内山聖子さんインタビュー 最終回

失敗より怖いのは“成功のテンプレート”に頼ること【私、失敗ばかりなので】

失敗より怖いのは“成功のテンプレート”に頼ること【私、失敗ばかりなので】

「失敗が怖い」っていうけど、よく考えてみれば失敗ってなんだろう。そんなに取り返しのつかないものなのでしょうか——。

10月に『私、失敗ばかりなので―へこたれない仕事術―』(新潮社)を上梓した、テレビ朝日でドラマのプロデューサーを務める内山聖子(うちやま・さとこ)さんに、失敗について聞くこの連載。最終回は、ドラマの制作を通じて感じることについて話していただきました。

内山聖子さん

内山聖子さん

誰かの失敗をドラマで想像してみて

——『ドクターX』の主人公、大門未知子が、束縛や権威を嫌い、専門医のライセンスと叩き上げのスキルだけを武器に突き進んでいく姿を見るのは気持ちがいいです。でも一方で、ドラマだから成り立つことだよねと諦めに似た感情を抱くこともあります。

内山聖子さん(以下、内山):だからこそ、ドラマはおもしろいんだと思いますよ。等身大の自分とは違う、この世にいそうでいない人に会えるんですから。私はいつも、ドラマの登場人物を友達だと思って見ています。腹の立つ友達もいるし、出会えてよかったと思える友達もいる。こんな生き方ができたらと憧れる人もいれば、私と同じような失敗をしているなと共感できる人もいる。

——未知子のように天才外科医として活躍していたり、逆に、人生の迷路を行ったり来たりしているニートだったり。女性の描かれ方も多様になってきましたよね。そのせいか、失敗のバリエーションも増えてきたような気がします。

内山:ドラマはフィクションですが、現実に限りなく近い世界。そこでいろいろな登場人物が成功したり失敗したりする姿から、ヒントを得てもらえたらと思っています。

未知子も時代に合わせてアップデートしているんですよ。ドラマはリアルに生きている人間が演じています。登場人物が人として歳を重ねていくのも、魅力の一つだと思っています。そこも楽しんでもらえたら、プロデューサーとしては嬉しいですね。

おもしろいものを作れなくなるのが怖い

——『ドクターX』シリーズは、第1シーズンから高視聴率をキープし続けていますよね。成功が続きすぎて、「次を作るのが怖い」と思うことはありませんか?

内山:視聴率が20%を超えたとき「これ以上はない」と思ったので、数値的な部分で怖くなることはないですね。ただ、前作で自分が「おもしろい」と思った部分をパターン化しそうになってしまったときには、恐怖を感じます。もっとおもしろいものを作らないといけないのに、ラクな方へ逃げようとしているなと……。

やっぱり自分も視聴者も、まだ見たことのないおもしろさに出会いたいはずなんですよ。それを探し続ける気力は必要だと感じています。そういう意味では、正直、シリーズ1よりも今のほうがしんどいですね。自分が手掛けた前作よりおもしろいかどうかを、常に問いかけながら作っているので。

——どこまで頑張らないといけないのか、わからなくなりそうですね。そういうときは、周りのスタッフに相談したりするんですか?

内山:脚本家や役者に「おもしろかった?」と聞くことはありますが、今となっては誰に聞いても肯定されるので、逆に孤独な気分になります。私自身もおもしろいと思って作っているので、嘘ではないと思うんですけどね。ここまでくると、もう自分と戦うしかないのかな。ずっと試練が続いている感じです(笑)。

おもしろいドラマは上手に裏切ってくれる

——内山さんはプロデューサーとしていろいろな失敗例・成功例を見てきているから、ご本人が「おもしろい」と言えば周りが賛同してしまうのかもしれないですね。ちなみに、内山さんは最近ドラマを見ていて、どんなときに「おもしろい」「つまらない」と感じますか?

内山:ストーリーが矛盾しているのは特に気にならないんですけど、パターン化しているものはつまらないですね。『ドクターX』だってそうじゃないかと指摘されそうなんですけど、あらゆるパターンを排除しなければいけないというわけではなくて、先が読めてしまうのはよくないという意味です。

一方で、上手に裏切られるとおもしろい。オンタイムで見ることも多いので、「来週まで待てない!」とそわそわします。周りからは、「プロデューサーって会食をしたり、俳優さんたちとバーで飲んだり、毎日忙しいんでしょ」とよく言われますが、私はドラマがないと生きていけないくらいドラマ好きなので、ちゃんと家に帰って見ているんですよ。

——テレビでドラマを見てSNSに感想を投稿する人も増えていますよね。オンタイムで放送を見ながらハッシュタグをつけて実況、私もよくやっています。

内山:プロデューサーとしては、「こだわったシーンだから、一旦実況をストップしてテレビ画面をじっくり見て!」と思うこともありますけどね(笑)

——すみません(汗)。SNSのほかに、ネット配信に視聴者を取られそうという不安はありますか?

内山:間違いなく数年以内には、テレビではなくネットでドラマを見る人が大半を占める状態になると思います。でもそれはツールが変わるだけの話。コンテンツがおもしろければ生き残るし、そうでなければ淘汰されます。

『ドクターX』はテレビ局で生まれた作品なので、今は、地上波のテレビでの放送を前提に作っています。でも今後、映画会社やネット配信系の会社の目にとまる可能性もありますよね。時代とともにコンテンツの提示方法が変われば、『ドクターX』も進化していく。私はこれからも、信頼できる優秀なスタッフとともに、一番いいものを作り続ける道を模索していくだけだと思っています。

(構成:華井由利奈、撮影:大澤妹、聞き手・編集:ウートピ編集部 安次富陽子)

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