「フリー編集長」と「社畜プロデューサー」というまったく異なる立場から、ウートピ編集部というチームを運営している鈴木円香(33歳)と海野優子(32歳)。
脱サラした自営業者とマジメ一筋の会社員が、「心から納得できる働きかた」を見つけるため時にはケンカも辞さず、真剣に繰り広げる日本一ちっちゃな働きかた改革が現在進行中です。
前回、前々回と、3回にわたり、ベストセラー『ライフ・シフト〜100年時代の人生戦略〜』(東洋経済新報社)を今更ながら読んでみたふたり。
人生100年、こらから50年近くことになる30代の私たちが出した結論とは?
オンナが「今」ばかり考えてしまう理由
鈴木:普段仕事のしすぎで落ち着いて本を読む時間がなかなか取れない、「ママ・フリーランサー」と「社畜OL」の読書会も、今回が最後です。いかがでしたか? 100年生きて、60年働く心の準備はできてきましたか、海野P?
海野P:心の準備……はまだですけど、「人生、長くね?」とは思いました。
鈴木:あ、まだ、そこなのね(笑)。認識としてはだいぶ手前にいらっしゃる。
海野P:すみません。でも、これまでずっと「人生は短い! 今を楽しまなきゃ!」っていう精神で生きてきちゃったので、「人生、長くね? 今のことだけ考えてたら、まずくね?」って気づいただけでも、大きすぎる発見だったんです。
鈴木:なるほど、その社畜精神は「今が楽しければいい!」っていう刹那(せつな)主義から生まれてくるわけですか。
海野P:相変わらず言いかたがひどい……(苦笑)。でも、やっぱり人生100年になっても、女性の人生っていろいろ変えられない部分もあるじゃないですか。80歳まで働く時代でも子供が産める年齢は変わらないし、そうなると必ず子供どうする?結婚どうする?プライベートとの両立どうする?っていう問題が出てくるじゃないですか。結果、「バリバリ働ける今のうちにがんばっとかなきゃ」「仕事に100%注げる時期に成果を出しとかなきゃ」って考えちゃう。
鈴木:それは、確かにそうだよね。だから、どうしても「今、とりあえずがんばる」となってしまう女性もいるかもね。その点は、著者のリンダ先生は、何歳でも妊娠できる時代は訪れないと思うけど、女性にとっての選択肢は増えると思うよ、と書いてますね。そもそも産まない人が増えるだろうし、キャリアのために高齢で少ない数の子供を産む女性が全体的に増えるだろうと予測してます。
海野P:そんなことまで書いてあったんですね。
鈴木:例えば、本の中で世代別モデルとして紹介される架空の人物、1998年生まれのジェーン(女)さんの場合、キャリアをそこそこ積んだ30代後半から2人子供を産むんだけど、リンダさんは「遅めに産む」メリットとして、①時間をかけて相性のいい相手や仕事を探せる、②20代、30代でキャリアを築ける、の2つを挙げてる。産んだあとは、男性が仕事をセーブして育児に専念する時期があってもいいし、逆もしかりで、育児を自分でやりたいならやりたいだけやって、その期間に築いた「無形資産(家族、知識、健康など)」も生かしつつ何か新しい仕事を始めてもいいんじゃない、と。
海野P:めっちゃ自由ですね。
鈴木:ね、ホント自由だよね。日本だと、第1子出産を機に離職する「M字カーブ」がなかなか解消されない!って大騒ぎしてるけど、「ただ元の仕事に戻る」だけじゃなくて、「次のステージに進む」っていう違う視点から考えられる問題なのかも。
「就職する」ではなく「ジョインする」
鈴木:ちなみに1998年生まれのジェーンさんは、超絶自由に生きていくんです。大学を卒業後30歳まで南米をフラフラ旅しながら屋台ビジネスを立ち上げてオンラインコミュニティを作ったりしつつフリーで働き、30代半ばで初めて企業に就職。37歳と39歳で出産して60代半ばまで転職も何度かして取締役まで出世。そのあとは20代から築き続けてきたネットワークをフル活用して夫婦でいろんな仕事をしながら85歳で本当に引退。アマゾンに旅立つっていう……。
海野P:老後はアマゾン……。異次元すぎる……。
鈴木:まあ、「アマゾンで老後」はさておくとして、「30代半ばで初めて就職」とか、大学2年生から就活に勤しんでいた海野Pとしては衝撃じゃない?
海野P:いやー、それもかなりの異次元ですねー。ありえないっす。その自由さが羨ましいっす。
鈴木:こういうジェーンさんみたいな生きかたを、本の中では「エクスプローラー→インデペンデント・プロデューサー→ポートフォリオ・ワーカー」という3つのステージで説明してるんだけど、要は、単にプラプラしているように見える20代から30代前半で、自分がやりたいことや得意なことを見きわめながら人脈を築いておいて、それから組織にジョインしてもっと人脈とスキルを強化、最後はまた個人としてプロジェクト単位でいろんな仕事を手がけていく、と。
海野P:むしろ、80歳まで働く時代って、私たちの歳くらいまでじっくり模索したり冒険したりして「私がやりたいことは何?」を考えていてもいいってこと?
鈴木:そうそう。20代、30代の「冒険者(エクスプローラー)」の時期が一生を通じて軸になっていくイメージみたい。でも、こういう生きかたって、超未来系に見えるけど、ベンチャーで働く20代、30代の女性を取材してみると、すでにちらほらいるんだよね。大手企業で働く人にとってはまだ全然現実味のない働きかたかもしれないけど。
海野P:確かに。20代はフリー的な立場でウェブデザインやオンラインコミュニティを手がけて、そのあと人づてに誘われて、今、注目のベンチャーにジョイン!っていう例は、聞きますね。社員をやりながら、個人として業務委託で他の会社とも仕事をしてたり。
鈴木:そうそう。東京に限った話かもしれないけど、案外、私たちのまわりにも「未来系のワークスタイル」はすでにあるんだと思います。彼女たちを見ていると、会社には長期的に「就職する」のではなく、今の自分のスキルが活かせる段階だけ「ジョインする」っていう感覚だもんね。
海野P:「ジョインする!」カッケーなあ。
未来系を実践するには「人脈」と「スキル」
鈴木:どうですか? 海野Pも社畜プロデューサーから、この際一皮むけてインデペンデント・プロデューサーになっちゃいますか?
海野P:はっ……? これはまたいつもの「会社辞めて、フリーになろうよ!」っていう勧誘ですか?
鈴木:ふふふ(笑)。
海野P:でも、私、今回『ライフ・シフト』を読んで初めて知った未来系のワークスタイルを実践するには、「人脈」と「スキル」が決定的に足らないと思うんです。「海野優子」の名前ひとつで仕事をする自信ないもん。「ザッパラス*の海野優子」だから、ナショクラ**のみなさんや、イケてる方々と仕事ができているわけであって、どこにも所属しない「海野優子」ではムリな気がする……。
*ウートピの運営会社
**「ナショナル・クライアント」の略。全国規模で広告活動を展開する大企業を指す言葉
鈴木:そんなことないよ。有名企業の看板を外してみるのも、すがすがしいものですよ。等身大の自分についてきてくれる仕事仲間は、本当の仲間だし。看板がなくなれば、自分に「足りないもの」がすごくよくわかるから、そのつど学習して身につけていけばいい。「足りないもの」がわかるということは、反対に「今の強み」がわかるということでもあるし。
海野P:またまた(苦笑)。
鈴木:すみませんね、ついつい(笑)。
1983年生まれと1984年生まれのわれわれが、1998年生まれのジェーンさんのような未来系の生きかたができるかどうかはわからないけど、フリーで働くにしろ、会社員をやるにしろ、「個人が看板になる時代」が来るってことなんだろうね。1億総フリーメンタリティ時代(1億もいなくなってるだろうけど)、みたいな?
海野P:なにしろ、あと50年もあるから、そういう時代が来ちゃいますよね、きっと。はあ、どうしよ……(ため息)。
鈴木:大丈夫だよ! ジェーン基準なら、32歳の海野Pはまだスタートラインにいるようなものなんだから!
3回にわたり一緒に読んできた『ライフ・シフト』もこれでおしまい。次回からはウートピ働きかた改革「有識者会議」ということで、いろんなゲストの方をお呼びして、一緒に心から納得できるワークスタイルを模索していきたいと思います。今日もお疲れさまでした、海野P!
(構成:ウートピ編集長・鈴木円香)