ヒガンバナ~警視庁捜査七課~』(日本テレビ系・2016年)
出演:堀北真希、檀れい、知英、高梨臨、YOU、大地真央

『問題のあるレストラン』(フジテレビ系・2015年)
出演:真木よう子、松岡茉優、二階堂ふみ、高畑充希、臼田あさ美

『黒い十人の女』(日本テレビ系・2016年)
出演:成海璃子、トリンドル玲奈、佐藤仁美、水野美紀、若村麻由美

『女囚セブン』(テレビ朝日系・2017年)
出演:剛力彩芽、山口紗弥加、平岩紙、トリンドル玲奈、橋本マナミ、安達祐実、木野花

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