「働く女性」と言うと、すぐに「輝け」だの「仕事と家事の両立ができる女性がすばらしい」と言われることが多い昨今。
「働くキラキラ女子」がメディアで取り上げられるたびに「私はできていない」「仕事と家事の両立なんて無理!」と自己嫌悪に陥ったり、不安に思ったりする人も多いのではないでしょうか?
大手化粧品メーカー「エイボン」のマーケティング本部で看板ブランド「ミッション」の商品開発を手がける関本由紀子さん(43)。31年目を迎える基幹スキンケアブランド「ミッション Y」の開発責任者で、プライベートでは8歳と5歳の2児の母です。
と、ここまで聞くと「ああ、やっぱりメディアで取り上げられるようなスーパーウーマンなのね」と思ってしまいますが……。前回は関本さんの「人の手を借りる」子育てや「仕事と家庭の両立」について話を聞きました。
今回は、関本さんの30代の頃の葛藤や失敗、仕事について聞きます。
「子どもを犠牲にしている」という葛藤
——前回、関本さんが仕事と家庭で「両立なんてできていない。いっぱいいっぱいのところでなんとか帳尻を合わせている」と聞いて安心しました。でも、やっぱり子どもを産んでも第一線で働いていらっしゃるのはすごいなと思います。
関本:いえいえ、そんなことないですよ。前の職場の話なんですが、第一子を産んで産休から復帰したときに、会社の売り上げの多くを占めていた基幹ブランドの商品担当から、開発しても製品化に結びつきにくい製品担当に変更になったんです。35歳のときでした。
商品企画という仕事は同じなんですが、商品化もすぐ頓挫するし、そんな状況だから売り上げもあまり立っておらず「あまり重要でない仕事を、子どもを犠牲にしてやっている」という葛藤もありました。会社からそこまで重要視されていない担当になり、製品も世の中に出るかわからないのに……。基幹ブランドをしょってやっている、それが自信でもあり、しっかり会社に貢献できていることが喜びだったので、虚しさばかりが募りました。
——いわゆる「マミートラック」ってやつですね。
関本:そうですね。なので、2人目を産んだ時に大学院に行くことに決めたんです。復職した時にも即戦力として認められたいと思って。そしたら「産休を取って大学院に行くなんて。ずるい!」という人もいて。
——えー、そんな……。
関本:でも、大学院も子育てをしながら通ったんですが、すごく良かったと思っています。深夜に大学院の課題をやっていたんですが、授乳で起こされたらレポートをやる、みたいな感じで。
「ママが勉強をしなくちゃいけないから起こしてくれたんだね」って思えた。子育てをしなくてはいけない時期に欲張って大学院に行っているというのもあったので、子どもの要求には応えようと思えたんです。新しいチャレンジをしたおかげで子育ての大変さが中和されたのかな。
——なるほど。それで復帰されたのですね。
関本:そうですね、私が通ったのは経営大学院だったので、MBAを取って復職しました。
“評価”って実は公平・公正なものじゃない
——すごいですね。即戦力として活躍できそう。
関本:当時勤めていた会社で、会社の幹部を育てていくための「幹部養成研修」というのがあったんですが、復職後にチャレンジすることになりました。試験に合格したら数ヶ月の幹部になるための研修を受けるんです。試験の他にも、「360度評価」もあって。
——「360度評価」って、上司や部下など仕事で関わる人が各方面から評価をするというアレですよね。
関本:そうですね(笑)。幹部になれるかどうかを評価するので、みんなの評価も普段より辛らつになるというのはあるんですが、本当に厳しくて。ただ、それで自分の悪い部分が浮かび上がったというか、普段だったら気づかない悪いところに気づけたんです。
例えば「関本さんは他責にする傾向がある」っていう評価もあって、自分としては「人のせいにしないで最後までやり遂げているって思っていたけれど、確かにどこか言い訳をしていた部分があったかもしれない」って。
——そんな辛らつに評価なんてされたら落ち込んじゃいます。
関本:評価って一見、公平とか公正に見えるけれど人の気持ちやその時の状況がすごく影響するものなので、落ち込む必要はないんです。実績そのものというよりその人の好感度が大きく左右することもあるし、その人にでこぼこがあったとしても、出ている部分が今の会社にとってメリットになるって評価する側が思えば、引き上げることもあるんです。
評価って、決して教科書通りではなくて、いろいろな要素が絡まってできあがるものなんですね。
結局、幹部養成研修は途中でリタイアすることになったんですが、それを含めていろいろなことを学べたので、自分としてはいいチャレンジだったと思います。大学院に通ったときにも実感したことなんですが、本気でやればたとえ失敗したとしても何かを学べるものなんです。
「1人でなんでもやるのが一人前」ではない
——エイボンに転職されたのは2014年と聞いています。40歳を過ぎての転職なんですね。
関本:はい。この会社ではいろいろ自由にやらせてもらっていますが、30代の失敗や学んだことが糧になっていますね。
例えば、昔は、結果を出さなきゃってがむしゃらに仕事をしていたんですが、他者のために、他者と一緒に働くという視点がないと頭打ちというのも30代で学んだことですね。
1人でがんばっているのだけだと、結局1人の枠から出られない。「部門やチーム、お客さんのためにどういうことが正しいのか?」を基準にして働いているとポッと協力者が現れる。
——「1人でなんでもやるのが一人前」って思っていました。
30代の時は自分ができないことをひた隠しにして「何でもできる」っていうような顔をしていたけれど、空回りや失敗を経て、できるところで貢献していけばいいや、得意なことを深めようと振る舞えるようになったんです。
自分自身といういか、自分の限界を知って自分では及ばない他の人々のすばらしい能力や取り組みを素直に褒めたり認めたりできるようになる。そうすると協力者が現れて、自分の能力を超えるような仕事ができるようになるんですよね。
管理職、とりあえずやってみたら?
——関本さんは管理職という立場ですが、最近は「管理職になるのは嫌」という女性も多いようです。
関本:よく言いますよね。でも管理職になれば、仕事の見え方や人への接し方が変わるし、何より自分が成長できると思いますよ。
私が所属しているチームにきちんと段取りを立てて実行している女性がいるんです。翌週に行われる重要な会議のための資料作成が間に合っていない人が数名いたので、私が「今日は会議なしにしよっか」って言ったら彼女から「そういうのは前の日に言っていただかないと困ります」って責められて(笑)。そういうことがあるたびに「ごめんごめん」って謝るんですが……。
清濁併せ呑むじゃないけれど、管理職になるとそういう人の理屈もわかるし、そうじゃない人の理屈もわかる。違う次元にいけると言うか。私も新人の時は文句言いで半径1メートルの世界でしか語っていないかった。
でも、数ステップ上に上がってみると、矛盾と戦うというか、理屈がすべてじゃない世界でどう立ち回って、どう人を説得して進めていくかを考えることが職業人としても個人としても成長を促していけるんじゃないかと思うんです。
なので、今30代でキャリアをどう積んでいこうか悩んだり、迷ったりしている人には「とりあえず逃げないでやってみたらどう?」って言いたいですね。失敗したって、視座を高く持って試行錯誤したことがすべて糧となるわけだから……。
——30代はもう失敗できない年代だと思っていたんですが、お話を伺っていて、結果として失敗したとしてもとりあえず本気でやってみることのほうが大事なんだなと思いました。
次回は関本さんが実践している効率的な仕事術について伺います。
■プロフィール
関本由紀子(せきもと・ゆきこ)。1973年生まれ。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科卒業。化粧品・香水等ラグジュアリー製品の輸入販売を行う仏系商社にてマーケティングアシスタント、大手通販化粧品会社にてスキンケア製品の商品企画担当等を経て、2014年1月エイボン・プロダクツ(株)マーケティング本部ブランドマーケティング課マネージャーとして基幹ブランドMISSIONを担当。2017年1月より同社マーケティング本部商品企画部次長。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)