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ひとり旅とカメラをこよなく愛する編集者、宇佐美里圭(うさみ・りか)さんのフォトエッセイ、今回の旅先は山形県鶴岡市の市立加茂水族館です。

行って後悔しない場所

海の月、と書いてクラゲ。確かに、いわゆる“クラゲ”を頭に思い浮かべると、その姿は海に浮かぶ満月のようです。

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山形県の鶴岡市に行った時のこと。お目当てはもちろん日本が世界に誇る“鶴岡市立加茂水族館”でした。ここでは50種類以上ものクラゲが飼育されていて、その数はギネスブックにも登録されています。2014年6月にリニューアルオープンされてからは、2年ほどで入館者数が150万人を突破したそう。個人的にも「行って後悔しない場所」として、強くおすすめしたいスポットです。

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私が訪れたのは、残念ながらリニューアル前でしたが、とにかくその多種多様なクラゲの姿に目が釘付けになりました。暗い水槽の中で、ただただ水に漂うクラゲたち。衝撃だったのは、クラゲには“脳”と“心臓”がないことと、“口と肛門が一緒”であるということ。さらにみずからの意思で泳いでいるのではなく、ただ“潮の流れに乗っているだけ”ということ。だから、水の流れがないと、底に溜まって死んでしまうのだそう。

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脳と心臓がないとはつまり、腸と胃が一緒になったものしかないということです。食べて、出して、子孫を残してふわふわと広い宇宙を漂うだけ。しかも自らの力ではなく他力本願で。

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ただ、そこに“いる”だけ。

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ああ、それでいいのかもしれないなあ−−。人間も、あれこれ言ったってそんなものかもしれません。何のためかはわかりませんが、そこにいるということ、そこにいたということが大事なのだ……。そして、一度でもいたら、“いなかった”ことにはなりません。

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クラゲはカンブリア爆発の前の原始的な生物だそうです。たくさんの人がつい吸い込まれるように、何十分も何時間もクラゲを見つめてしまうのは、そこに生命の本質を見るからかもしれないな、なんて思う秋の夜長です。

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宇佐美里圭(うさみ・りか)
1979年、東京都生まれ。編集者、ライター。東京外国語大学スペイン語学科卒。在学中、ペルー・クスコにて旅行会社勤務、バルセロナ・ポンペウファブラ大学写真専攻修了。中南米音楽雑誌、女性誌、週刊誌、カメラ雑誌などで働く。朝日新聞デジタルで「島めぐり」「ワインのおはなし」「花のない花屋」などを連載中。ラテン音楽とワインが好きなエピキュリアン。