カメラとひとり旅をこよなく愛する編集者兼ライターの宇佐美里圭(うさみ・りか)さんの旅エッセイ、今回の旅先はポルトガルです。どこか日本っぽくて懐かしい土地には、カラフルな色彩が溢れていました。
ポルトガルはヨーロッパの“日本”
リスボンほど“人を歩かせる”街はないのではないか、と思います。足裏に心地よく、いろいろなデザインが楽しい石畳、美しいタイルやパステルカラーの壁、坂道、細道、曲がりくねった道……。行き先が見えない路地ばかりだからこそ、「あの角を曲がったらどんな風景があるんだろう?」「あの坂を越えたら何が見えるのだろう?」と好奇心がわいてきて、ついつい“歩かされて”しまうのです。美しいものが街全体に散りばめられているので、お散歩はまるで宝探しのよう。
もちろん、パリの方が美しいよ、と言う方もいるでしょう。でも、リスボンはパリには決定的にないものがあるのです……。そう、あの南欧のキラキラした太陽! 大西洋から吹くさわやかな風……! あの光に照らされたパステル色のリスボンの街は、そこにいるだけで人を幸せな気持ちにしてくれます。
加えて、同じイベリア半島なのにスペインとはまるで雰囲気が違います。重厚でマッチョな感じがするスペインの建築に比べ、ポルトガルは全体的にやさしく、あたたかな雰囲気。食べ物もイワシの塩焼きを始めシンプルで美味しい料理が多く、ワインも安いのに美味! スペインに住んでいた画家の堀越千秋さんが「ポルトガルはヨーロッパの日本だよ」と言っていましたが、まさにそんな感じです。やさしいポルトガル語の音も耳に心地よく響きます。
リスボンのことを思い出すと、ついつい“サウダージ(郷愁)”があふれ、熱くなってしまいますが、それほどまでにいい街なのです。
そういえば、長距離バスに乗ってリスボンからオビドスという中世の街へ向かっていたときのこと。ポルトガルでは日本のように次のバス停を知らせる親切なアナウンスはありません。私は窓越しにじっと外を凝視し、停留所がいつくるかいつくるかと、ドキドキしながらバスに乗っていました。
やがて、「オビドスへようこそ」というそれらしき看板と停留所を発見しましたが、もっと街の中心部まで行くのだろうと、降りる体勢でそのままバスに乗っていました。
なのに、あれ? あれれ? 心なしかバスはどんどん街から遠ざかっていくような……。数分後にはいよいよ幹線道路へ出て、時速100キロ以上のスピードで飛ばし始めました。がーん。オビドスがどんどん遠ざかっていく……。
おそるおそる運転手の若い男に「もしかしてオビドス過ぎました?」と聞くと、「あ?!なんだよ、もう過ぎちゃったよ!もうここまで来たら戻れないよ!」と逆ギレされる始末……。
はい、間違えたのは私。悪いのは私。とりあえず次の停留所で降りて考えようと、席に戻りました。
しかし、しばらくするとバスは幹線道路を降りて反対車線へ。ん?あれ?もしかして逆戻りしてる……? いやいや、他の乗客もいる普通の長距離バスだし、まさかね、まさかね……と思っていると、そのまさか。再び「オビドスへようこそ」の看板が。
さすがに他の乗客もざわざわしてきました。信じがたいことですが、一人のお間抜けな外国人を目的地に降ろすためだけに、強面の兄ちゃんは逆戻りしてくれたのです。往復30分の距離です。はい、ワタシ大迷惑。ポルトガル万歳!
それからというもの、ラテンの国でバスや電車が遅れても、約束の時間に相手が来なくても、仕事がスムーズに進まなくても、決して文句は言うまいと心に誓いました。“遅刻”の裏には、いろいろな事情があるのです。
ポルトガル語通訳者の國安真奈さんにその話をしたら、「EUで落ちこぼれるのには、崇高な理由があるんですよ」。
ごもっとも!