組織論・中原淳さんインタビュー(最終回)

私たち管理職になりたくない。でも、7割が「なってみたら、案外よかった」

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私たち管理職になりたくない。でも、7割が「なってみたら、案外よかった」

「尊敬できる上司がいない」
「管理職になりたくない」
「がんばりが認めてもらえない」
「やりたい仕事ができない」

などなど、会社という組織の中で働く私たちが感じている煩悩の数々。

いい上司もいないし、憧れる女性の先輩もいないし、ああ、なんて私は運が悪いんだろう……。と、自分の置かれた境遇をうらめしく思ってしまうこと、ありますよね。でも、実は私たちがこうして悶々としていることのなかには、すでに研究され尽くして法則や理論になっているものも、少なくないんです。

全5回シリーズでは、人材マネジメント・人材開発を専門とされている東京大学准教授の中原淳(なかはら・じゅん)先生に、私たちが職場で感じている数かぎりない煩悩をわかりやすく解説していただきます。

「なんで、自分だけ……」と理不尽に感じていることも、あらゆる組織に見られる「法則のひとつ」とわかれば、気がラクになるかも?

最終回のテーマは「マネジメントをやりたくない」です。

第1回:「尊敬できる上司がいない」東大の先生にグチったら…
第2回:入社5年目以降の女性がやる気を削がれる本当の理由
第3回:チームがギクシャクするのは当たり前
第4回:「社会とつながる仕事がしたい」会社の中で叶うのか?

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「マネジメント、やる気ある?」と聞かれる年頃

——いよいよ最終回になってしまいました。最後の煩悩は「マネジメントをやりたくない」です。このお悩みは、アラサー以降のウートピ読者をヒアリングしていると、とてもよく聞かれますね。やっぱり、そろそろ上から聞かれちゃう年齢なんですよ、「マネジメント、やる気ある?」って

中原淳先生(以下、中原):そうでしょうね。国が進めている女性活躍推進でも女性の管理職比率はフォーカスされてますからねえ。「指導的地位に占める女性の割合を2020年までに30%にする」という目標もありますし。

——まあ、聞かれたら一応「やってみたいです」とみなさん答えるみたいなんですが、本心ではそんなにやりたくないんですよね。現場から離れちゃうとつまらなさそうだし、仕事は大変そうだし……。

中原:一般的にも「女性は管理職になりたがらない」とよく言いますよね。実際に約5000人の会社員を対象にした調査では、「昇進したい人」は男性57%、女性48%という結果でした*。これを差があると見るか、ないと見るか。

——意外に差は小さいかも……。男女ともだいたい半分。思ったより、マネジメントをやりたい女性はいるわけか……。

リーダー職は「意外にいいもんだ」

中原:しかも調べていて、おもしろいな、と思ったのが、「マネジメントをやりたくない」と言っていたとしても、実際になってみると、女性は案外「やってよかった」と思ってるんですよね。

例えば、こんなデータがあります。リーダーになってから「リーダーになってよかったと思う人」は、男性67%、女性74%*。自分中心で仕事を決められるし、転職するにしても女性で管理職経験ありだとぐーんと市場価値が上がりますしね。女性自身は「意外にいいもんだ」と感じてるみたいですよ。

——なるほど、自分では積極的にやりたいわけではなく上司から説得されたりして、しぶしぶやってみたけど、「あれ?結構いいじゃん」と。

中原:そうそう(笑)。女性の場合、「マネジメントをやってみない?」と上から言われた時、「Why me?(なんで、私が?)」と反応する人が多いんです。男性の場合、「Give me!(オレによこせ!)」なんですけどね。全然、積極的じゃない。実際、上司などに説得された「やむなく管理職になった人」は女性が32%、男性が23%というデータも出ています*。

——「やむなく」って、なんかすごくリアルな感じがします。ウートピ読者にも、「そろそろなったら?」と言われながら逃げ回ってる人が少なくありません。

中原:向き不向きもあるから、昇進のラインを踏み超えるかどうかは自分で決めればいいんだけど、踏み越えた時に見えた景色は意外に悪いもんじゃなかったよ、と。それが数字にハッキリ表れていると言えますね。

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女性にとって最大のハードルは「頭を下げること」

中原:さらに、「なってみたら、意外にいいもんだ」っていうのは、実は女性本人だけじゃないことが、データで出てきているんです。たとえば、担当する部下の間で「離職者が減った」「人間関係のトラブルが減った」「メンタルヘルスの不調が減った」「作業能力が上がった」の4つすべての項目に関して、女性のマネジャーの方がプラスの変化を起こせていたんです*。

——ほお、「女性のマネジャーって、未知数だよな……」と思っていた周囲の人にとっても「案外いいもんだ」という結果になった、と。

中原:そういうことですね。しかも、女性マネジャーの場合「つまずき」が男性よりも小さいことも調査でわかっています。

——つまずき?

中原:初めてマネジメントをすると、男女関係なく誰でもつまずくんですが、実はつまずくポイントが全然違ったんですよ。

男性は「多様性」につまずくんです。部下にワーママや外国人がいるという状況に適応できなくて、悩んじゃう人が結構いる。対して、女性は「衝突」につまずくんです*。要はいろいろ揉めごとが起きて、自分が頭を下げたりして丸く収めなきゃいけないという状況がしんどくなっちゃう

——部下が起こしたトラブルで自分があたふたしなきゃいけないのはイヤですよね。

中原:でもね、つまずきとしてどっちが深刻かと言えば、断然「多様性」につまずく方です。「衝突」なんて、たいしたことはないんです。「リーダーシップ=謝罪屋」という側面もありますから、マネジャーの役割行動として「頭を下げること」を覚えさえすれば解決します。その意味で、男性の方が深刻です。

——確かに、多様性の方が深刻化も。そもそもチームのメンバーを理解してコミュニケーションを取ることにつまずいてるということですもんね……。

女性は女性と働きたい?

中原:今回のテーマに関しては、ご紹介できるような法則や理論はないんですが、最後にもう一つおもしろいデータがあるのでお見せしましょう。「同性と一緒に働きたいか?」という質問に対する男女の差がかなり興味深いんです。

実務担当者時代、つまり役職のないペーペーの時代に、同性の上司と働きたいと思っていたか?という質問を管理職やリーダーをしている女性にしてみたところ、なんと8割が「そうは思わない/あまりそうは思わない/どちらとも言えない」と答えたんです*。

——つまり、女性は必ずしも職場に女性がいてほしいとは思っていないと?

中原:そうなんです。男性は男性と一緒に働きたいと思っているけれど、女性は同性がいいとは思っていない

——前回で「女性のロールモデルが必ずしも女性である必要はない」という話と似てますね。男性が男性と働きたいから、女性も女性と一緒に働きたいよね?という発想は、かなり男性的な感覚から生まれているのかもしれませんね。

中原:そうなんです、当の女性はそれほど自分の上司や同僚が女性かどうかは気にしていないようなんです。

これ以外にも、「女性は自己評価が低いから昇進しにくい」といったこともよく言われるじゃないですか。確かに、実際の能力よりも自己評価を低くしてしまいがちな「インポテンツシンドローム」と呼ばれる現象はあって、女性により強くあらわれるんですが、性来のものではないと思うんです。

——というと?

中原:女性は本当に自信がないんじゃなくて、「自信がないように振る舞う」ことを後天的に身につけただけなんじゃないかな、と。自信満々で自分の能力を見せつけても妬まれたりするだけで何もいいことがない、だったら、自信なんてないふりをしておいた方がトク。そういう心理が働く社会になっちゃってるというだけの話ではないかと。

——それはありますよね。女性活躍社会ということで、最近よく言われる「女性のロールモデルがない」「女性は自己評価が低いから出世したがらない」といった話も、まずは疑ってかかった方がいいのかもしれませんね。ここまで全5回にわたり、私たちの仕事の煩悩におつきあいいただき、本当にありがとうございました。スッキリ解決!とはいかないけれど、少し視野が広くなった気がします。

*トーマツ イノベーション×中原淳 女性活躍推進研究プロジェクト (2017)「女性の働くを科学する:働く男女のキャリア調査」

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