朝起きたら骨盤まわりが重くて痛い、デスクでパソコンワークに集中した後に立ち上がったら腰がずきっと痛む、といったことはありませんか。
理学療法士、鍼灸師でアース鍼灸整骨院(千葉県市川市)の仲川豊基(なかがわ・とよき)院長によると、「骨盤まわりの筋肉や関節が硬いと、同じ姿勢が続いたときに腰にも痛みを感じやすくなります。日ごろから柔らかく保つようにしましょう」ということです。
そこで硬さをチェックする方法と、続けやすいセルフケアについて教えてもらいました。
「立って前かがみ」で柔軟度をチェック
はじめに、「立位体前屈(りついたいぜんくつ)と呼ぶ前かがみを行い、自分の骨盤の周囲がどのぐらい硬くなっているかをチェックしましょう」と仲川さん。その方法は次の通りです。
床に骨盤の幅程度に両足を広げて立ちます。膝(ひざ)を伸ばしたままで上体を前に倒し、床に向かって指先をおろしていきましょう。
さて、指や手は、どこまで床についたでしょうか。
A.指先が床に着かない:かなり硬い。腰痛になる、また腰痛が悪化する可能性が高い。
B.指先がなんとか床に着く:最低限の柔軟性が確保されている状態。Aほどリスクは高くありませんが、疲れや体調、また年齢とともに硬くなっていくため、注意が必要です。疲労や運動不足、加齢などでこれ以上硬くなると、腰痛になる確率は高いでしょう。
C.指が余裕で床に着く、あるいは手首まで着く:柔らかい。現状では心配いりませんが、これまで柔らかかった人が短期間で硬くなった場合、腰痛のリスクが最も高くなります。現状維持を心がけましょう。
この結果、AとBの場合について仲川さんは、「Cの状態になることを目標としてください。そのためには次の要素が必要です」と、具体的に5つのポイントを挙げます。
(1)背中の筋肉と背骨が柔らかい
(2)股関節が柔らかい
(3)おしりの筋肉が柔らかい
(4)ふとももの裏(ハムストリング)の筋肉が柔らかい
(5)ふくらはぎの筋肉が柔らかい
その上で、これから紹介するストレッチ後の目標として、「Aの人は、床に指先がついて5秒キーブできるようになることです。Bの人は、指先が余裕ですっと床に着いて、ふとももの裏が痛くないかどうかです」と仲川さん。
続いて仲川さんは、腰が痛くなる要因について、こう説明を続けます。
「AとBの場合は、上の5つのどれかが不十分と考えられます。日ごろの動作では無意識に、不十分な点をそのほかのポイントで代償しているのでしょう。
(1)~(5)はすべてつながっています。骨盤や腰の周りは上半身と下半身をつなぐ要で、動きが大きいため、どこかのポイントが不十分だと骨盤や腰が過剰に使われて疲労が蓄積していきます。
特に、(2)の股関節と、(4)のふとももの裏が硬いとそれが強くなります。
また、睡眠中やデスクワークの時間が長いときなどは、体の同じ部分に負荷がかかってその周囲の血流も滞りがちになります。ぱっと違う動作をしたときに骨盤や腰に負担がかかって痛みを感じるでしょう」
体が硬いことは、そういった痛みにつながるということです。
骨盤まわりを柔らかくするストレッチで代謝もアップ
骨盤の周囲が柔らかくなった場合のメリットについて仲川さんは、「腰痛の改善、予防に加えて、股関節と腰の骨の動きが大きくなるので、代謝もアップします」と話します。ではここで、そのためのストレッチ法を仲川さんにレクチャーしてもらいましょう。
<壁に寄りかかり・足ストレッチ>
壁を背に、壁から20~30cmほど離れて足を肩幅に開いて立ちます。上体を前に倒しながら、おしりを壁に軽くつけて寄りかかりましょう。次に、かかとで体を支えるようにしてつま先を持ち上げ、前かがみになって手で足首を持ちます。無理な場合は、手の指先でつま先をつかみましょう。全身の力を抜き、上半身の重さを利用して体を伸ばし、自然呼吸で10~15秒キープ。その後、元の姿勢に戻ってひと呼吸おきます。これを3~5回ほど繰り返しましょう。
ふとももの裏とふくらはぎの筋肉がよく伸びるのを感じるでしょう。壁とおしりの距離が近いほど、ストレッチの際に体にかかる力が強くなりますが、いずれも壁に寄りかかっているので、安全に行うことができます。
<イスに座って足上げ前かがみ・おしりのストレッチ>
イスに浅く腰をかけて、右の足を左のふとももの上に乗せます。背筋を伸ばし、上体を前へ倒しましょう。そのまま自然呼吸で10~15秒キープし、元の姿勢に戻ります。次に左右の足を替えて同様に行いましょう。左右を1回として3~5回ほど繰り返します。
足を上げたほうのおしりの筋肉が伸びるのがわかるでしょう。
<イスに座ってひざ抱え・背中、腰、おしりのストレッチ>
イスに浅く腰をかけ、右の膝(ひざ)を両方の手で抱えて胸に近づけます。自然呼吸で10~15秒キープし、元の姿勢に戻ります。次に左の足も同様に行い、左右を1回として3~5回ほど繰り返します。
抱え込むほどに、背中から腰、おしりの筋肉が伸びるのを感じるでしょう。
「イスに座ってのストレッチでは、左右のどちらかのほうが曲がりにくい、痛いといったことがあれば、そちらを1・2回多く行ってください。左右のバランスをとることはとても重要です。そして、ストレッチ後に再度、最初に行った立位体前屈でのチェックを行いましょう」と仲川さん。
いかがでしょうか。目標の状態になったでしょうか。仲川さんは結果について、次のアドバイスを加えます。
「これらのストレッチでは、結果はすぐに出やすいのですが、翌日にはまた硬くなっている、デスクワークが長かったときや疲れた日は硬い、1カ月放置したらかちかちだったなど、柔軟度は日々変化します。加齢によってもどんどん硬くなります。起床時や寝る前、それにできるときにはいつでも実践し、週に2~3回は継続してください」
さっそく実践してみました。当初、指先が床まで10cm以上届かなかったのが、これらのストレッチをひとめぐりしただけで、床まですっと着くようになりました。同時に体が軽快になったように感じ、この変化には元気が出ました。しかし、1週間なにもしないと、またもや指先が床から遠くなっていました。骨盤まわりの柔軟性には、日々の継続が重要ということも分かりました。思い当たる人はぜひお試しください。
(取材・文 海野愛子/ユンブル)